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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第一章 廃墟から聖都ロスメアへ
32/102

第32章: 危険すぎる喧嘩

デレク VS ハンク、開幕です。

今回の戦いは、拳と皮肉とプラズマでできています。

笑っていいのか、緊張すべきか、判断はお任せします。

広場には、デレクと、彼にじわじわと近づく五人の若者たちしかいなかった。


五人の男――それに、トーマス。


数人の通行人はすぐに距離を取り、これから起きることには関わりたくなさそうだった。


背筋に、冷たいものが走る。


彼らは皆、上質な服を着ていた。トーマスも含め、彼は密告の合間にしっかり着替える時間があったらしい。手に持つ棍棒や杖は、手入れの行き届いたその手には不釣り合いだった。裏路地での殴り合いに慣れているようには見えない。


だがこの世界では、「見た目に惑わされるな」という言葉に、預言のような重みがあった。


それでも、顔つきだけは――どう見ても、本気で戦う覚悟があるようには見えなかった。


賭けるとしたら、殴る覚悟があるのは一人だけ。


その中で一番背の高い少年は、突き出た額、カエルのように飛び出た目、そして間の抜けた隙間だらけの歯で笑っていた。舌なめずりしながら、デレクをまるでご馳走のように見定めている。


しかも彼だけが武器を持っていなかった。だからこそ、一番危険だ。


【ヴァンダ】「デレク、心拍数が上昇しています。ご無事ですか?」


デレクは耳の後ろに指を当て、マイクを起動する。これでヴァンダも、状況をそのまま聞けるようになった。


【デレク】「やあ、みんな。どうした?その棍棒、いいセンスしてるな。これからどこかで、かわいそうな動物でも叩くつもりか?」


【ヴァンダ】「棍棒ですか?すぐに向かいます。少しだけ耐えてください!」


【トーマス】「気に入ったか?なら、もっと近くで見せてやろうか?」


デレクは両手を挙げて首を横に振る。


【デレク】「いや、ここからで十分見える。お前がいつも、自分より強い奴の後ろに隠れてるのも、よーく見える。」


【トーマス】「俺が頼んだわけじゃねぇ。お前のやったことを聞いて、こいつらが勝手に集まったんだ!」


長身の少年が一歩前に出た。カシュナールの像を顎で示しながら言う。


【???】「お前、自分が「本物のメサイア」だって言ってるって、本当か?」


【デレク】「それを言ったのは……トーマスだろ?」


【トーマス】「本当だ!この耳で聞いたんだ。『自分こそが、唯一にして真なるメサイアだ』ってな!」


デレクは首を傾げ、じっとトーマスを見つめる。


【デレク】「お前……何がしたいんだ?俺に何かされたか?――いや、待てよ。お前をあの化け物から救っただろ。それに、人喰い植物からも助けてやった。あと、お前の「愛しのワーデン様」も、盗賊から救ってやったよな?」


他の少年たちはざわめき、顔を見合わせる。


トーマスは歯を食いしばり、怒りに燃える目でデレクをにらみつけた。


【トーマス】「黙れ、偽預言者!」


……つまり、そのへんの話は仲間にしてなかったってことか。なるほど、驚きだな(棒読み)。


デレクは皮肉っぽく笑い、首を傾けた。


【デレク】「「偽メサイア」だったと思うけどな。でもまあ、あんだけ早口で嘘を並べてたら、そりゃ間違うか。」


―――


ドローンの羽音が頭上で大きくなった。ぴったりのタイミングだった。


【トーマス】「騙されるな!こいつは、銀の舌でイザベル様すら誑かしたんだ!」


デレクはオーバーリアクション気味に「おおー」と唸り、何かに気づいたふりをして頷く。


【デレク】「そうか……そういうことか。」


【トーマス】「何が「そういうこと」だよ?」


【デレク】「問題の正体だよ。お前は、最高級のバカだ。」


トーマスの体がカッと強ばる。


【トーマス】「……何の話をしてるんだよ?」


デレクはため息をつき、呆れたように首を振った。


【デレク】「お前さ、イザベルに惚れてるんだろ?で、俺がその壮大な恋物語の邪魔してるって思ってるわけだ。」


そして、芝居がかった動きで両手を胸の前で組んでみせる。


【デレク】「お前の「おとぎ話」を壊した犯人が俺だって、本気で信じてるんだな?」


少年のひとりがクスクスと笑う。トーマスの顔は真っ赤になり、赤みが耳の先まで広がっていった。


【トーマス】「この野郎ッ!」


トーマスが怒鳴り、棍棒を振りかざして飛びかかる――が、その足がピタリと止まる。


顔面から血の気が引いていく。


デレクは両腕を広げ、まるで「さあ、抱きついて来い」とでも言わんばかりに待ち構えた。


その背に、NOVAの適応ジェルのひんやりとした感触が走る。


磁気ロックが四肢を包み込むようにカチリ、カチリと固定され、視界は一瞬でHUDに切り替わった。


トーマスはよろけて後退し、棍棒がカランと音を立てて地面に転がった。


背後の長身の少年が、目を見開いてデレクを指差す。


【???】「……ま、まさか……こいつ、本当にメサイアなのか?」


他の少年たちは唖然としながら、デレクと像とを交互に見比べた。


周囲の建物の窓からは、次々と顔が覗き始める。事の成り行きを見ようとする、野次馬たちだ。


デレクは目を細めてため息をつく。


――襲われそうになってたときには誰も出てこなかったくせに。いざ見世物が始まったら、群がるのかよ。田舎者め。


彼は両手を軽く掲げる。


【デレク】「なあ、これは誤解だ。あの像を見た時、俺だって驚いたよ。でも断言する。俺は君たちの「メサイア」じゃない。きっと……何か、説明があるはずなんだ。」


……説明なんて、想像もできなかったし、多分今後もできないけどな。


トーマスが地面を踏み鳴らす。まるで駄々をこねる子供のようだった。


【トーマス】「見ただろ!?あいつ、「自分はメサイアじゃない」って言ったんだぞ!それこそが、まさに預言に書かれてた通りなんだよ!こいつは、お前らを操るために、わざとそう言ったんだ!」


他の少年たちは不安そうに顔を見合わせる。


信じたい気持ちはある。でも、あの像とそっくりな姿を前にして、心が揺れているのは明らかだった。


デレクには時間がなかった。


まもなく彼らは決断する。その判断がデレクに有利になるとは、とても思えなかった。


特に、あの長身の少年。彼が拳を握ったり開いたりする様子が、デレクの警戒心をかき立てる。


――あいつ、戦いたくてうずうずしてやがる。


どうせ、この整った街じゃ、喧嘩の機会も少ないんだろう。


デレクは小さく舌打ちした。


――撃てたら楽だったのにな。


【デレク】「ヴァンダ。この中に、めんどくさい能力を持ってるやつはいるか?あのチビ、トーマスとか。」


少なくとも、先に手を出す理由にはなる。


【ヴァンダ】「エネルギーのスパイクを検出しました。ただし、彼からではありません。」


デレクの背筋が固くなる。


【デレク】「じゃあ、誰だ?」


【ヴァンダ】「長身の者からです。発生源は……全身。」


胃の奥が冷たくなる。


――またか。あの森のやつみたいに、変異持ちか?


あの時は殺すしかなかった。今回も、そうなるのか?


まるでその思考に応えるように、長身の少年が一歩前へ出る。


足をしっかりと地に据え、デレクをまっすぐ見据える。


その目には、無言の挑戦が宿っていた。


【ヴァンダ】「エネルギー値、上昇中です。何かを始めようとしています。」


――やるしかない。


デレクはNOVAの脚部アクチュエーターを全開にした。


そして、暴走列車のごとく飛び出した。


相手の目が見開かれたが、反応する間もない。


デレクは彼に体当たりし、そのまま地面に叩きつける。NOVAの全重量が、相手の体にのしかかった。


【???】「な、何してんだよ!?正気か!?」


【デレク】「ヴァンダ、装甲重量を最大に。」


【ヴァンダ】「了解しました、デレク。」


【???】「降りろって、うぐっ――!」


少年の顔が紫色に変わり、胸の上にかかる重量に押しつぶされそうになっていた。


だが、デレクは一切手を緩めない。


――もし逃げられたら……どうなるかわかったもんじゃない。


【トーマス】「頑張れよ、ハンク!偽メサイアなんかに負けるな!お前の力、見せてやれ!」


他の少年たちは輪になり、拳を突き上げながら叫び始める。


【少年たち】「ハンク! ハンク! ハンク!」


――どうやら、こいつは仲間内じゃヒーロー扱いらしい。


デレクは内心で毒づいた。


――バカなガキどもが。押さえられなきゃ、攻撃に出るしかない。


――殴るか?でも効かねぇだろうな。


――となれば、次の手は……


プラズマブレード。


……クソ、相手はただの子供だぞ。


ハンクが激しくもがき始めた。デレクはさらに力を込める。


その瞬間、彼の指先に伝わる感触が変わった。


――皮膚が硬く、厚くなっていく。


【デレク】「……やばい。」


喉の奥から、獣のような低い唸り声が漏れる。


【デレク】「ヴァンダ、分析。」


【ヴァンダ】「異常な反応を確認……何かをしています。」


【デレク】「……それ、説明になってねぇから!」


NOVAを押さえ続けるのに、全身の筋肉が限界を迎えそうだ。


ハンクの体はさらに肥大化し、筋肉が膨張し、骨格すら変化していく。


モニターにはアクチュエーターのストレス警告が点滅していた。


――NOVAの最新改良でも、こいつを抑えきれない?


こいつ、一体何者だ――?


ゆっくりと、だが確実に。ハンクはNOVAを持ち上げ始める。


【デレク】「クソッ……」


四百キロのパワーアーマーを、素手で持ち上げやがった。


――そりゃ、崇めたくもなるわな。問題は、こっちはまったく笑えねぇってことだ。


早く何とかしないと。


次の瞬間、ハンクが体をねじり、デレクを跳ね飛ばす。


地面に転がりながらも、デレクは即座に起き上がり、構えを取った。


普段なら、ここでプラズマキャノンの出番だ。


だが……これは「学園ケンカ」だ。流石にそれはやりすぎだろう。


ハンクの体はもはや硬いだけではなかった。鎧のような厚い骨板が体を覆い、まるで侍の甲冑のように層を成していた。額には鋭い突起が伸び、両手首からはギザギザした骨のスパイクが生えていた。


彼の頭上に、白く輝くラベルと共に緑色のHPバーが現れた。



《レベル 鉄 3》



デレクの心臓が一瞬止まりそうになる。


――レベルが表示されたってことは、これは「本物」だ。


路地裏の喧嘩なんかじゃない。ハンクは――殺しに来てる。


唯一の希望は、デレク自身の「鉄レベル6」のオーラを見せて、やる気を削ぐこと。


……だったが、ハンクは一歩も引かなかった。


じっとデレクを睨みつけ、拳を握って前に出る。


【デレク】「クソ……なあ、坊や。ここで引け。俺はお前を傷つけたくねぇ。」


【トーマス】「聞くな、ハンク!」


トーマスが絶叫し、石を拾って投げた。それはNOVAのニュートロンスチール装甲にカンッという音を立てて跳ね返り、何のダメージも与えられなかった。


デレクは鋭く振り返り、プラズマキャノンを展開し、トーマスの顔面に向けて狙いを定めた。


【デレク】「これが最後の警告だ。もう一度でも口を開いたら、容赦しない。」


トーマスの顔から血の気が引き、目を見開いたまま、無言でうなずいた。


デレクはキャノンを格納した。


その瞬間を逃さず、ハンクが飛びかかってきた。好機を見逃さなかった。


彼は片方の骨スパイクをデレクに向けて突き出した。


デレクは回避しようとしたが、攻撃の途中でスパイクが延伸し、側面に擦れるようにしてNOVAの装甲を引っかいた。耳をつんざくような金属音が響いた。



《装甲がダメージを吸収しました。》


《受けたダメージ:0%》


《装甲の耐久度:97%》


もしデレクがまだハンクの殺意を疑っていたとしても、もう完全に吹き飛んだ。


デレクはプラズマブレードを起動させ、深く息を吸い込んだ。そして落ち着いた声で語りかけた。


【デレク】「こういう終わり方じゃなくてもいいんだ、ハンク。俺の方が強いって、もう分かってるだろ?」


【デレク】「このイカれた世界じゃ、そういうのはお前たちでも感じ取れるらしいしな。」


【デレク】「友達の前で強がってるのはわかるが……内心では怯えてるはずだ。そして、その恐怖は正しい。」


【デレク】「友達だって、お前が引くことを理解してくれるさ。」


【ヴァンダ】「デレク、どうするつもりですか?彼はただの子供です。」


【デレク】「ヴァンダ、装甲重量を最小にしてくれ。スピードが必要だ。」


【ヴァンダ】「完了しました。」


少年たちは凍りついたように沈黙した。トーマスさえ、顔を青ざめさせ、目を見開いたまま動けなかった。ようやく、戦況がまったく対等でないことに気づいたらしい。


ハンクは巨大な拳を上げ、ぎこちない笑みを浮かべながら舌なめずりをした。


デレクは黒金属の亡霊のように疾走した。オレンジ色に輝くプラズマブレードと、真紅に光る瞳を携えて。


ハンクの自信が崩れた。


目を固く閉じ、パニックの叫び声を上げながら、骨のスパイクを交差させて必死に防御しようとする。


だが――


デレクはその横を、風のようにすり抜けた。


狙いすました一閃。ブレードは正確に、致命傷を避けながら装甲だけを切り裂く。


次の瞬間には、デレクは背を向けて静止していた。


プラズマブレードは淡く光を残しながら、消えていく。


【デレク】「……終わりだ。」


ハンクは肩で息をし、汗を額から滴らせていた。


彼は腕、胸、手を見つめながら、切られた形跡を探す。何も見当たらない。


仲間たちは沈黙したまま、口を開けたまま動けない。


デレクは静かに振り返る。


そして――


ハンクの体から、焦げて煙を上げる骨装甲の大きな破片が、2枚、ガランと地面に落ちた。


その下から現れた肌は、汗で光っていた。


ハンクは目を見開き、足元を見下ろす。


……黄色い液体が、静かに彼の足元に広がっていた。


顔が真っ赤になる。


その瞬間、デレクの視界から、HPバーとレベル表示がふっと消えた。


ゲージは満タンのまま、自然に消えていった。


周囲の少年たちは一斉に笑い出す。


【少年たち】「うわっ、やばっ!」


【少年たち】「もらしやがった!」


【少年たち】「ハンク、やっべぇ!」


黄色い染みを指差しながら、広場に爆笑がこだまする。


……ただ一人、笑っていない男がいた。


トーマスだ。


その目は怒りに燃え、顎は固く、拳は白くなるほど握り締められていた。


デレクは彼を見つめ、ため息をついた。


【デレク】「この世界では、誰かの本当の強さを知るには――」


【デレク】「極限まで戦ってみるしかない。」


【デレク】「今、トーマスはその現実を思い知らされた。」


【デレク】「俺を倒したいなら、腰巾着を一人連れてきたくらいじゃ、話にならない。」


少しでも頭が回れば、今回はもう挑んでこないはずだ。


―――


そのとき、通りの先から、ブーツの乾いた足音が響いてきた。


デレクは反射的にそちらを振り向く。


――テンポからして、少なくとも三人はいる。


考える間もなく、四人の兵士が角を曲がって現れた。


槍を構え、真っ直ぐこちらを狙ってくる。


デレクは腰に手を当てて言った。


【デレク】「は? マジで俺か? どう見ても、被害者はこっちだろうが。」


ついさっきまで笑っていた少年たちは、凍りついたように黙り込んだ。


兵士たちは、冷静で整った声で命じた。


【兵士】「……同行してもらおう。」


彼らの頭上には、レベルもHPバーも表示されていない。


それが意味するのは――


まだ「殺す気はない」というだけだ。


デレクはゆっくりと息を吐き、両手を上げて降参の姿勢をとった。


【デレク】「はいはい。お縄っと。」


まさかのオチで、広場は笑いに包まれました(1名除く)。

でも、笑っていないその男の方が、よっぽど危険かもしれません。


次回――デレク、ついにお縄です。

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