第6章: ノード融合(ノードゆうごう)
目を覚ましたデレクを包んでいたのは、未知の森だった。
見たことのない太陽、見知らぬ空気、聞いたことのない声――
彼の旅は、新たな世界の「法則」とともに再び動き出す。
だが、その歓迎は、決して優しくはなかった。
「聞こえるか?」
デレクは眉をしかめた。こめかみにズキンと鋭い痛みが走り、思わず顔が歪む。
…だが、痛みは一瞬で消えた。
身体はふわりと浮かんでいるような感覚。暑くも寒くもなく、周囲は心地よい温もりに包まれている。
まるで、守られた繭の中にいるようだった。
――このまま、ずっと眠っていられたら。
このくらい、休んでもバチは当たらねぇだろ。
「デレク、聞こえる?」
……またその声か。しつこいな。
誰だよ、お前は?
……声はユキに似てる。
でも、どこか違う。
まさか……ヴォイス・シンセサイザーか? 誰かがユキの声を再現して、俺の眠りを邪魔してるってわけか?
くだらねぇにもほどがある。ネタ考え直せや。
……いや、待て。
――ザブン。
氷水をぶっかけられたような衝撃とともに、記憶が一気に戻る。
デレクは息を吸い込みながら、飛び起きた。まるで溺れていたかのように。
目の前に、真っ白な光が飛び込んできた。
サーチライトでも浴びてるのかってくらい眩しい。
NOVAのディスプレイはエラーとワーニングの嵐。
目を細めて、装甲の手で顔を覆う。
「デレク、聞こえる?」
【ヴァンダ】「デレク、聞こえるかしら?」
【デレク】「ああ、聞こえてるよ、ヴァンダ。」さらに目を細めながら、「このクソ眩しい光は何だ? コラール・ノードでも爆発したのか?」
【ヴァンダ】「違うわ。太陽よ。バイザー、ダークモードのままなんじゃない?」
太陽……?
いやいや、待て。そんなはずない。
たった今まで俺は、異星の巨大ピラミッドの中にいた。あの星じゃ、太陽なんて年に数回しか見えねぇはずだろ?
頭の中でコマンドを送信し、ビジュアル設定を調整する。明度が落ちて、ようやくまともに見えるようになった。
【デレク】「……まだ明るすぎるけどな。」顔をしかめつつ、「お前、今『太陽』って言った? 冗談だろ……?」
【ヴァンダ】「打ってないわ。繰り返すけど、本当に『太陽』よ。」
まばたきをしながら周囲を確認する。
【デレク】「いやいや、おかしいだろ。俺たち、あのクソでかい石のピラミッドの中にいたんだぞ? ここに太陽があるわけない。」
……ようやく、視界が開けてきた。
足元には、ゴツゴツとした岩の斜面。整ってるどころか、踏んだら捻挫しそうなレベル。
そして――
見上げれば、そこには巨大な木々。
枝はねじれ、幹にはツタが絡まり、緑は生きているかのように鮮やかで濃い。
空の高く、枝が絡まり合ってできた厚いキャノピー(樹冠)から、光が点々と降り注いでいる。
【デレク】「……おいおい……マジかよ。」
鼓動が跳ねた。
ここはどこだ。
俺は、いったい、どこに落とされた?
幻覚か? トリックか? それとも何かの仕掛け?
デレクは金属音を鳴らしながら立ち上がる。
頭がふらついたが、NOVAのセーフティ・プロトコルが作動し、身体を支えてくれる。
【ヴァンダ】「落ち着いて、デレク。」
【デレク】「ここ、どこだ。ピラミッドから誰かに引き上げられたのか?」
【ヴァンダ】「それは不明よ。約3分間、私は完全に機能停止していた。その間、あらゆるセンサー入力が遮断されていたわ。再起動後に全方位スキャンを実行したけど、認識可能なランドマークはゼロ。現在の座標は、ワーディライ(古代文明)遺跡の外縁から大きく外れている地点を示しているわ。」
【デレク】「……それ、あり得るか?」
【ヴァンダ】「私だってそう思う。でも、時間の乱れは検出していない。クロノメーターの記録では、ピラミッド内部にいたのは約15分前。あなたはその間、意識不明だった。」
天蓋の隙間から差し込む光を見上げながら、デレクはふと思った。
【デレク】「ヴァンダ、太陽光のスペクトル、解析済みか?」
【ヴァンダ】「もちろん。もう完了しているわ。」
【デレク】「恒星のタイプは?」
喉がカラカラだった。質問というより、確認に近い。
【ヴァンダ】「放射ピークは約500ナノメートル。タイプG――黄色矮星と判断されるわ。」
歯を食いしばる。
【デレク】「……俺たちがいた星は、赤色矮星だったよな?」
言ってから、ハッとした。
【デレク】「ってことは……ちくしょう、別の惑星に飛ばされたってことかよ!」
目の前のディスプレイに外部環境情報が表示されていた。大気は呼吸可能――そこだけは救いか。
…あるいは全部夢か?
一応、確認はしておこう。彼はガントレットの指をこめかみに当てた。
崖。瓦礫。雑草。
――生物反応、ゼロ。文明の痕跡もゼロ。
誰かがあの化け物だらけのピラミッドから俺を引きずり出して、無傷で、しかも別の星に転送?
バカ言え。それが可能なら神だろ。
……いや、ひとつだけ、思い当たる節がある。
【デレク】「コラール・ノードだ……!」
視線を落とし、自分の装甲を確認する。
――無い。
あのとき、確かに握ってた。閃光に包まれた、その瞬間まで。
でも今、どこにも見当たらない。
【デレク】「落としたか……?」
それなら、近くにあるはずだ。
呼吸が荒くなる。
デレクはしゃがみ込み、草をかき分け、土を掘り、岩をどかし始めた。
《ガサッ ガサッ》
額に滲む汗は、アーマーがすぐに吸収していく。
岩。葉。枝。
――でも、『それ』だけが、無い。
【デレク】「くそっ……ここまでして取り返したのに、また失くすとか……あり得ねぇだろ!」
【ヴァンダ】「デレク、伝えるべきことがもう一つあるわ。」
構わず探し続ける。茂みを払い、岩の裏を覗き、樹冠さえ見上げた。
あの形なら、フリスビー代わりにされても不思議じゃねぇ。
【デレク】「絶対この辺にあるはずだ。転送のとき落としただけだって。」
【ヴァンダ】「デレク。」
【デレク】「あんなにデカくて、カラフルで、恒星並みに発光してるやつが、そう簡単に見つからないわけが――」
【ヴァンダ】「デ・レ・ク。」
ピタッと止まる。
あの言い方は、ロクでもないニュースが来る合図だ。
【デレク】「……なんだ。」
【ヴァンダ】「落としてなんかいないわ。アーティファクトは、『ここ』にある。」
……あれ? 今回は悪いニュースじゃない?
珍しいな。ちょっと嬉しい。
【デレク】「は?……ここって、どこよ。」
【ヴァンダ】「NOVAアーマーの内部よ。」
瞬きした。
【デレク】「……なに、透明にでもなったのか?」
冗談抜きで、マジで一度チェックした方がいいんじゃねぇか……?
【デレク】「どう考えても、このアーマーの中に俺とアレが共存できるスペースなんか無ぇだろ。
光るフリスビーと同居してたら、さすがに気づくって。」
【ヴァンダ】「そういう意味じゃないの。物理的に『ある』わけじゃない。
アーティファクトのエネルギー源、振動パターン、本質、そして『ソフトウェア』と呼べそうなもの――
それら全部が、このアーマーの構造に統合されたの。
NOVAの各サブ《システム全体に、その痕跡が検出されてる。》
私にも。」
【デレク】「……お前にも? つまり、異星人のコードが、お前の《システムに入ってるってことか?」》
【ヴァンダ】「ええ、そうなるわね。」
ごくりと唾を飲み込んだ。
このジャングルでヴァンダが壊れたら――俺は完全に詰みだ。
【デレク】「で……それって、お前的にはどうなんだ?」
【ヴァンダ】「現時点で不具合は確認されてないけど……
まあ、今後どうなるかは未知数ね。予測不能。」
【デレク】「……」
顎を引き締めてうなずく。
話がぶっ飛んでいるのは百も承知。
でも、ワーディライ(古代文明)の技術ってやつは――そもそも、『不可能』って言葉が通用しない。
マジで、なんでもアリなのかもしれない。
【デレク】「……なあ、ヴァンダ。プラズマ弾って……あの時、ノードに命中したか?」
【ヴァンダ】「最後の記録では、『NO』。
プラズマ弾はあなたから数メートルの位置にあったわ。
その直後、強烈なエネルギー放出。
そして――記録は切断。
数分後、再開されたのは……ここ。」
【デレク】「その間の記録は?」
【ヴァンダ】「……完全な『暗闇』よ。」
デレクは目を細めた。
数メートル先に弾丸。
それはつまり――死まであと数ミリ秒ってことだ。
【デレク】「……ってことは、誰かが俺を救った。ある意味で。」
納得いかねぇ。
ヘルメットがなけりゃ、今ごろ頭かきむしってるところだ。
【デレク】「……マジで意味がわからん。」
【ヴァンダ】「私もよ。珍しく、完全に同意。」
その瞬間、画面のエラーが一斉に消え、白い一文が表示された:
《システム再起動中》
【デレク】「……今度は何だよ。」
【ヴァンダ】「OSが自律的に再起動を開始したようね。
自動回復プロトコルだと思われるけど……
完了するまで、私はしばらく応答できない。」
再起動が――失敗しなければ、の話だ。
もしこのまま沈黙したら、
俺はただの『人間』としてこのクソ森に放り出されることになる。
水なし。
食料なし。
地図なし。
通信なし。
【デレク】「……ああもう。じゃ、またな。」
《ピッ》
すべての出力が消えた。
ヴァンダの声も、ディスプレイも、HUDも、サウンドフィードバックも。
NOVAは、ただの金属の塊と化した。
重さ――400キロオーバー。
関節はロックされ、手動緊急レバーでも使わない限り、中から出ることはできない。
【デレク】「……いや、出てる場合じゃねぇ。」
俺はまだ生きてる。
帰らなきゃいけない。
次のノードを探さなきゃいけない。
――願わくば、今回のが最後じゃないことを祈る。
幸い、NOVAの設計には感謝だ。
再起動中でも、ライフサポートと表示系、最低限の視線移動は生きてる。
でなきゃ、暗くて酸素もない鉄棺桶で、窒息死するところだった。
頭上を見上げる。
キャノピーが厚すぎて、空も何も見えやしない。
【デレク】「……よし。再起動が終わったら、木でも登るか。」
10メートル程度のジャンプなら、NOVAのジャンプユニットで余裕だ。
上に出られれば、見えるものも変わるだろう。
そのとき、画面に新しいメッセージが表示された:
《システム復元完了。統合《システム起動準備完了》》
【デレク】「……統合、《システム?」》
続けざまに文字が現れる:
《ようこそ、SYSTEMへ》
《次元転送:成功》
《統合:完了》
《現在のオーリック・レベル:アイアン1》
《獲得アップグレード:0》
《ステータス初期化:完了》
【デレク】「……なんだよこれ。ゲーム画面かよ。」
【デレク】「ヴァンダ、戻ったか?」
【ヴァンダ】「……今、戻ったわ。」
【デレク】「調子は?」
【ヴァンダ】「妙な感覚。
OS内に、大量の新要素が追加されてる。
まるで誰かが、メジャーアップデートを勝手に入れたみたい。」
【デレク】「俺じゃねぇぞ。
……多分、犯人はあのノードだな。」
【デレク】「で、『オーリック・レベル』ってなんだ?」
【ヴァンダ】「……ええ。新たに追加された情報によれば――オーリック・レベルとは……」
《ガサッ》
その瞬間、前方の茂みが揺れた。
姿を現したのは、灰色の肌を持つ大男。
筋肉質で、黒い模様が全身に描かれている。頭は禿げていて、ボロ布と草でできた衣服を身にまとっている。
手にはねじれた木の杖――
その先端には、見たことのない動物の頭蓋骨が取り付けられていた。
男は数メートル手前で立ち止まり、
鋭い目つきでデレクを睨みつけた。
【???】「お前……何者だ?」
低く、ざらついた声。
ひとことずつ、慎重に、重たく言葉を選ぶ。
NOVAの翻訳機は難なく通訳してくれる。
デレクはゆっくりと腕と脚を動かす。
アクチュエーターがスムーズに反応し、アーマーも完璧に同期して動く。
【デレク】「よぉ。俺の名前はデレク・スティール。
たぶんお前が聞いたこともねぇ分野で、天才って呼ばれてんだ。
塩ピーナッツでもいるか? どっかにあった気がする。」
(……この原始人相手なら、余裕で対処できそうだ。うまくいきゃ、友達になれるかもしれん。)
その瞬間――
杖の頭蓋骨が、ふわりと光り始めた。
【デレク】「……なあヴァンダ? あの原始人の杖、光ってんだけど。」
【ヴァンダ】「対象から異常なエネルギー反応を検出中。警戒を推奨するわ。」
原始の男が牙のような黄ばんだ歯をむき出しにし、叫ぶ。
【???】「死ね、シャイタニ!!」
《ゴォオオッ!!》
轟音と共に、頭蓋骨の先からまばゆい光が放たれ、
巨大な火球となって炸裂――!
【デレク】「――っ!」
反応する間もなく、視界いっぱいの炎が――
デレクに、直撃した。
翻訳注記
※本作は英語からの翻訳です。細心の注意を払って翻訳・編集を行っていますが、誤りや不自然な表現が含まれている場合があります。ご了承ください。
✉️ 感想、ぜひ聞かせてね!
「ここの表現ちょっと変かも?」とか「もっとこうした方が読みやすいかも!」と思ったら、気軽にコメントしてくれるとすごく嬉しいです☺️
あなたの一言が、大きな励みになります!