第2章: 砲火の中で
落下、爆発、追跡、そして砲火。
デレクはかろうじて生き延びた。だがそれは、ほんの序章にすぎない。
目的地が近づくにつれ、敵は苛烈さを増し、「人間以外の何か」が姿を現す。
この世界には、まだ「理解できないもの」がある――。
デレクは暴風に巻き上げられた枯れ葉のように、空中を舞っていた。
心臓は暴れ馬のように跳ね、視界はぐるぐると回る色の渦に包まれていた。
ディスプレイには赤い警告がひっきりなしに点滅し、耳元では風がうなりを上げ、遠心力が肺を潰さんばかりに締めつけてくる。
視界が細くなり、意識が暗闇に引きずり込まれそうになっていた。
もう、終わりか。
―――
いや、違う。
いや、今はまだ死ねねぇ。任務を終えて、コラール・ノードを手に入れて、答えを見つけるまではな。
歯を食いしばり、デレクは思念で量子ジャイロスタビライザーを起動した。
装甲全体に鈍い唸りを伴う振動が走り、回転がゆっくりと収まっていく。
背部から噴射されたマイクロスラスターが彼の体を安定させ、古びた街路へと向かわせた。
【ヴァンダ】「デレク、大丈夫ですか? あの大口径弾、数センチずれてたらアウトでしたよ」
「聞くだけで吐き気が倍増だわ」
まだ頭がふらついていた。胃の奥がグルグルしてる。
衝撃で吹き飛ばされたらしいが、ギリギリで避けられたようだ。
NOVAの外装と適応ジェルがなかったら、今頃地面の一部になってたかもしれない。
もう一発食らえば、確実に終わる。
着地と同時に走り出し、建物の陰に滑り込んだ。
まさか、あいつらが聖域に向けて大砲ぶっ放すとはな…… が――
「……今の何だよ? 観光地にあんなもんあるわけねぇだろ」
【ヴァンダ】「約七十メートル先、交差点に固定砲台。高威力の爆発弾を搭載しています」
「固定砲台? マジか。観光客に何を期待してんだ? 軍隊ごっこか?」
【ヴァンダ】「ええ、そして――あなたのセンサーよりもクローク性能が優れていたようですね」
その声は、明らかに皮肉が混じっていた。まるで全部こっちの責任みたいな口ぶりだ。
……まあ、だいたいそうなんだけどな。
ディスプレイには脚部外装の表面損傷しか表示されていない。
本体はほぼ無傷――今のところは。
「なんか隠してんな、あの連中」
【ヴァンダ】「コラール・ノード以外にも?」
「それ以外に決まってんだろ。いつもの「宝」を守るにしては、気合い入りすぎてる」
デレクは舌で唇を湿らせながら考えた。
――一体、どんな「お宝」を隠してやがる?
【ヴァンダ】「可能性はありますね。ただ、次は当たったら終わりです」
「知ってるよ。あいつ、手動か?」
【ヴァンダ】「いいえ。センターから遠隔操作されています」
「おっ。やっとポジティブな話来たな」
デレクは肩に搭載されたマイクロミサイルアレイを起動した。
小さな銀色のキューブが背中からせり上がり、前面に八つの穴が開く。
【ヴァンダ】「……過剰火力ですね」
「火力はやりすぎくらいがちょうどいいんだよ」
「こっちから「ご挨拶」してやるよ。わかりやすくな」
彼は角からそっと覗き、ターゲットを確認。
ディスプレイの青枠が、砲台をしっかり捉えている。
今のところ、砲塔は別方向を向いている。
おやおや……操作担当、ちょっと鈍いんじゃないか?
【ヴァンダ】「ターゲット捕捉」
その瞬間、砲塔が勢いよく旋回し、こっちを向いた。
「ちっ、やっぱ待ち伏せかよ!」
砲口が赤く光ると同時に、ミサイル群が一斉に射出された。
ドカンッ――!
金属音と共に砲弾が発射される。
デレクは角の裏へ飛び退いた。
ほんの数秒前まで頭があった空間を、砲弾が風切り音を立てて通過していった。
危なすぎる。
空を見上げると、灰色の空に赤く小さな光が点々と浮かんでいた。
遠くから見れば、ただの光点にしか見えない。
だが、あれがどんな代物か――デレクは誰よりもよく知っていた。
ミサイル群は突如、鋭角に軌道を変え、砲台へ一直線に突入していく。
デレクはワーディライの壁の裏に身を伏せ、衝撃に備えた。
ズガァンッ!
爆発音が響き、地面が揺れる。デレクは壁に手をついて体勢を保った。
【ヴァンダ】「砲台、無力化。ええ、控えめに言って、ですけど」
黒煙が空に昇り、砲台のあった場所を示している。
「隣の建物は?」
【ヴァンダ】「無傷です」
「は?」
一瞬、聞き間違えたかと思った。無傷? あれで?
慎重に角から覗くと、砲台があった場所には見事なクレーター。
だが、すぐ隣の黒く滑らかなワーディライ建造物の壁は、まるで新品のようにピカピカだ。
「……バケモンかよ。あのミサイル、宇宙船の装甲だって貫くのに」
あの素材、NOVAの装甲に使えたら――夢が広がるってもんだ。
ミニマップを確認したデレクは、眉をひそめた。
「信者ども、足が止まってるな。ちょっとビビったか?」
【ヴァンダ】「どう動くべきか判断に迷っているようです。今が突破の好機かもしれません」
「いや、予定通りだ。こっちは「計画」に従う主義でね」
脚部のアクチュエーターを再作動させ、ミニマップに示されたアーティファクトへ向かって一直線に走り出す。
【ヴァンダ】「今やってることを「計画」って呼ぶの、相変わらずですね」
「成功してりゃ、何でも計画って言えるんだよ」
彼女の返事はなかったが、脳内でバーチャルな目が呆れて転がってるのが手に取るように分かる。
デレクは高層の建物に挟まれた狭い通路に入り込んだ。
まるで峡谷のような空間――ただし、壁の一面は鏡のように反射している。
チラッと映る自分の姿。
漆黒のNOVAアーマーは、周囲の遺跡と同じ色だが、その質感は段違いに艶やかで滑らかだった。
しなやかな金属樹脂の関節が自然に動き、赤く光るアイセンサーが悪魔の目のように輝いている。
俺の技術。
俺の悪魔。
【ヴァンダ】「追跡者が再接近中です」
「……マジかよ。蒸発したくて来てんのか?」
【ヴァンダ】「分析によれば、彼らはあなたの最終目的地を把握した時点で再び追跡を開始しました」
「つまり、「お宝」を守るためなら死ぬ覚悟まであると」
【ヴァンダ】「可能性は高いです。その遺物は、彼らの文化で重要な意味を持っていますから」
「使い道もわからねぇ物のために命捨てるとか、バカとしか言いようがない」
【ヴァンダ】「それが彼らの「信仰」というものです、デレク。彼らはワーディライが再び現れ、次の存在段階へ導いてくれると信じているのです。その時まで、敬意と記憶の保存が必要だと」
「ふーん。つまり、俺があの遺物持ってくと、「天国」が台無しになるとでも?」
【ヴァンダ】「そうなりますね。彼らにとって、あなたは「楽園の泥棒」です」
デレクは角を曲がり、装甲が石畳に擦れてオレンジ色の火花を散らす。
嫌な金属音に顔をしかめたが、すぐに体勢を立て直し、走り続けた。
「宇宙ってのはな、密室で膨らみ続ける屁みたいなもんだ」
【ヴァンダ】「壮大な宇宙論、ありがとうございます」
「どういたしまして」
脚部アクチュエーターは全開。
NOVAは高級グラバイク並みの速度を出していた。
熱制御、栄養補給、水分バランス――全部スーツが自動で管理している。
【ヴァンダ】「接触警告。六つの反応、今度は前方に出現」
「……さては本格的に俺を怒らせたな」
急停止。スパークと煙が地面を焼いた。
【ヴァンダ】「それをお伝えしようと……」
「いや、宗教講座しか聞こえなかったけど?」
「ところで、地面って建物と同じ素材か?」
【ヴァンダ】「なぜ急に地面を?」
「俺の理由なんかどうでもいい。材質は?」
【ヴァンダ】「建物とは異なり、地面はただの石材です」
「なら……試す価値はあるな」
彼は全力で駆け出し、敵の出現予測ポイントへ突っ込む。
【ヴァンダ】「で、デレク? 一体何をする気ですか?」
【デレク】「教えても無駄だろ? あんた、俺の趣味嫌いだし」
タクティカル・インテル・リレーを起動。
ディスプレイに色分けされた無数の軌道予測と結果確率が一斉に展開される。
一つとして確実な手段はない。
だが、選ばなければならない。
前方に現れた六機のホバービークル。
白いボディが数メートル浮かび、スラスターが唸りを上げている。
デレクはNOVAを停止させ、両拳を構えた。
前腕の多相プラズマ・パルスキャノンを起動。
ターゲットロック――最前列の二機。
拳をわずかに下げて、発射。
ズガァァン!
超高温プラズマ弾が地面に着弾し、石畳が爆ぜる。
後続の五機は急停止、進路を逸らして分散。
だが――先頭の一機は爆風で宙に吹き飛んだ。
二人の兵士が空中でバラバラに投げ出される。
【デレク】「クソッ!」
アクチュエーターを最大出力までぶん回した。
一人に向かって跳躍し、片腕で掴みとる。
その勢いで建物の壁を蹴り、着地と同時にもう一人へ跳ぶ――
……が、直感した。
間に合わない。
兵士は地面に叩きつけられ、骨が砕ける音が響いた。
そのまま転がって、動かなくなる。
着地したデレクは膝をつき、彼の状態を確認する。
息はある。だが、腕も脚も曲がるべきでない方向に折れていた。
【デレク】「殺す気はねぇんだよ……何で勝手に死に急ぐ?」
【ヴァンダ】「三箇所の骨折、肋骨にひびが四本。他は軽傷。医療施設があれば回復可能です。今回は、幸運でした」
ホッとした瞬間、まだ兵士を抱えたままだったことに気づく。
アクチュエーターからすれば、こいつなんざ空気みてぇなもんだ。
そっと降ろしてやると、兵士はしばらく見上げていたが、やがて逃げ出していった。
【デレク】「あの一発で、信仰心も吹っ飛んだか。
……ま、あいつにはまだ判断力が残ってたみたいだ」
【ヴァンダ】「再集結する前に、移動した方がよろしいかと」
【デレク】「もう戻ってくる元気ねぇだろ。……ま、行くか」
脚部出力最大。
クレーターを30メートル跳躍で飛び越え、着地と同時に再加速。
この惑星で、俺を止められるものは存在しない。
NOVAを持ってきた判断――正解だった。
【ヴァンダ】「現在の速度で進行すれば、アーティファクトまであと数分です。
首を折りたいのでなければ、減速をおすすめします」
ミニマップを確認。赤点ゼロ。
完全に追跡を断ち切ったかのように見える。
「なあヴァンダ。ファンクラブはどこ行った? ちょっと寂しいんだけど」
――沈黙。
「診断は全部グリーン。何かあったか? 黙るのやめてくれ」
【ヴァンダ】「……あちゃー」
【デレク】「その「あちゃー」が一番嫌なんだよ。答えろ、何が来る?」
【ヴァンダ】「また接近反応です。でも……今回は人間じゃありません」
「……人型か?」
【ヴァンダ】「いえ、「部分的に」です」
デレクは唾を飲み込んだ。
【デレク】「「部分的に人型」ってなんだよ。はっきり言え、ヴァンダ!」
【ヴァンダ】「そんなに慌てるってことは……もう十分説明になってますね」
【デレク】「……クソッ」
――どうやら、「壮大な幕引き」が近づいてきたらしい。
※この作品は日本語以外の言語から翻訳されたものであり、表現に不自然な部分があるかもしれません。温かい目で楽しんでいただければ幸いです。
— Drake Steel
もし少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひブックマークをお願いします。
皆さまの応援が、次の更新の力になります。
あなたのブックマークが、日本で夢を追う外国人作家を支える力になります。