第20章: 俺が悪魔だって?笑わせるな
皆さん、お待たせしました。
怒りと炎が渦巻く第20話、いよいよ開幕です。
異世界での生存なんて、生ぬるい言葉だ。
「誰かを救う」ってことが、こんなにも胸をえぐるとは――デレクも、まだ知らなかった。
今回、新キャラ「ツンガ・ンカタ」との激突、そして忘れられない別れが待っています。
人間の狂気、森の魔性、精霊の導き――そして、「この星の理不尽」が牙を剥く。
気合い入れて読んでくれ。
【ツンガ】「やっとまた会えたな……シャイタニ!」
ギャハハハッ――!
夜空に響く狂気じみた笑い声。オレンジ色の炎が、灰色に塗られたその顔を赤く染めていた。
もしこの狂人が、あの子に何かしていたら――。
ガシィィン! 装甲ごしの拳が鳴った。
【デレク】「その子を下ろせ。今すぐだ」
心臓がドクンと跳ね、頭に一気に熱がのぼった。
男はようやく自分がアリラを抱えていたことに気づいたかのように眉を上げた。そして、拍子抜けするほど優しく、少女を地面に横たえると、再びこっちを振り返った。
ニィィ……
木の杖を握ったまま、不気味なまでに広がる笑み。闇の中で白い目と歯だけがやけに浮かび上がる。
【デレク】(……妙だな。なぜあっさり離した? まさか――俺だけが目的か?)
なら好都合だ。他の誰も巻き込まずに済む。
――こいつに、NOVAの新型プラズマキャノンの威力を試してやるか。
ザッ!
デレクは装甲足で一歩踏み出し、傾いた地面に体勢を整えながら、武器システムに出力を回した。
男は動かない。ニタニタ笑いながら、じっとデレクを見ている。プラズマブレードが光っても、笑みは崩れない。
【デレク】(……おかしいな。命懸けの戦いになるなら、頭上にレベル表示が出るはずだ。だが……何も出てない)
最初に出会ったときは、NOVAにはまだレベル分析機能がなかった。だが今は――
【ツンガ】「どうした、シャイタニ? まだ助けを待ってる奴らがいるぞ」
ドサッ!
男は杖を落とすと、炎と煙の中へと駆け出した。まだ口元には笑みが張り付いたままだった。
ガサガサ……バキッ!
枝も茂みも、まるで意志があるように、奴の進む道を開けていく。
【デレク】(……助けに? 本気か? それとも……まだ決着は保留ってことか?)
正直、判断できなかった。
《警告:生存者のバイタル低下。迅速な対応が必要です》
【ヴァンダ】「デレク、その男の言う通りです。生存者の生命反応が危険です。急いでください」
その声で、デレクは思考から抜け出し――
【デレク】「チッ……!」
――灼熱の煙地獄へと、男を追って駆け出した。
―――
野生の男が最後に現れた。腕には、白髪が煤にまみれた老女の体。彼女は力なく垂れ下がり、まるで人形のようだった。
そっと地面に横たえ、ゆっくり立ち上がると、無表情のままデレクをまっすぐ見つめる。
【ツンガ】「この女……死んでる」
天気の話でもするような、乾いた声だった。
デレクはかがみ込み、顔を確かめる。アリラの手をいつも握っていた老女だ。きっと祖母だったのだろう。少女にとって、この世界でたった一人の家族。
ギュウッ……
胃がねじれるような感覚。
彼は無意識に、まだ意識のないアリラに視線をやる。彼女はすやすやと眠っているだけに見える。
【デレク】(……クソみてぇな宇宙だ。今度は、あの子を狙いやがった)
でも今回は――単なる「運命」だけのせいじゃないかもしれない。
デレクは荒々しい男を睨みつけた。
【デレク】「……お前が火をつけたのか?」
ツンガは無言でうなずく。
【デレク】「なぜだ? ここには武器も持たない人たちがいたんだぞ。
……お前は何者だ? 何しに来た?」
【ツンガ】「ツンガ・ンカタ。獣の精霊が導いた。火なきゃ、ムバワラ来る。火だけ止める。
ジャングルの奴ら、皆それ知ってる。だがお前……違うな。外の人間だろ?」
そう言って、ニヤリと笑った。
デレクのこめかみが脈打つ。
今すぐこいつをNOVAで焼き払ってやりたかった。
足元には、他にも三体の遺体が転がっていた。アリラの祖母を含めて四人。
顔は煤にまみれ、服は焼け焦げていた。死因は煙か、麻酔か、それとも両方か――もう判断できなかった。
【イザベル】「……彼の言っていることは正しいわ」
澄んだ声が背後から聞こえる。
デレクが振り返ると、イザベルが腕を組んで立っていた。白いドレスには土と灰がこびりついていたが、その表情には、不思議な落ち着きがあった。
【デレク】「……アレ、なんだった? あんなのが『植物』かよ」
【イザベル】「ええ。私たちを襲ったのは『締め蔓』と呼ばれる魔植物です」。
昔、ライフスフィアによって汚染された古代の植物の子孫だと言われています。
見つけたら、すぐに焼き払う――それが、信仰の義務なのです」
【デレク】(……死なないことも、義務にしてくれよ)
【ツンガ】「他に方法ない。蔓、多い。獲物しめ殺す。
体から汁ぜんぶ出させて……根で飲む。ムバワラ、そうやって食う」
デレクは苦々しい顔で睨んだ。
【デレク】「……最悪だな。で? 何しに来た? また俺を殺しに?」
【ツンガ】「ンゴロコ。獣の精霊。俺にここへ行けと……言った」
【デレク】「ったく……こいつら、何でもかんでも『精霊のせい』にしやがるのかよ」
深く息を吸って、怒りを押し殺す。
【デレク】「……聞き方を変えよう。お前は何がしたい。「俺に」。それとも、この人たちに?」
ツンガの目は鋭く、杖を握る手に力が入っていた。
【ツンガ】「精霊が言った。シャイタニ見つけろと。世界壊す悪魔。夢の中で場所を見た。
ジャングルの中……そこで、お前見た」
【デレク】「……オレの運の悪さは銀河一だな」
【ツンガ】「お前を倒さなきゃって、信じてた。ムバワラと同じだって。
でも……逃げられて、見失って……俺、迷った。これは本当に精霊の意志なのかって」
【デレク】「逃げられたくらいで、何言ってんだ。しつこさが足りねぇだけじゃねぇの?」
【ツンガ】「精霊の声、手を導く。俺、失敗しない。けど今回は違った。
だから、問いかけた。俺が間違ってたのかって」
デレクは煙の薄れた空を見上げ、星の瞬きを見つめながらため息をついた。
【デレク】「銀河中どこにでも行けたのに、よりによってこんな野蛮人の国かよ……」
【ツンガ】「お前を隠れて追った。見た。悪しきもの探した。でも、少なかった。
お前、助けた。この人たち……知らない人たちを。
……どうして、それが悪魔なんだ?」
彼の顔に、迷いの色がにじむ。
【イザベル】「……彼は違います。救世主とは言いません。でも、あなたの言う『世界の破壊者』でもないわ」
【デレク】「あのな……なんでこうも、全部『神』とか『霊』とかのせいなんだよ。
しかもなんで、何でもかんでも『俺』のせいになるんだ?」
ガチャン!
ヘルメットを開けると、ぬるく湿った夜風が肌をなでた。
【デレク】「俺は、たまたまこのスーツで、たまたまここに飛ばされただけの……ただの男だ。終わり」
【イザベル】「……『たまたま』?」
初めて、誰かに話す時が来たのかもしれない。
【デレク】「遺跡を調べてた。研究したい遺物があってな。強力なアーティファクトだ。
見つけた。でも、離れる前に、そいつが俺をここに送りやがった……」
彼は周囲を手で示した。
【デレク】「この銀河のド底辺みたいな星にな。
中世みたいな暮らしで、全部『誰か偉い神様がやった』って決めつけてる連中の世界にな」
イザベルとツンガは無言で顔を見合わせた。
【デレク】「俺は、銀河最強のパワーアーマーを着てりゃ、なんとかなると思ってた。
……そりゃ、合理的な考え方だろ?」
沈黙。
【デレク】「だが違った。棒一本の気味悪い野郎にすら、俺は普通に負けるんだよ!
この星じゃ、NOVA着てるってだけじゃ大したアドバンテージにならねぇ」
【デレク】「しかも、全員『力』持ちだ。
この世界、まるでバグったRPGだよ。
で――唯一『力』を持ってないのが誰かって? この俺だよ!」
バン!
両手を大きく広げる。
【デレク】「NOVA脱げば、俺はただのゼロ。無力。
下手すりゃ、虫けらにだって負けるかもしれねぇ!」
【イザベル】「……でも、あなたはスフィアの力を吸収したわ。目の前で見た」
【デレク】「それはNOVAがやったことだ。俺じゃない。
NOVAがこの世界に適応して、スフィアの力を取り込めるようになったんだ」
ニッと皮肉っぽく笑う。
【デレク】「でも、俺自身は違う。スフィアに触れたらどうなるか――
何も起きないか、あの化け物みたいに狂うかだな」
【イザベル】「……あなたは、この世界にスフィアの力を奪うために来たと思ってた。
空から落ちてきた時、すぐに追いかけたでしょう? それを見て、確信したの」
デレクは驚いた顔でイザベルを見る。彼女の洞察は鋭い。
【イザベル】「つまり、スーツの外では、あなたはただの人間。
都市や村の人々の大半と同じ。スフィアと接触したことがない。
あなたは……『昇華者』ではない」
【デレク】「昇華者……?」
【イザベル】「ええ。私のように、オルビサルルの聖なる力に触れ、その力を得た者たちのことです」
【デレク】「じゃあ、こいつは? 力持ってるぞ。アイツも昇華者なのか?」
【イザベル】「教会の教義では……彼のような存在は、『堕落者』と見なされます」
【デレク】(つまり……教会の思い通りにならない奴は、全部『悪』ってことか。宗教なんて、だいたいそんなもんだ)
イザベルは唇を引き締めて、反論しない。
ツンガが黙ってデレクに近づき、NOVAの胸に手を置いた。
センサー越しに、その手の熱が伝わってくる。
【ツンガ】「悪魔、お前じゃないかも。……中にいるかも。中にいたら……倒せない」
【デレク】「はあ……もううんざりだ。
悪魔もいねぇし、救世主もいねぇ」
ガシッとツンガの手を払いのける。
【デレク】「都市までお前らを送ったら、俺は一人で動く。
くだらねぇ迷信には、関わらねぇよ」
【イザベル】「……でも、どこへ?」
【デレク】「空から降ってくるスフィア。それと俺をここに飛ばした『何か』は、同じ出所かもしれない。
ワーディライ(古代文明)っていう文明の仕業だ。
この星にも、遺跡があるかもしれない。
そこで……何かがわかるかもしれない」
【イザベル】「禁断の都市があります」
【デレク】「……なんだそれは?」
【イザベル】「オルビサルルが建てたと伝えられる、古代の聖地です。
黒い石の建物が空に届くほどそびえ立ち、
中では、肉と金属が融合した怪物が徘徊していると……
目は黄色く輝き、壁を歩き、ほとんど倒すことができないそうです」
【デレク】(それは……ピラミッドの中で見た奴らだ)
【デレク】「……その『化け物』を見た奴に、会えるか?」
【イザベル】「ロスマーに来れば、学者に聞けるかもしれません。
ただ……入れるのは、教会の上位研究者だけです」
【デレク】「問題ねぇ。どうにかして入る」
《ヴァンダ:皮肉モード有効》
【ヴァンダ】「さすがです、デレク。あなたの『伝説的な交渉術』で、すべての扉が開くことでしょうね」
ツンガはアリラの祖母の遺体のそばに跪き、額から顎へと一本の線を描いた。
その唇がつぶやいた言葉は、NOVAの翻訳機でも解読できなかった。
【デレク】「……何してるんだ?」
ツンガは立ち上がり、彼をまっすぐ見た。
【ツンガ】「この女と話してた」
【デレク】「……死んでるの、分かってるよな」
【ツンガ】「死んでる。でも、まだここにいる。……お前に言ってた。
『孫を頼む』と。アリラを……守ってくれと」
デレクは思わず少女に視線をやった。
アリラは、まだ麻酔の影響で眠ったままだ。呼吸は穏やかで、苦しそうには見えない。
【デレク】(……名前、言ったか? 祖母って、言ったっけ?)
ツンガの言っていることは意味不明だ。けれど――事実として、誰かがアリラを守る必要がある。それだけは否定できなかった。
……だが、その『誰か』が、遺跡泥棒で指名手配中の俺ってのは、どうなんだ?
デレクは肩をすくめて、小さく息をついた。
【デレク】「俺は幽霊も神もサンタも信じちゃいねぇ。
でもまあ、ロスマーまで送るくらいならやってやるさ。
他の避難民と一緒に運んで、着いたら……何か考える」
イザベルは静かにうなずいた。
ツンガは少し首を傾け、何かを『聞く』ような顔をしてから言った。
【ツンガ】「女が礼を言ってる。『見守ってる』とさ」
【デレク】(この星じゃ、現実の人間より『空想の友達』のほうが多いんじゃねぇか)
バン!
装甲の手を叩き合わせる。
【デレク】「よし! 人喰い植物は倒した。ワーディライの都市に行く道も見えてきた。
ついでに幽霊まで喜ばせた。
完璧だな」
彼はツンガに笑いかけたが、返ってきたのは無表情なまなざしだけ。
【デレク】「じゃ、動くぞ。あるもんで朝飯食って、すぐ出発だ。……まだ寝てたい奴、いるか?」
【???】「……デレク?」
その声に、彼は振り返った。
アリラが立っていた。煤で汚れた目を小さな手でこすりながら。
ぐしゃぐしゃな髪が肩にかかっていた。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
デレクは、できるだけ柔らかい声で問いかけた。
【デレク】「アリラ。気分はどうだ?」
少女はあたりを見回し、それから彼を見上げて――
【アリラ】「……おばあちゃんは、どこ?」
……この星、心の底から大っ嫌いだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
あの祖母の言葉は本物だったのか?
ツンガは味方か、それとも新たな脅威か?
そして、ワーディライが築いたという禁断の都市には、一体何が――?
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次回、ロスマーへの道のりでさらなる危機と謎がデレクたちを待ち受けます。
この星は、どうやらデレクに休む暇を与えるつもりはなさそうです。
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