第56章: ノヴァ・アセンダント、覚醒――そして襲来
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今回の章では、ノヴァの新たな力がついに“覚醒”します――しかし、それに伴い、かつてない危機も迫ってきます。
デレクは《破壊者》なのか、それとも……?
よろしければ最後までお楽しみください!
デレクは頭の両側に手を当てて、乱暴にかきむしるように振った。
うるさい思考をなんとか振り落としたかった。
【デレク】「なんだったんだよ、今の……ノヴァ・アセンダント? 冗談か?」
イサラは不安そうに膝の上で手をもじもじと動かしていた。
【イサラ】「ご、ごめんなさい……ほんとに、何もしてないの……!」
デレクは床に転がっていたリペアボットのひとつをつかみ、彼女の目の前に突き出した。
【デレク】「こいつがなんかやったんだ。お前のせいじゃねえってのはわかってる。てか、こいつがノヴァでやらかすのもこれが初めてじゃねえしな」
イサラは少し安心したように、かすかに微笑んだ。
デレクはそのボットを手の中でひっくり返し、目を細めてじっくりと観察した。
昔はもっと小さくて軽かった。あの呪われたガルキオンVに持ち込んだ頃は、な。
今はアームやモジュールが増えすぎて、もはや自作改造機に見えた。
「ヴァンダ」によれば、そいつらのアップグレードは電子レベルで連動していて、
まるで設計図でもあるかのように段階的に進化してるらしい。
設計図ってなんだよ。
この惑星が存在してることすら最近知ったってのに、どこからそんな情報拾ってんだ?
【「ヴァンダ」】「一体を分解して調べてみるのは、いかがでしょう」
デレクは眉をひそめた。
【デレク】「分解って……「ヴァンダ」、お前な。元に戻せる自信ねえぞ。ってか、こいつについてる部品の半分、俺ですら用途不明だぞ」
【「ヴァンダ」】「終わったら、別のボットに再構築させればよいのでは?」
デレクは首をかしげた。
まあ、理屈としてはアリだ。
自分たちで勝手に改造してきた連中なら、逆もできるってか。
こいつら、ノヴァの拡張だけじゃない。魔力の計測やら、解析やら……思ったよりいろいろやってる。
下手したら、この世界の仕組みそのものに関わる「答え」を、こいつらが握ってるかもしれない。
間近で見てみる価値はある――興味本位で済むなら、の話だが。
デレクは首を振った。
【デレク】「やめとく。前にアイツらを囮に使ったときの件、まだ根に持ってる気がしてな……
分解なんかしたら、あとでどんな仕返しされるか……知らねえけど怖ぇわ」
彼は長く息を吐いた。
【デレク】「まずはノヴァをまともに動く状態に戻す。それからだ。救世主だの《球体》だの、コラール・ノードだの――後回しでいい」
リストはどんどん長くなる一方だ。
【「ヴァンダ」】「では、どこから始めましょうか?」
デレクは無精髭の顎を掻きながら言った。
【デレク】「ノヴァがちゃんと機能してるか確認しないとな。動作は問題なさそうだが、戦闘時の挙動は見ておきたい」
【「ヴァンダ」】「……私の診断では不十分と?」
デレクは目を回した。
【デレク】「そりゃな。OS丸ごと書き換わってんのかもしれないし? 悪いけど、でかいモンスターやら強化暗殺者やらと素で戦う気はしねえんだよ。実戦前にテストくらいさせろ」
イサラが口を開いた。声はまだちょっと震えている。
【イサラ】「だったら……シミュレーターでもう一回やってみる?」
デレクは軽くうなずいた。
【デレク】「いいな。それでいこう」
【イサラ】「わかった! すぐ準備するね!」
彼女はパッと笑顔になって、くるりと踵を返して研究室を飛び出していった。
あいつは……まあ、有能だ。間違いない。
ただし――ノヴァに手を出す時は、あの魔法グッズ以外を使わせるな。
普通のドライバーなんか突っ込まれたら、炉心爆発で全員蒸発だ。
イザベルが研究室へと入ってきた。ツンガがその後ろをついてきて、警戒しながら辺りをぐるりと見回す。
【イザベル】「ノヴァの状態はどうですか?」
デレクは肩をすくめ、息を吐いた。
【デレク】「判断しかねるな。「ヴァンダ」は「動作に問題なし」って言ってるが、俺としては実地テストしたい」
【ツンガ】「ふむ……」
喉の奥で低く唸るように声を漏らした。
デレクが眉を上げてそちらを向く。
【デレク】「どうした、ジャングルの賢者さんよ?」
【ツンガ】「起きたこと……わかる」
【イザベル】「まあ! 本当に? あなた、デレクよりその鎧に詳しいとでも?」
ツンガは首を横に振った。
【ツンガ】「違う。俺は……精霊を知ってる」
イザベルは一瞬デレクの方に視線を送る。
【デレク】「ほう。で、その精霊とやらが、ノヴァに起きてる変化に関係あるってか」
ツンガは真剣な表情でうなずき、ノヴァを指差す。
【ツンガ】「悪魔。目覚めてる」
イザベルは苦笑する。
【イザベル】「世界を滅ぼす「悪魔」の話? まだそれをデレクのことだと思ってるの?」
デレクは軽く笑いながらツンガの肩を叩いた。
【デレク】「安心しろ、相棒。世界を壊す予定なんざ一切ない。けどさ……お前がジャングルで吸ってるアレ、一回俺にも分けてくれないか? 一緒に旅してたら、さすがに興味出てきた」
彼は茶化すように肩をポンと叩いた。
ツンガは無表情のままデレクを見つめ、白くなるほど杖を握りしめていた。
――今日はいつにも増して変だった。
ツンガが一歩前に出ると、デレクの手首をガシッとつかんだ。
その握力は、見た目通りの野生の強さを持っていた。
【ツンガ】「……精霊、俺に話した」
【イザベル】「……それは、よい知らせですね」
ツンガは彼女に冷たい視線を向ける。
その瞬間、イザベルの表情から笑みが消えた。
デレクは眉をひそめる。
【デレク】「何かあったのか? お前とあの猿で喧嘩でもしたのか?」
(テレパシーで会話する巨大な猿。誰がどう考えても狂気だ)
ツンガはデレクに向き直り、息を吸い込んだ。
【ツンガ】「精霊、言った。お前、世界壊す。
……俺、否定した。「デレク、そんなやつじゃない」って。
でも精霊、こう言った。「本人は……わざとじゃない」と」
その言葉と共に、ツンガの顔に悲しみがにじむ。
デレクは一歩引いた。
【デレク】「それで……今度は「うっかり」世界を滅ぼすって? 意図的じゃないけど、結果的にやっちまうと。
マジかよ、やっとその話から解放されたと思ったのに、また振り出しか……」
イザベルが真顔で割り込む。
【イザベル】「でも、そんなことってあり得るの? クリスタルのグラスを割るのとは違うのよ、ツンガ。
相手は「世界」よ。あなたの言ってること、おかしいわ」
【ツンガ】「……獣の精霊、見せた。映像。
ノヴァの力。お前の頭の力。強くなる。もっと、もっと。
……でかくなって――最後は、何も残らない。
止められない。
あとの意味は……わからん」
デレクは腕を組んだまま、目を細めた。
【デレク】「……なら、なんで俺を殺さなかった?
チャンスならあっただろ。ジャングルであの暗殺者に襲われたとき、見てるだけでよかったんだ。
俺が死ねば、全部解決だったろ?
お前とそのモンキー、また仲良くできたかもしれねえのに」
彼は両手を広げて声を荒らげた。
【デレク】「なあ、一度でいい。教えてくれよ、お前のそのツルッとした頭の中で何が起きてるのか!」
ツンガはしばらく黙ったまま、デレクを見つめていた。
デレクが踵を返そうとしたその瞬間、ツンガがようやく口を開いた。
【ツンガ】「……破壊。命の一部。
壊さなきゃ、新しいもの、作れない。
終わり……全部、悪いとは限らない」
【デレク】「……つまり、俺が全部ぶち壊しても、それが良い未来に繋がるかもって思ってんのか?
俺を殺さなかった理由、それだけかよ?」
ツンガは息を吐いた。
【ツンガ】「わからん。まだ。
……俺は、お前を見る。
悪が見えたら、止める。
それまでは……運命だ。
獣の精霊……きっと、見る。
いつか……理解する」
イザベルはじっとツンガを見つめていた。
その手は剣の柄に添えられ、額には深いしわが刻まれていた。
デレクは思った。
この女も、この男も、信頼できる。
だからこそ、仲違いはさせたくない。
でも――どうにもならないこともある。
ツンガが本気で敵と判断すれば、イザベルは止めないだろう。
そして俺も、黙って見てるつもりはねえ。
【ツンガ】「……精霊、最後に言った。もう二度と……語らないと。それが、最後の言葉だ」
イザベルはゆっくりと手を柄から離し、視線を伏せた。
【イザベル】「……そう。悲しいですね。ツンガ……ごめんなさい」
デレクは額を押さえ、目を閉じた。
【デレク】「……くそ。……俺も……悪かったな」
彼は目を開け、二人を見た。
【デレク】「……すまん。俺といると、ろくなことがない。近づけば近づくほど、ろくでもなくなる」
イザベルが何か言おうとしたが、デレクは手を上げて止めた。
【デレク】「イザベル。
……ユリエラが、ツンガの言う「精霊」と同じこと言い出すのは、時間の問題じゃないのか?」
イザベルは困惑したように眉をひそめた。
【イザベル】「な、何の話? 私は……私はユリエラ様の命令に従ってるだけよ!」
デレクは寂しそうに笑った。
【デレク】「本当にそう思ってるのか?
お前が俺にやってること全部が、ユリエラの「ご意思」だと?」
彼はゆっくりと首を振った。
【デレク】「彼女はお前を見てる。お前の忠誠心が、どこに傾いてるか……気づいてる。
結論を出すのは、きっともうすぐだ。
でもな、まだ遅くない。戻れる。
「正気に戻った」って言えば、あの女、きっと許してくれるさ。
『あいつがクソ野郎だって気づきました』って、な?」
イザベルは拳を握りしめ、顎を強く引き締めた。
その姿は、戦場に立つときのそれだった。
【イザベル】「……あなたの言ってることは理解できない。
あなたはカシュナール。ユリエラ様は、私があなたの盾となることをお許しくださった。
きっと今も、私を誇りに思ってくださっているわ。
私は、神聖な使命を――」
デレクは彼女の目をじっと見つめ、やがて視線を逸らした。
……信じてるのか?
信じたいだけか?
――もう、どっちでもいい。
彼女はすでに選んでいた。
【デレク】「……好きにしろよ。
でもな、全部が崩れたときに思い出せ。
「俺は何もしなかった」なんて言うなよ」
イザベルはまっすぐに彼を見返す。
【イザベル】「ええ。
でも、覚えておいて。
私の選択の責任を、あなたが背負う必要はない。
ツンガでもない。
それは――私のものよ」
ツンガは鼻を鳴らして背を向け、研究室を出ていった。
石の床に杖の音だけが、コツコツと鳴り響いていた。
デレクは深く息を吐いた。
……この星を出なきゃならない。
破壊者にならずに済むかどうかはわからないが――
もう、十分すぎるほど周囲の人生を壊してきた。
イサラが勢いよく戻ってきた。
顔は満面の笑みで、くるくるした髪が爆発したみたいに膨らんでいた。
【イサラ】「シミュレーター準備オッケー! 合図くれたらスタートするからねっ!」
デレクは思わず笑った。
……さて、「ノヴァ・アセンダント」ってやつが何者なのか、確認してやるか。
―――
ノヴァのアーマーに包まれた自分の手を見下ろし、デレクは指を一本ずつ動かしてみた。
動作はスムーズだった。
見た目には、何も変わらない。
新しいノヴァ・アセンダントは、外観だけなら旧式と完全に同じだった。
シミュレーターの部屋は、四方に何十メートルも広がっている。
床と天井には、間隔を揃えて魔力石が埋め込まれており、不規則なリズムで淡く脈動していた。
まるで異星のスーパーコンピューターのLEDパネルのようだ。
動作原理?
考えるだけで三次元の脳がひっくり返りそうだったから、すでに放棄済みだ。
【デレク】(わかんねーけど、今のところ俺を殺しに来てないし、それで十分だ)
ガラスの向こうでイサラが親指を立てた。
デレクは軽くうなずき返す。
視界が水面のように揺らぎ、世界がねじれていく。
枝。松葉。木々の幹――
次の瞬間には、彼は松林のど真ん中に立っていた。
イサラも、制御室も、どこにもなかった。
【デレク】(……松? ここ、地球か? ……んなわけねーか)
人間向けに環境が調整されたのか?
それとも人類の手が先に入り、後から《球体》ぶん投げたやつらが乗っ取ったのか?
……知らん。多すぎる。
今は、こっちに集中だ。
上空の枝が風に揺れ、光る目を持つ小さな生き物たちが枝の間を跳ね回る。
現実にしか見えなかった。
これが幻影魔法ってやつなら……テクノロジーは、子供のおもちゃだな。
数歩進む。ノヴァは完璧に追従する。
枝が足元でパキリと折れ、赤いスーツの光が周囲の闇を鈍く照らした。
周囲の生き物たちは、一定の距離を保ちつつ、ずっとこっちを観察していた。
【「ヴァンダ」】「センサー情報がなければ、本物の森と見分けがつきません」
【デレク】「ああ。俺たちのニューロシミュレーターなんか、まるで幼児向けだな」
【「ヴァンダ」】「ですが……少々奇妙です。まだ敵は出現していないのに、内部の数値が通常を逸脱しています」
【「ヴァンダ」】「エネルギー値が不安定にスパイクしています。まるで――蓄積しているように」
デレクは足を止め、反射的に構えた。
【デレク】「もし何か起きたら、止められるのか?」
【「ヴァンダ」】「いいえ。イサラによれば、内部からの停止手段は《施設の破壊》のみです。
外壁には、魔法も物理兵器も無効化するシールドが張られており、プラズマキャノンにも耐えるとされています。
外部からであれば、イサラが停止可能です」
【デレク】「なら、イサラに連絡しよう。なんか、嫌な感じがする」
【「ヴァンダ」】「……デレク。イサラの反応が検知できません」
【デレク】「……イサラ! おい、聞こえてるか!? こっちは異常値が出てる!」
……返事はなかった。
【「ヴァンダ」】「非常に不穏です」
風とは違う、鋭く乾いた音がすぐ近くで鳴った。
デレクがゆっくりと振り向くと、さっきまでいた小動物たちの姿が消えていた。
森全体が、何かを潜ませているような「静けさ」に変わっていた。
【「ヴァンダ」】「何かが、シミュレーション内部に侵入しました。強いエネルギー反応を検出しています」
【デレク】「……ああ。そういう展開か。
イサラが「本番」のシナリオを始めたってだけだろ、多分な」
喉がカラカラだった。唾を飲もうとしても、うまくいかない。
右手側で、大きな枝がバキリと音を立てて折れた。
ミニマップに赤い反応が出現する。
デカい。明らかに規格外だ。
(あのバカ、どんな怪物選んだ……?)
モミの木のような巨大樹がドサッと倒れ、松葉と土埃が巻き上がる。
そして、その「何か」が姿を現した。
金属と肉体、そして電子回路が融合した、巨大な怪物。
頭部はその巨体に埋もれかけており、人間の頭蓋骨のようにも見える。
黒い液体が空洞の目から滴り落ち、体中に不気味なチューブが蠢いていた。
両腕は筋肉と機械の融合体で、動きが不気味なほど滑らかだ。
【デレク】「……嘘だろ」
同じだ。
あのピラミッドで遭遇した「アレ」。
ノードが暴走して、この世界に吹き飛ばされた時の――
まったく同じ「それ」。
【「ヴァンダ」】「デレク、これは一体……?」
【デレク】「知らねぇよ! イサラ! おい、イサラ!! 聞こえてるなら応答しろ!」
その怪物は歩み寄り、一本の松を軽々と薙ぎ倒した。
【デレク】(なぜ……あの《ワーディライ》の守護者がここに? こんな再現、可能なはずが……)
【「ヴァンダ」】「エネルギー値、限界突破。もはや計測不能です」
【デレク】「……でもこれは、シミュレーションだろ?」
【「ヴァンダ」】「理論上は。ですが、あの攻撃を受けたら――意味はありません」
心臓が爆発しそうだった。
迷ってる暇は、もうない。
――これが、ノヴァ・アセンダントの「初陣」だ。
デレクは即座にプラズマキャノンを展開した。
照準インターフェースに、未知のアイコンがずらりと並ぶ。
どれも見たことがない。意味不明な色、形。
【デレク】(解析は後だ。今は、撃つ)
引き金を引く。
双発のプラズマ弾が一直線に怪物へと撃ち込まれる――
――だが、弾は弾かれた。
命中したにもかかわらず、プラズマは無力だった。
一発は森の奥へと消え、もう一発はシールド外壁に直撃し、無害な閃光を放っただけだった。
《熱電ダメージ、無効化》
【デレク】「……今の、通知か? こんな仕様、前回のシミュレーションじゃなかったぞ」
【「ヴァンダ」】「構成に変更がある可能性があります。注意を」
【デレク】「ちっ……!」
丸太がこちらに飛んできた。
デレクはすんでのところで横に飛び、ギリギリで回避。
さらにプラズマ弾を二発撃つ――だが、またも無効。
【「ヴァンダ」】「弾かれました」
怪物が唸った。低く、機械的な怒号。
森の木々が震えた。
黒いチューブを構えた怪物が、粘性のある黒い液体を噴射してくる。
デレクは跳ね退いた。
液体が地面に落ちた瞬間、ジュウゥゥ……という音と共に泡立つ。
【デレク】「……これ、知ってる。ピラミッドで見たやつと同じだ」
彼はすぐに後退した。
だが、次の瞬間――
地面の液体から、手が飛び出した。
【デレク】「ッ!」
足首を掴まれた。
怪物が転移してきたのだ。あの粘液を使って。
二本目の腕が飛び出す。
黒い沼のような液体から巨体がせり上がり――
【「ヴァンダ」】「デレク、回避を――!」
無理だった。
見上げると、すでに怪物は目の前にいた。
無言で手を伸ばし――その巨大な掌が、デレクの首を鷲掴みにした。
《圧力異常》
《構造破損》
《酸素供給、停止》
警告が次々とディスプレイに走る。
喉が締めつけられる。
酸素が、入ってこない。
【デレク】(クソ、クソッ……!)
ノヴァの装甲――ニュートロン鋼が、紙みたいに潰れていく。
その中に、自分の首があるという現実が、やけに鮮明だった。
【デレク】(……やるしかねえ)
プラズマブレード、起動。
全アクチュエーターを最大出力に設定――振り下ろす!
閃光。火花。
ブレードが怪物の腕に斬り込む。
――だが、浅い焦げ痕が残るだけ。
握力は、びくともしない。
怪物が呻き声を上げる。怒りだ。苦痛ではない。
心拍数が跳ね上がる。
視界が狭まる。
思考が、回らない。
――死ぬ。
【デレク】「イサラァッ!!!」
声はかすれ、喉から無理やり絞り出された。
【デレク】「イサラ! 応答しろ、クソッ……!!」
……返事は、なかった。
金属がきしむ音。
喉を押し潰す、圧倒的な力。
――それだけが、世界だった。
読了ありがとうございました!
シミュレーターなのにマジで死にかけてるデレク……ツッコミどころ満載だったかも?笑
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