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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
56/97

第56章: ノヴァ・アセンダント、覚醒――そして襲来

※ご閲覧ありがとうございます!

今回の章では、ノヴァの新たな力がついに“覚醒”します――しかし、それに伴い、かつてない危機も迫ってきます。

デレクは《破壊者》なのか、それとも……?

よろしければ最後までお楽しみください!

デレクは頭の両側に手を当てて、乱暴にかきむしるように振った。

うるさい思考をなんとか振り落としたかった。


【デレク】「なんだったんだよ、今の……ノヴァ・アセンダント? 冗談か?」


イサラは不安そうに膝の上で手をもじもじと動かしていた。


【イサラ】「ご、ごめんなさい……ほんとに、何もしてないの……!」


デレクは床に転がっていたリペアボットのひとつをつかみ、彼女の目の前に突き出した。


【デレク】「こいつがなんかやったんだ。お前のせいじゃねえってのはわかってる。てか、こいつがノヴァでやらかすのもこれが初めてじゃねえしな」


イサラは少し安心したように、かすかに微笑んだ。


デレクはそのボットを手の中でひっくり返し、目を細めてじっくりと観察した。

昔はもっと小さくて軽かった。あの呪われたガルキオンVに持ち込んだ頃は、な。

今はアームやモジュールが増えすぎて、もはや自作改造機に見えた。


「ヴァンダ」によれば、そいつらのアップグレードは電子レベルで連動していて、

まるで設計図でもあるかのように段階的に進化してるらしい。


設計図ってなんだよ。

この惑星が存在してることすら最近知ったってのに、どこからそんな情報拾ってんだ?


【「ヴァンダ」】「一体を分解して調べてみるのは、いかがでしょう」


デレクは眉をひそめた。


【デレク】「分解って……「ヴァンダ」、お前な。元に戻せる自信ねえぞ。ってか、こいつについてる部品の半分、俺ですら用途不明だぞ」


【「ヴァンダ」】「終わったら、別のボットに再構築させればよいのでは?」


デレクは首をかしげた。

まあ、理屈としてはアリだ。

自分たちで勝手に改造してきた連中なら、逆もできるってか。

こいつら、ノヴァの拡張だけじゃない。魔力の計測やら、解析やら……思ったよりいろいろやってる。


下手したら、この世界の仕組みそのものに関わる「答え」を、こいつらが握ってるかもしれない。

間近で見てみる価値はある――興味本位で済むなら、の話だが。


デレクは首を振った。


【デレク】「やめとく。前にアイツらを囮に使ったときの件、まだ根に持ってる気がしてな……

分解なんかしたら、あとでどんな仕返しされるか……知らねえけど怖ぇわ」


彼は長く息を吐いた。


【デレク】「まずはノヴァをまともに動く状態に戻す。それからだ。救世主だの《球体》だの、コラール・ノードだの――後回しでいい」


リストはどんどん長くなる一方だ。


【「ヴァンダ」】「では、どこから始めましょうか?」


デレクは無精髭の顎を掻きながら言った。


【デレク】「ノヴァがちゃんと機能してるか確認しないとな。動作は問題なさそうだが、戦闘時の挙動は見ておきたい」


【「ヴァンダ」】「……私の診断では不十分と?」


デレクは目を回した。


【デレク】「そりゃな。OS丸ごと書き換わってんのかもしれないし? 悪いけど、でかいモンスターやら強化暗殺者やらと素で戦う気はしねえんだよ。実戦前にテストくらいさせろ」


イサラが口を開いた。声はまだちょっと震えている。


【イサラ】「だったら……シミュレーターでもう一回やってみる?」


デレクは軽くうなずいた。


【デレク】「いいな。それでいこう」


【イサラ】「わかった! すぐ準備するね!」


彼女はパッと笑顔になって、くるりと踵を返して研究室を飛び出していった。


あいつは……まあ、有能だ。間違いない。

ただし――ノヴァに手を出す時は、あの魔法グッズ以外を使わせるな。

普通のドライバーなんか突っ込まれたら、炉心爆発で全員蒸発だ。


イザベルが研究室へと入ってきた。ツンガがその後ろをついてきて、警戒しながら辺りをぐるりと見回す。


【イザベル】「ノヴァの状態はどうですか?」


デレクは肩をすくめ、息を吐いた。


【デレク】「判断しかねるな。「ヴァンダ」は「動作に問題なし」って言ってるが、俺としては実地テストしたい」


【ツンガ】「ふむ……」


喉の奥で低く唸るように声を漏らした。


デレクが眉を上げてそちらを向く。


【デレク】「どうした、ジャングルの賢者さんよ?」


【ツンガ】「起きたこと……わかる」


【イザベル】「まあ! 本当に? あなた、デレクよりその鎧に詳しいとでも?」


ツンガは首を横に振った。


【ツンガ】「違う。俺は……精霊を知ってる」


イザベルは一瞬デレクの方に視線を送る。


【デレク】「ほう。で、その精霊とやらが、ノヴァに起きてる変化に関係あるってか」


ツンガは真剣な表情でうなずき、ノヴァを指差す。


【ツンガ】「悪魔。目覚めてる」


イザベルは苦笑する。


【イザベル】「世界を滅ぼす「悪魔」の話? まだそれをデレクのことだと思ってるの?」


デレクは軽く笑いながらツンガの肩を叩いた。


【デレク】「安心しろ、相棒。世界を壊す予定なんざ一切ない。けどさ……お前がジャングルで吸ってるアレ、一回俺にも分けてくれないか? 一緒に旅してたら、さすがに興味出てきた」


彼は茶化すように肩をポンと叩いた。


ツンガは無表情のままデレクを見つめ、白くなるほど杖を握りしめていた。


――今日はいつにも増して変だった。


ツンガが一歩前に出ると、デレクの手首をガシッとつかんだ。

その握力は、見た目通りの野生の強さを持っていた。


【ツンガ】「……精霊、俺に話した」


【イザベル】「……それは、よい知らせですね」


ツンガは彼女に冷たい視線を向ける。

その瞬間、イザベルの表情から笑みが消えた。


デレクは眉をひそめる。


【デレク】「何かあったのか? お前とあの猿で喧嘩でもしたのか?」

(テレパシーで会話する巨大な猿。誰がどう考えても狂気だ)


ツンガはデレクに向き直り、息を吸い込んだ。


【ツンガ】「精霊、言った。お前、世界壊す。

……俺、否定した。「デレク、そんなやつじゃない」って。

でも精霊、こう言った。「本人は……わざとじゃない」と」


その言葉と共に、ツンガの顔に悲しみがにじむ。


デレクは一歩引いた。


【デレク】「それで……今度は「うっかり」世界を滅ぼすって? 意図的じゃないけど、結果的にやっちまうと。

マジかよ、やっとその話から解放されたと思ったのに、また振り出しか……」


イザベルが真顔で割り込む。


【イザベル】「でも、そんなことってあり得るの? クリスタルのグラスを割るのとは違うのよ、ツンガ。

相手は「世界」よ。あなたの言ってること、おかしいわ」


【ツンガ】「……獣の精霊、見せた。映像。

ノヴァの力。お前の頭の力。強くなる。もっと、もっと。

……でかくなって――最後は、何も残らない。

止められない。

あとの意味は……わからん」


デレクは腕を組んだまま、目を細めた。


【デレク】「……なら、なんで俺を殺さなかった?

チャンスならあっただろ。ジャングルであの暗殺者に襲われたとき、見てるだけでよかったんだ。

俺が死ねば、全部解決だったろ?

お前とそのモンキー、また仲良くできたかもしれねえのに」


彼は両手を広げて声を荒らげた。


【デレク】「なあ、一度でいい。教えてくれよ、お前のそのツルッとした頭の中で何が起きてるのか!」


ツンガはしばらく黙ったまま、デレクを見つめていた。


デレクが踵を返そうとしたその瞬間、ツンガがようやく口を開いた。


【ツンガ】「……破壊。命の一部。

壊さなきゃ、新しいもの、作れない。

終わり……全部、悪いとは限らない」


【デレク】「……つまり、俺が全部ぶち壊しても、それが良い未来に繋がるかもって思ってんのか?

俺を殺さなかった理由、それだけかよ?」


ツンガは息を吐いた。


【ツンガ】「わからん。まだ。

……俺は、お前を見る。

悪が見えたら、止める。

それまでは……運命だ。

獣の精霊……きっと、見る。

いつか……理解する」


イザベルはじっとツンガを見つめていた。

その手は剣の柄に添えられ、額には深いしわが刻まれていた。


デレクは思った。

この女も、この男も、信頼できる。

だからこそ、仲違いはさせたくない。


でも――どうにもならないこともある。


ツンガが本気で敵と判断すれば、イザベルは止めないだろう。

そして俺も、黙って見てるつもりはねえ。


【ツンガ】「……精霊、最後に言った。もう二度と……語らないと。それが、最後の言葉だ」


イザベルはゆっくりと手を柄から離し、視線を伏せた。


【イザベル】「……そう。悲しいですね。ツンガ……ごめんなさい」


デレクは額を押さえ、目を閉じた。


【デレク】「……くそ。……俺も……悪かったな」


彼は目を開け、二人を見た。


【デレク】「……すまん。俺といると、ろくなことがない。近づけば近づくほど、ろくでもなくなる」


イザベルが何か言おうとしたが、デレクは手を上げて止めた。


【デレク】「イザベル。

……ユリエラが、ツンガの言う「精霊」と同じこと言い出すのは、時間の問題じゃないのか?」


イザベルは困惑したように眉をひそめた。


【イザベル】「な、何の話? 私は……私はユリエラ様の命令に従ってるだけよ!」


デレクは寂しそうに笑った。


【デレク】「本当にそう思ってるのか?

お前が俺にやってること全部が、ユリエラの「ご意思」だと?」


彼はゆっくりと首を振った。


【デレク】「彼女はお前を見てる。お前の忠誠心が、どこに傾いてるか……気づいてる。

結論を出すのは、きっともうすぐだ。

でもな、まだ遅くない。戻れる。

「正気に戻った」って言えば、あの女、きっと許してくれるさ。

『あいつがクソ野郎だって気づきました』って、な?」


イザベルは拳を握りしめ、顎を強く引き締めた。

その姿は、戦場に立つときのそれだった。


【イザベル】「……あなたの言ってることは理解できない。

あなたはカシュナール。ユリエラ様は、私があなたの盾となることをお許しくださった。

きっと今も、私を誇りに思ってくださっているわ。

私は、神聖な使命を――」


デレクは彼女の目をじっと見つめ、やがて視線を逸らした。


……信じてるのか?

信じたいだけか?

――もう、どっちでもいい。


彼女はすでに選んでいた。


【デレク】「……好きにしろよ。

でもな、全部が崩れたときに思い出せ。

「俺は何もしなかった」なんて言うなよ」


イザベルはまっすぐに彼を見返す。


【イザベル】「ええ。

でも、覚えておいて。

私の選択の責任を、あなたが背負う必要はない。

ツンガでもない。

それは――私のものよ」


ツンガは鼻を鳴らして背を向け、研究室を出ていった。

石の床に杖の音だけが、コツコツと鳴り響いていた。


デレクは深く息を吐いた。


……この星を出なきゃならない。

破壊者にならずに済むかどうかはわからないが――

もう、十分すぎるほど周囲の人生を壊してきた。


イサラが勢いよく戻ってきた。

顔は満面の笑みで、くるくるした髪が爆発したみたいに膨らんでいた。


【イサラ】「シミュレーター準備オッケー! 合図くれたらスタートするからねっ!」


デレクは思わず笑った。

……さて、「ノヴァ・アセンダント」ってやつが何者なのか、確認してやるか。


―――


ノヴァのアーマーに包まれた自分の手を見下ろし、デレクは指を一本ずつ動かしてみた。

動作はスムーズだった。


見た目には、何も変わらない。

新しいノヴァ・アセンダントは、外観だけなら旧式と完全に同じだった。


シミュレーターの部屋は、四方に何十メートルも広がっている。

床と天井には、間隔を揃えて魔力石が埋め込まれており、不規則なリズムで淡く脈動していた。

まるで異星のスーパーコンピューターのLEDパネルのようだ。


動作原理?

考えるだけで三次元の脳がひっくり返りそうだったから、すでに放棄済みだ。


【デレク】(わかんねーけど、今のところ俺を殺しに来てないし、それで十分だ)


ガラスの向こうでイサラが親指を立てた。

デレクは軽くうなずき返す。


視界が水面のように揺らぎ、世界がねじれていく。

枝。松葉。木々の幹――


次の瞬間には、彼は松林のど真ん中に立っていた。

イサラも、制御室も、どこにもなかった。


【デレク】(……松? ここ、地球か? ……んなわけねーか)


人間向けに環境が調整されたのか?

それとも人類の手が先に入り、後から《球体》ぶん投げたやつらが乗っ取ったのか?

……知らん。多すぎる。


今は、こっちに集中だ。


上空の枝が風に揺れ、光る目を持つ小さな生き物たちが枝の間を跳ね回る。


現実にしか見えなかった。

これが幻影魔法ってやつなら……テクノロジーは、子供のおもちゃだな。


数歩進む。ノヴァは完璧に追従する。

枝が足元でパキリと折れ、赤いスーツの光が周囲の闇を鈍く照らした。


周囲の生き物たちは、一定の距離を保ちつつ、ずっとこっちを観察していた。


【「ヴァンダ」】「センサー情報がなければ、本物の森と見分けがつきません」


【デレク】「ああ。俺たちのニューロシミュレーターなんか、まるで幼児向けだな」


【「ヴァンダ」】「ですが……少々奇妙です。まだ敵は出現していないのに、内部の数値が通常を逸脱しています」


【「ヴァンダ」】「エネルギー値が不安定にスパイクしています。まるで――蓄積しているように」


デレクは足を止め、反射的に構えた。


【デレク】「もし何か起きたら、止められるのか?」


【「ヴァンダ」】「いいえ。イサラによれば、内部からの停止手段は《施設の破壊》のみです。

外壁には、魔法も物理兵器も無効化するシールドが張られており、プラズマキャノンにも耐えるとされています。

外部からであれば、イサラが停止可能です」


【デレク】「なら、イサラに連絡しよう。なんか、嫌な感じがする」


【「ヴァンダ」】「……デレク。イサラの反応が検知できません」


【デレク】「……イサラ! おい、聞こえてるか!? こっちは異常値が出てる!」


……返事はなかった。


【「ヴァンダ」】「非常に不穏です」


風とは違う、鋭く乾いた音がすぐ近くで鳴った。


デレクがゆっくりと振り向くと、さっきまでいた小動物たちの姿が消えていた。

森全体が、何かを潜ませているような「静けさ」に変わっていた。


【「ヴァンダ」】「何かが、シミュレーション内部に侵入しました。強いエネルギー反応を検出しています」


【デレク】「……ああ。そういう展開か。

イサラが「本番」のシナリオを始めたってだけだろ、多分な」


喉がカラカラだった。唾を飲もうとしても、うまくいかない。


右手側で、大きな枝がバキリと音を立てて折れた。

ミニマップに赤い反応が出現する。


デカい。明らかに規格外だ。


(あのバカ、どんな怪物選んだ……?)


モミの木のような巨大樹がドサッと倒れ、松葉と土埃が巻き上がる。


そして、その「何か」が姿を現した。


金属と肉体、そして電子回路が融合した、巨大な怪物。


頭部はその巨体に埋もれかけており、人間の頭蓋骨のようにも見える。

黒い液体が空洞の目から滴り落ち、体中に不気味なチューブが蠢いていた。

両腕は筋肉と機械の融合体で、動きが不気味なほど滑らかだ。


【デレク】「……嘘だろ」


同じだ。

あのピラミッドで遭遇した「アレ」。

ノードが暴走して、この世界に吹き飛ばされた時の――


まったく同じ「それ」。


【「ヴァンダ」】「デレク、これは一体……?」


【デレク】「知らねぇよ! イサラ! おい、イサラ!! 聞こえてるなら応答しろ!」


その怪物は歩み寄り、一本の松を軽々と薙ぎ倒した。


【デレク】(なぜ……あの《ワーディライ》の守護者がここに? こんな再現、可能なはずが……)


【「ヴァンダ」】「エネルギー値、限界突破。もはや計測不能です」


【デレク】「……でもこれは、シミュレーションだろ?」


【「ヴァンダ」】「理論上は。ですが、あの攻撃を受けたら――意味はありません」


心臓が爆発しそうだった。

迷ってる暇は、もうない。


――これが、ノヴァ・アセンダントの「初陣」だ。


デレクは即座にプラズマキャノンを展開した。


照準インターフェースに、未知のアイコンがずらりと並ぶ。

どれも見たことがない。意味不明な色、形。


【デレク】(解析は後だ。今は、撃つ)


引き金を引く。


双発のプラズマ弾が一直線に怪物へと撃ち込まれる――


――だが、弾は弾かれた。


命中したにもかかわらず、プラズマは無力だった。

一発は森の奥へと消え、もう一発はシールド外壁に直撃し、無害な閃光を放っただけだった。


《熱電ダメージ、無効化》


【デレク】「……今の、通知か? こんな仕様、前回のシミュレーションじゃなかったぞ」


【「ヴァンダ」】「構成に変更がある可能性があります。注意を」


【デレク】「ちっ……!」


丸太がこちらに飛んできた。

デレクはすんでのところで横に飛び、ギリギリで回避。


さらにプラズマ弾を二発撃つ――だが、またも無効。


【「ヴァンダ」】「弾かれました」


怪物が唸った。低く、機械的な怒号。

森の木々が震えた。


黒いチューブを構えた怪物が、粘性のある黒い液体を噴射してくる。

デレクは跳ね退いた。

液体が地面に落ちた瞬間、ジュウゥゥ……という音と共に泡立つ。


【デレク】「……これ、知ってる。ピラミッドで見たやつと同じだ」


彼はすぐに後退した。


だが、次の瞬間――


地面の液体から、手が飛び出した。


【デレク】「ッ!」


足首を掴まれた。


怪物が転移してきたのだ。あの粘液を使って。


二本目の腕が飛び出す。

黒い沼のような液体から巨体がせり上がり――


【「ヴァンダ」】「デレク、回避を――!」


無理だった。


見上げると、すでに怪物は目の前にいた。


無言で手を伸ばし――その巨大な掌が、デレクの首を鷲掴みにした。


《圧力異常》

《構造破損》

《酸素供給、停止》


警告が次々とディスプレイに走る。


喉が締めつけられる。

酸素が、入ってこない。


【デレク】(クソ、クソッ……!)


ノヴァの装甲――ニュートロン鋼が、紙みたいに潰れていく。

その中に、自分の首があるという現実が、やけに鮮明だった。


【デレク】(……やるしかねえ)


プラズマブレード、起動。

全アクチュエーターを最大出力に設定――振り下ろす!


閃光。火花。

ブレードが怪物の腕に斬り込む。


――だが、浅い焦げ痕が残るだけ。


握力は、びくともしない。


怪物が呻き声を上げる。怒りだ。苦痛ではない。


心拍数が跳ね上がる。

視界が狭まる。

思考が、回らない。


――死ぬ。


【デレク】「イサラァッ!!!」


声はかすれ、喉から無理やり絞り出された。


【デレク】「イサラ! 応答しろ、クソッ……!!」


……返事は、なかった。


金属がきしむ音。

喉を押し潰す、圧倒的な力。


――それだけが、世界だった。

読了ありがとうございました!

シミュレーターなのにマジで死にかけてるデレク……ツッコミどころ満載だったかも?笑

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