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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第一章 廃墟から聖都ロスメアへ
22/102

第22章: ツンガの過去とシャイタニの未来

密林が揺れる。新たな脅威が接近し、デレクたちは再び試練に立ち向かわなければならない。

予想外の出会いが、彼らの信念と絆を揺るがす。

ジャングルが震えた。


ドォォン――!


蔓、枝、葉が揺れ、鮮やかな縞模様の鳥たちが、天蓋のような木々から一斉に飛び立つ。三十メートルほど先、一本の太い幹が――何か巨大なものに押されて――ゴギィ、と曲がった。


【デレク】(……茂みがざわついてやがる)


難民たちの間から叫び声が上がり、皆がイザベルの後ろへと身を寄せる。


【イザベル】「……来ます」


すっと前に出て、剣を抜いた。その刃には電流が走り、チチチ……と火花が弾けた。


【ツンガ】「……」


眉をひそめて、フンッと鼻で息を吐く。


【デレク】(また火球投げられたら最悪だが……味方でいてくれ、頼む)


ミニマップに反応が出て、すごい勢いで近づいてくる。もうすぐ、前方の茂みから姿を現す。


木々の間は蔓や下草が絡みついており、逃げ道にはならない。相手は木ごと押しのけて進めるだろうが、こちらはそうはいかない。


つまり――正面からやるしかない。……規格外の高レベルの化け物じゃないといいが。


【デレク】「ヴァンダ、マイクロミサイル、残りは?」


【ヴァンダ】「残弾は二斉射分です」


足元を固めて構える。撃つなら、敵がまだ遠くにいるうちにだ。近づかれれば、爆風で難民まで巻き込む。


ガサガサッ……!


前方の茂みが揺れた瞬間、ズゥゥン……と地響きとともに、巨大なイノシシの頭が現れた。


その脚だけで、デレクの背丈に匹敵する。牙も爪も鋭く、獰猛な捕食者のようだった。


「キャアアアアッ!!」


後方で難民たちの叫びが上がる。


振り返ると、アリラが呆然と立ち尽くしていた。目を見開き、まるで催眠にかかったかのようにイノシシを見つめている。


【イザベル】「……」


剣を構えたまま、電撃が刃に沿って走り出す。数も速度も、目に見えて増していく。


【デレク】「ロックオン……」


肩のランチャーが展開され、レティクルが獣を捉えた。


《ターゲットロックオン》


ガシッ――


肩に何かが触れた。NOVAのセンサーが「焼けるほどの熱」を検知する。


【デレク】「……何だ、今度は。」(何だよ、野蛮人。今度は何をする気だ)


振り返ると、ツンガがいた。黙って首を横に振っている。


説明もせず、そのまま前へ――獣に向かって歩き出す。


【イザベル】「……!」


目を細め、剣を構えたまま彼の背中を見る。


【ヴァンダ】「デレク?」


【デレク】「取り込み中なんだが、何だよ」


【ヴァンダ】「前方の対象は、レベルもHPバーも表示されていません。また、騎乗者がいます」


【デレク】「……あ?」


イノシシの背に、灰色の肌をした男が乗っていた。肌には、ツンガの部族に似た模様が描かれている。


その男は、一切周囲を見ず、ツンガだけを睨んでいる。


【デレク】「スフィアに汚染された獣は狂うんじゃなかったのか? なんで、あれはあんなに大人しい? しかも……人を乗せてる」


【ヴァンダ】「不明です。……本人に聞かれてはいかがでしょう? いまもロックオン状態ですが」


【デレク(ため息)】「……やれやれ」


ミサイルランチャーを収納。今の状況にはそぐわない。


ツンガが獣の鼻先で立ち止まる。男と目を合わせたまま、両者とも一歩も動かない。


【イザベル】「……?」


【デレク】「ヴァンダ、エネルギー反応は?」


【ヴァンダ】「両者とも、非常に高レベルです。観測値はこれまでで最大です」


【デレク】(また最悪かよ。頼むから放っておいてくれ)


デレクは後ろを確認する。アリラは他の難民と岩陰に身を寄せている。


「ツンガ・ンカタ」

男が低く呼びかけた。


【ツンガ】「カト・ンゴマ……なぜ来た」


カトは部族語で何かを怒鳴る。NOVAの翻訳システムでも解読不能。


【ツンガ】「今、俺は一人じゃない。この者たちにも分かるよう、共通語で話せ。……話せるはずだ」


【カト】「分かった。連れ戻しに来た。戻れ。今すぐだ」


【ツンガ】「戻らん」


ズン、と杖を地面に突き立てる。


【カト】「戻らない、だと?」


【ツンガ】「俺は、獣の精霊から使命を受けた。ここに残る」


【カト】「まだあんなバケモノと喋ってるのか? 頭を乗っ取られるぞ」


【ツンガ】「獣は、この世界の運命を見せた。お前には分からんかもしれんが……俺は見た」


【カト】「そんなの知るか。……で、そいつらは誰だ?」


【ツンガ】「獣が言った。「シャイタニを探せ」と」


(デレクを指差す)


【デレク】(またかよ。お前のせいで面倒が増えたら許さねぇからな)


【カト】「そいつか? あれが「シャイタニ」?」


【ツンガ】「ああ。鉄の殻の中の男……あいつだ」


【カト】「はっ。ゴーレムだろ、あれ。ワーデンの召喚獣か何かにしか見えん」


【ツンガ】「違う。中に人間がいる」


【カト】「おい! お前だ! ヘルメット取れ!」


【デレク】「頼み方ってもんがあるだろ。……まあ、気が向いたら考えてやるよ」


【イザベル】「……っ!」


【ツンガ】(口元がニヤリと歪む)


【カト】「見せろと言ってるんだ!」


【ヴァンダ】「デレク、挑発は避けた方が――」


【デレク】「ヴァンダ、俺が考えてから喋ってるように見えるか?」


ズゥゥゥ……


イノシシが鼻から煙を吐き、目が赤く点滅し始める。


【ヴァンダ】「……」


【デレク】「あー……そいつ、今にも暴れるぞ」


【ヴァンダ】「「お友達」じゃなく、「あんた」だけが標的です」


《【デレク】(この世界、ほんと嫌いだ……)》


【ツンガ】「やめろ、カト。俺、シャイタニと戦わん。お前にも、させん」


【カト】「部族を捨てて……あんなやつの味方をするのか?」


【ツンガ】「獣の導きで来た。理由はまだ分からん。けど、道を進めば分かる。……これは大事なことだ」


【カト】「部族よりもか?」


【ツンガ】「全部族よりも大事。俺が役目果たさなければ、この世界は滅びる」


【カト】(鼻で笑い、翻訳できない何かを呟く)


【カト】「まだ山の猿の言うこと信じてるのか? あんなの、ただの化け物だ」


【ツンガ】「ただの猿じゃない。……天の球の力を宿している」


「俺が狂ってるなら、それでいい。好きに歩かせてくれるなら、それでいい」


【カト】「ダメだ。お前は、俺たちの最後のシャーマンなんだ。狂っていても、必要だ」


「来い。黙ってな」


カトはイノシシを反転させる。


【ツンガ】「嫌だ!」


ズンッ!


杖を地面に叩きつけ、デレクとイザベルの隣に立つ。


【カト】「お前……本気で力づくでも連れて帰れないと思ってるのか?」


イノシシがグオォォッと鼻から火を漏らす。


《【デレク】(NOVA、武装リルート、装甲強化……準備しとくか)》


【イザベル】「あなたは……どうなさるおつもりですか、ツンガ?」


「あなたの部族、あなたの責務が呼んでいるのです」


「……それでもなお、背を向けるのですか?」


【ツンガ】(彼女を一瞥して)「……」


(そして、デレクを見る)


【デレク】(肩をポンと叩きながら)「ツンガ、マジかよ……お前が話してた「獣」って、実はデカい猿だったのか? 俺が前にぶっ倒したやつより遥かにデカそうだな。天球スフィアを丸呑みした巨大猿? しかも……今はそいつと「心で会話」してるって? 頭いかれてんのか?」


【デレク】「てっきり、空想上のペットかと思ってたよ。オルビサルみたいなもんだな」


【ツンガ】「……」


(ため息をつき、カトを黙って睨む)


グッ……!


カトは舌打ちし、顔をしかめてイノシシの背からすっと降りた。音もなく、ジャングルの土に着地する。


ズシン……ズシン……


彼はゆっくりとこちらへ歩いてくる。湿気で光る筋肉を揺らしながら。背後の化け物――イノシシは鼻を鳴らし、地面をかきながらもその場を動かない。騎乗していなくても、合図一つで動きそうだ。


難民たちの間にざわめきが走る。


【難民女】「……オルビサルよ、我らをお守りください……」


【デレク】(アリラは……)


少女は人々のそばに立っていたが、目はどこか遠く、意識はここにない。


隣にいるはずのトーマスは一瞥すらくれず、両手を組んだまま祈りに沈んでいる。


(クソ。せめて手ぐらい握ってやれよ。神とワーデンしか見てねぇのか)


ズッ……!


カトが数歩先で立ち止まり、片手でツンガを示す。


【カト】「来い。今だ」


(その態度はリラックスしていて、「誰をも脅威だと思っていない」ことを全身で示していた)


【デレク】(……気に入らねぇな)


ツンガがどうしようが正直どうでもいい。だが、自分の人生を選べないなんて理屈は、胃の奥をねじられるように不快だった。


あいつは一体、誰のつもりだ?


【イザベル】(ジロリとツンガを睨む)


(……助ける気ゼロか)


―――


カトが手を伸ばした、その瞬間――


ガシィッ!!


NOVAの黒光りする手が、カトの手首を挟み込んだ。鋼のような力で、ピタリと動きを止める。


ウィィィィン……


アクチュエーターが唸りを上げ、ディスプレイに浮かび上がる。


《圧力:7000ニュートン》

《人体耐久限界、超過》


【デレク】(挑発する気はねぇけど……舐められるのはもっと嫌だ)


【ツンガ】「……」


【イザベル】「……!」


カトが睨む。目に宿るのは、殺意すらにじむ静かな怒り。


【カト】「貴様……何をしている、シャイタニ」


その名は、まるで毒を吐くように投げ捨てられた。


【デレク】「ちょっと待てよ。……ほんの一秒でいい」


【カト】「もう十分だ!」


【デレク】「最後に一つだけ。……質問だ」


【カト】「何だ?」


こめかみを汗が一筋伝い、血管が浮き上がる。


【デレク】「ツンガが戻らなかったら……本当はどうなる?」


カトはツンガを見た。「お前が言え」


【ツンガ】「……部族、小さい。スフィア持つの、俺だけ」


「もし獣、襲ってきたら……」


(視線を伏せ)


「でも……シャイタニに従うほうが、大事。たぶん、世界の運命がかかってる」


【イザベル】「あなたの民のことを考えなさい。「獣の精霊」など、倒されるべき異形です」


ギリッ……


ツンガは杖を強く握りしめ、指の関節が白くなるまで力を入れた。


【ツンガ】「……お前、何も知らん。知恵も、見識もなし。恐れて、殺そうとするだけ」


「精霊がいなければ……お前らの「教会」、ジャングルを侵略して、村を奪ってただろう」


【イザベル】「……!」


(言い返そうと口を開いたその瞬間――)


【デレク】「ストップ。ストップ、ストップ」


【デレク】「神様ごっこの議論、嫌いじゃないよ。全員が「自分が正しい」って言い張って、まともに考えてる奴が一人もいないやつ。大好物だ」


「……けどな。今じゃねえだろ」


ゴスッ、とツンガの肩に手を置く。


【デレク】「今、大事なのは――「ツンガが自分の人生を選べるか」。それとも、火を噴くブタに乗って現れた、どこの誰かも分からん男の命令に従うしかないのかって話だ」


(はぁ……ろくでもないことしか起きねぇ)


【ヴァンダ】「デレク、どうするつもりですか? カトの戦闘力は……未知数です」


【デレク】「リラックスしろって、ヴァンダ」


(オーラ強度が実戦でしか測れないなら、あいつにも俺の実力は分からないはずだ。ツンガの「シャイタニ」発言が、少しは効いてるといいが)


【カト】「その口ぶり……よくも俺に!」


「俺はナコリ族の第一戦士だぞ!」


【ツンガ】「第一戦士……? それは、お前が部族から離れてもっと強い獲物だけ追いかけてるからだ」


「……部族の誰も、お前を戦士だなんて思っちゃいない」


――カッ!


NOVAの装甲が音を立てて開き、スチームが噴き出す。


粘りつくようなジャングルの空気に、Tシャツがすぐに湿る。デレクは一歩、装甲の外へ出た。


彼はカトより頭一つ分低く、体格でも見劣りする。


それでも――


【デレク】「初めまして、カト。俺はデレク・スティールだ」


(手を差し出す)


【カト】「……何だ、それは?」


【デレク】「こっちの世界じゃ、知られてないか……?」


「俺の国では、初対面の相手とは「握手」するんだよ。儀式ってやつだな」


(手を引っ込める)


【カト】「友達を作りに来たんじゃない。ツンガを部族に連れ戻すために来た。もう、十分時間を無駄にした」


【デレク】「おう、それには同意する」


【デレク】「で……誰に言われて来た?」


【カト】「……どういう意味だ?」


【デレク】「お前、第一戦士だろ? もっと重要な任務があるはずだ。ツンガ一人を追いかけてくるとか、割に合わなくないか?」


【デレク】「……ってことは、「誰か」にやらされてんだろ?」


カトの眉がピクリと動く。


【デレク】「俺の推測は、二つに一つだ」


(二本の指を立てて)


【デレク】「一、上から命令された」

「二、金だ」


【カト】「……金、だと?」


【デレク】「ああ。ツンガ連れて帰ったら、報酬が出る。そんなとこだろ?」


【カト】「……部族は、彼を連れ戻すために相応の対価を……」


【ツンガ】「何だって!?」


【カト】「……」


(視線を逸らす)


【ツンガ】「何をもらうんだ?」


【カト】「……岩のスフィアだ。その力で、皮膚を強化できる」


(手首をさすりながら、唸るように答える)


【ツンガ】「……」


(ポーチから金属の球体を取り出す)


オレンジ色の光が、かすかに辺りを照らす。


【カト】「こ、これは……岩のスフィア! なぜ、お前がこれを……!」


【ツンガ】「他にもある。最近、多く落ちてきてる。獣の精霊が導く。何かが、空の上で……変わってる」


「……そして、「デレク」と呼ばれる悪魔も、その変化の一部だ」


【イザベル】「……はい。確かに。何かが動き始めている。これはオルビサルの御意志です」


【デレク】(……正直、何言ってるか分かんねぇけど、流れは悪くないな)


(ツンガがスフィアを「持ってる」って情報、今後に使えそうだな)


【カト】「……分かった」


「「見つけられなかった」と伝える。ただし……お前がいないことは、奴らを苦しめる」


【ツンガ】(小さく微笑む)「ありがとう、カト・ンゴマ。俺、すぐ戻る。今は俺がいない分、村にいて守れ」


カトは一瞬ためらったが、うなずき、巨大なイノシシの背へ跳び乗る。


【カト】「ツンガ……お前がこの人間たちと何をしようとしているかは知らんが……うまくはいかんぞ」


【ツンガ】(無言で睨み返す)


カトはため息をつき、デレクとイザベルへ視線を移す。


デレクはひらひらと手を振り、イザベルは礼儀正しく頭を下げた。


カトは何も言わず、獣を操ってジャングルの奥へ消えていった。


ズズン……ズズン……

その背中を、誰も追わなかった。


難民たちがざわめき始める。声は次第に和らぎ、空気の緊張が解けていく。


【デレク】(ふぅ……)


(NOVAの装甲に戻り、冷たい感覚が体を包む)


(正直、無茶だったな……)


(カトがその気なら、俺なんて虫みてぇに潰されてただろう)


(いや、この呪われたジャングルじゃ――虫にだって潰されるかもな)


カチッ……


小さな手が、NOVAの手袋に滑り込んでくる。


システムがそのぬくもりを脳に伝えてくる。まるで、本当に触れられているような感触だった。


【デレク】(ん……?)


見下ろすと、アリラの小さな指が、しっかりと彼の手を握っていた。


彼女は沈黙のまま、カトが去った方向をじっと見ている。


表情は――何もない。


【デレク】「……もう行ったよ。大丈夫だ」


アリラは小さくうなずく。


【デレク】「えーと……腹減ってる? レーションあるし……果物もいっぱい……欲しかったら……」


ギュッ……!


彼女の手が、強く握られる。


ぽろっ……


頬を、静かに二粒の涙が伝った。


……それだけだった。


泣き声も、しゃくりも、言葉すらもない。


【デレク】(……)


(口を開くが、何も言えなかった)


(何を……言えばよかったんだ?)

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

気に入っていただけましたら、ぜひブックマークと評価をお願いします。

次回もお楽しみに!

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