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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
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第91章: 揺らぐ信仰、裂かれる忠誠

※今回の章では、イザベルとウリエラの関係に大きな変化が訪れます。

信仰と忠誠の間で揺れるイザベルの心を、ぜひ見守ってください。

イザベルは剣を滑らかに振り抜き、空気を裂く大きな弧を描いた。刃からは稲妻が迸り、振るうたびに光が踊る。


屋内の訓練場で稽古することもできた。そこなら暑さも和らいだだろう。だが今日はあえて空の下を選んだ。オルビサル教会の裏庭は静まり返り、世界から切り離された小さな孤独の場所だった。一本のサンヴェイルの木が高くそびえ、陽射しを和らげる涼しい影を落とす。刈り込まれた芝生は、彼女の足元で柔らかな絨毯となっていた。


ここなら、声も義務の重さも及んでこない。心を鎮めるためだけの場所だ。

エボンシェイドでは、彼女は崩れかけていた。信仰は揺らぎ、忠誠は絡まり、オルビサルも、ウリエラも、教会も、自分の決意さえも遠いものに感じられた。


エリアスとの戦いの後に得た新しいオーラの力は、これまで触れたことのない技への扉を開いた。すぐにでも習得せねばならない。オルビサルの試練は、いつ訪れてもおかしくないのだから。


その技は、まだノービスだった頃、師ヴァロムが一度だけ示してくれたものだった。あの時、彼女は口走ってしまった――自分には決して届かない力だと。その罰は苛烈で、深く刻まれる教訓となった。

弟子は、自らの可能性を疑ってはならない。特にヴァロムに鍛えられる者であれば。


そして今、彼女はついにその門の前に立った。ヴァロムは正しかった。彼はいつも正しかった。


成功すれば、稲妻が身体を巡り、わずかな接触で爆ぜる不安定な障壁となり、四方八方に雷光を放つ。あの力があれば、エボンシェイドで死者に囲まれた時も救われていたはずだ。


筋肉は燃えるように悲鳴を上げ、休息を求めていた。だが彼女は決して屈しない。時間はあまりに貴重だ。やがてギャラスの調査が彼女を呼び戻し、部族との戦争の脅威が残された自由をも飲み込んでしまう。訓練を欠かすことは避けられなかった。


剣を振るうと、稲妻が外殻のように弾け、彼女を包んだ。だがすぐに火花となり、儚く消えた。


ウォーデンは動きを止め、肩で息をつき、汗に濡れた顔を上げた。


ヴァロムの言葉を思い出そうとした。厳しく刻まれた教え。だが目を閉じれば、浮かぶのはデレクの顔だった。鋭く妥協のない声。最後に交わした言葉。怒りよりも軽蔑を帯びた眼差し。


死の《球体》をアリラに託した。それは皆を救うための唯一の選択だった。だがデレクは、少女の命を危険にさらすくらいなら自分が死ぬほうを望むように見えた。


――それが真実なのかもしれない。デレク・スティールは救われることなど望んでいなかった。


かすかな足音が背後から響き、思考を断ち切った。イザベルは振り返る。


大祭司ウリエラ・ヴァレンが、そびえるサンヴェイルの木の下に立っていた。黄金の葉は光を受け、神と人の境を曖昧にするかのような輝きが彼女を包んでいた。鋭い青の瞳は心を射抜き、隠れる余地を与えなかった。


【ウリエラ】「探しておりましたよ、子よ。」


その声は落ち着いており、一語一語が選び抜かれたように響いた。


イザベルは剣を鞘に収め、前腕で額の汗を拭った。そう呼ばれるのは久しぶりだった。もう口にされることはないと思っていたのに。


【イザベル】「ご用でしょうか? 訓練をしておりました。」


【ウリエラ】「ええ、見ればわかります。ですが、ここに身を隠しているのは、心に何か重いものを抱えている証でしょう。」


イザベルは口を引き結んだ。まだ語れる準備はなかった。特に心の奥で揺らいだものを、この人に打ち明けることなどできない。


【イザベル】「エボンシェイドでは……状況が複雑でした。エリアス神父は……」


言葉を探したが、どう言っても冒涜のように響いてしまう。


【ウリエラ】「報告書は拝見しました。説明は不要です。いつも通り、詳細でしたから。」

【ウリエラ】「エリアス神父を救おうとしたのは称賛に値しますが、同時に無謀でもありました。」


イザベルは身を固くした。異端者シエレリスですら同じことを言った。ただ、その言葉には毒が混じっていた。もしかすると本当に愚かだったのかもしれない。それでも、エリアスに手を伸ばしたのは唯一残された道だと感じたのだ。


ウリエラは重く息を吐いた。


【ウリエラ】「私の知るイザベルなら、決してそんなことはしなかったでしょう。迷わず斬り捨て、オルビサルの正義を示したはずです。」


イザベルは眉をひそめた。


【イザベル】「……私の知るイザベル、ですか?」


【ウリエラ】「私は心配しているのです。カシュナールと行動を共にすることが、あなたにとって本当に益となっているのか。あの男があなたに背負わせている重荷は、熟練のウォーデンですら耐えがたい。まして、まだ若いあなたには。」


胸が高鳴った。――任務を取り上げようとしているのか?

カシュナールに仕えることは人生最大の栄誉であり、彼女は全てを注いできた。デレクが不満を訴えたのだろうか?


拳を握った。いや、そんなことはしない。ウリエラを信用していない以上、代わりを望むはずがない。


イザベルは深く息を吸い、落ち着いて答えた。


【イザベル】「大丈夫です。動揺はしましたが、それはデレクとは関係ありません。尊敬していたエリアスがあの姿に堕ちていたことが……思った以上に私を乱しました。それが判断を曇らせたのです。」


彼女は頭を下げ、短く服従を示した。


【イザベル】「二度と繰り返しません。」


【ウリエラ】「憑かれた者に言葉をかけてはいけない。それは常識です。かつて司祭の衣をまとっていたとしても、人としての最後の一片は失われています。それに手を伸ばすのは、同じ破滅の道に堕ちるだけ。」


【ウリエラ】「……ウォーデンに説明が必要でしょうか?」


イザベルはさらに深く頭を下げた。


【イザベル】「ご指摘の通りです。厳しい教訓でしたが、決して忘れません。」


【ウリエラ】「あなたのためにも、そう願います。」


イザベルは息を整えた。これ以上は先延ばしにできなかった。報告書から削除しても、真実は隠せない。自分の口から語る方がよい。


【イザベル】「報告書に記さなかったことがあります。重要なことです。」


【ウリエラ】「死の《球体》のことですね。」


イザベルはうなずいた。もちろん彼女にはわかっていた。


【ウリエラ】「それが今どこにあるかご存知ですか? 報告には、エリアスが異端の教団から押収したとありましたが、生命の《球体》と共にロスメアには届けられていませんでした。」


【イザベル】「カシュナールは……その力を鎧に吸収せざるを得ませんでした。教団が放ったアンデッドのゴーレムを止める唯一の方法だったのです。その力で彼はゴーレムを倒しました。」


ウリエラの瞳が大きく見開かれた。青の中に白が鋭く浮かぶ。


イザベルは不安を隠せず、姿勢を強張らせた。


【イザベル】「死の教団はあのゴーレムをロスメアに放とうとしていました。止められない存在でした。死の《球体》でしか倒せなかったのです。」


【ウリエラ】「……死の《球体》をカシュナールが吸収したと?」


イザベルは顎を固くした。逃げずにさらけ出すしかない。


【イザベル】「ブロンズ級の《球体》でした、大祭司様。」


ウリエラの唇が開き、衝撃が走った。


【ウリエラ】「そのような《球体》の破壊力は都市への巨大な脅威です。それに、これはオルビサルの法に背く行為です。」


【イザベル】「承知しています、大祭司様。ですが彼は鋼鉄のメサイアです。鎧はその力を封じ、武器として形に変え、私たちを救いました。まるで――」


【ウリエラ】「まるで予言の通り……。カシュナールが死をもって死を打ち破る、と。」


イザベルは力強くうなずいた。


【イザベル】「その時は気づきませんでしたが、後に聖典のその一節を思い出しました。今回の出来事は、まさにその記述と一致しています。」


【ウリエラ】「その一節は曖昧で、解釈次第でどうにでもなります。ブロンズ級の死の《球体》について語られたものではありません。」


イザベルの瞳は細められた。

【イザベル】「それでも、彼がカシュナールであることを示す兆しは日ごとに増しています。評議会はどう受け止めるのでしょうね。」


視線を交わしながら、心で問いかける――あなた自身はどう思っているのか。


【ウリエラ】「あの男は制御不能です。世界に来て間もないのに、すでに鎧はブロンズ級の《球体》を吸収しました。それも死の《球体》を。」


イザベルは視線を落とした。ウリエラは知らない――それが彼にとって最初のブロンズ級ではないことを。


【ウリエラ】「評議会で彼が何をしたか、あなたも見たはずです。」


イザベルは顔を上げ、ウリエラの目を真っ直ぐに射抜いた。

【イザベル】「では、あの日にあなたがなさったことは?」


【ウリエラ】「……それはどういう意味です?」


【イザベル】「容器を皆の前で開けました。そこに《球体》がないことを、最初からご存じだったはずです。」


ウリエラの唇が驚きに開いた。

【ウリエラ】「あなたが私にそのような口の利き方をするとは……初めてですね、子よ。」


喉に塊がこみ上げる。だがイザベルは言葉を抑えられなかった。

【イザベル】「知っていたのなら、なぜ個別に彼に問わなかったのです? 評議会でさらし者にして、何を得ようとしたのです? 彼を失墜させるためでは? 彼がカシュナールでないと証明されるまで、私たちの務めは彼を守ることです。」


ウリエラは視線を落とした。

【ウリエラ】「……デレク、ですって?」


胃がきゅっと縮んだ。肩書きではなく名を口にしてしまった。舌を噛む。


【ウリエラ】「あの男との絆が、あなたを変えているのです。最初から警告した通りに。」


熱が顔に昇り、イザベルの手は剣の柄を握った。

【イザベル】「私を混乱させているのは、他ならぬあなたの行いです。彼はカシュナール。あなたは大祭司。なぜ協力できないのですか? なぜ彼を貶めようとばかりするのです?」


ウリエラは胸に手を当て、目を大きく見開いた。

【ウリエラ】「貶める? あの男は私を、オルビサルを、そして道を横切ったすべての者を侮辱してきました。評議会で全員を嘲った男ですよ。それでも私が彼を傷つけていると? あなたの目は曇っています。あのような男がどうして我らの教会を代表できるのですか?」


イザベルの唇は苦く歪んだ。

――もしかすると、彼の役割は教会を代表することではなく、癒すことなのかもしれない。


その考えは、胸を塞ぐように重くのしかかり、喉を締めつけた。異端に近い、裏切りにも等しい想いに息を奪われる。


【イザベル】「……おっしゃる通りです。彼にはできないかもしれません。けれど、私が知る彼は、出会った人々を救ってきました。借りもない、何一つ返せないような人々ですら。彼はそのために私の信頼すら失いました。私が自分の命、そしてアリラの命をかけてまで彼を救おうとしたからです。」


ウリエラの姿勢はわずかに和らいだが、目は細められ、眉が一つ上がった。

【ウリエラ】「彼が……あなたを信じていないと? 本人がそう言ったのですか?」


イザベルはうなずき、視線を落とした。

【イザベル】「彼は、自分のために誰かが犠牲になることを望みません。特にカシュナールだからという理由で。私がそれをしたことを、決して許さないでしょう。」


ウリエラの視線はわずかに和らいだ。

【ウリエラ】「だからこそ、彼はその役にふさわしくないのです。ウォーデンが命を捧げてメサイアを救うことは、この上ない名誉。それを理解できない。どうしてあのような男がカシュナールであり得るのですか?」


イザベルの唇は苦く歪んだ。

【イザベル】「その点については……母上、私も否定できません。」


【ウリエラ】「彼の振る舞いに惑わされてはなりません。確かにいくつかの予言は果たされました。しかし、それは何です? 森の猿? 彼自身が造ったかもしれぬ鎧? 本当に重要な予言は、まだ何一つ果たされてはいません。」


【イザベル】「私たちも、すべてをすでに成就したなどとは思っておりません。」


大祭司は一歩近づき、声を落とした。

【ウリエラ】「我らは、彼が何者でどこから来たのかいまだ知らぬ。我らにあるのは、彼自身の言葉のみ。」


【イザベル】「承知しています、母上。」


ウリエラは彼女の瞳をのぞき込み、内側を探るように問いかけた。

【ウリエラ】「それなのに、なぜあなたは私以上に彼を信じるのです? 何がそこまで忠誠を捧げるに値すると?」


イザベルは視線を伏せた。答えは想像以上に胸を重くした。抱え込んでも安らぎはない。吐き出すしかない。

【イザベル】「……彼が何をしたかではありません。あなたが何をしているか――それが私を彼の方へ押しやっているのです。望んでいないのに。」


【ウリエラ】「どういう意味です? 私は――」


【イザベル】「この戦争です!」

声が鋭く割り込んだ。

【イザベル】「なぜ、ジャングルの平和な部族を急いで攻めるのですか? たった一人がカシュナールを襲ったからといって、なぜ全員を罪に問うのです?」


ウリエラは黙し、ただその視線を受け止めた。


イザベルは深く息を吸い、目を伏せる。

【イザベル】「私があなたを『母上』と呼ぶのは、実の母を失った私をあなたが育ててくださったからです。そして心から、そう見ているからです。けれど、だからといって盲目ではありません。今起きていること、あなたがしていることを私は見ています。」


大祭司の表情が硬直した。

【ウリエラ】「私の行いは、オルビサル教会の至高の利益と信仰のため。私の善意を疑うのですか? あなたはどこまで私から離れてしまったのです? ……いえ、今後は『子』ではなく『ウォーデン』と呼ぶべきかもしれませんね。」


その言葉は氷の刃のように冷たく響いた。


胸の奥まで突き刺さる。イザベルは言葉を返そうとしたが、ウリエラは手を上げ、静かに制した。


【ウリエラ】「その偽りのメサイアに従いたければ従いなさい。ですが、私に同じことを望んではなりません。」


振り返らずに歩み去った。


イザベルは、その華奢でありながら威厳に満ちた背中が遠ざかるのを見つめた。


デレクは警告していた。ウリエラが自分の忠誠を疑い始めていると。彼から距離を置けと。そうしなければ、ウリエラとの絆も、教会での未来も損なわれると。


――もはや、引き返すには遅すぎるのかもしれない。

ウリエラとの関係も、デレクとの関係も、そして自分の足元で崩れ落ちていく人生も。


彼女に残されたのは、オルビサルが授けた力だけだった。その力はいまだに血管を駆け巡っていた。


イザベルはゆっくりと剣を抜き、流れるように構えを取った。チャクラを開き、刃に力を注ぎ込む。


稲妻が鋼を走り、生き物のようにざわめいた。


――もし、デレクとウリエラの対立が本物の戦争に発展したなら。

自分は、どちらの側に立つのだろうか。


剣を振り抜くと、稲妻は周囲に散り、絡み合って光の結び目を形づくり、彼女を包み込んだ。


つなぎ止められないものもある。

つなぎ止めようとすればするほど、糸はさらに張り詰めていく。


そして、張り詰めた糸は、いずれ断ち切れる。


次の瞬間、稲妻は一斉に爆ぜた。

眩い衝撃波が走り、稲光が四方へと奔った。


※イザベルとウリエラの間に、決定的な亀裂が入った回でした。

師と娘のような関係が揺らぎ、信仰と忠誠の意味が問われていきます。

次回以降、イザベルがどのような選択をするのか、ぜひ見届けてください。

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