第14章: 狂信者と鋼鉄の戦士、巨大獣に挑む
危険に満ちたジャングルで、デレクは命懸けの戦いに身を投じる。
巨大な獣、そして金髪の謎の女――。
暴力と信仰、鋼と狂気、すべてが交錯する戦場。
救うべきものを守るため、デレクは再び戦いの渦中へと飛び込む。
だが、果たしてそれは本当に正しい選択だったのか?
【デレク】は全速力で悲鳴の方へ突っ走った。ノヴァの重い足がジャングルの土をドスン、ドスンと叩き、彼の心臓の鼓動と同じ速さで響いた。周囲の緑が高速で流れ、葉や枝が彼の進路を割るように飛び散った。聞こえるのは、自分のつぶやきだけだった。
【デレク】「クソ、クソ、クソ……」
あのイカれた連中が、今度は子供を狙ってる? ……子供だぞ!? 何のためにそんなことを!? こんな化け物だらけのジャングルに引きずり込んで、何の得がある?
……絶対に許さねえ。
バサバサッと鮮やかな鳥たちが飛び立ち、チョロチョロと小動物たちが必死で逃げた。何しろ、四百キロの鉄塊が突っ込んでいるのだから無理もない。枝もツタもバキバキに折れていく。
これほど速く走ったことはなかった。平地ですら。
(レベルアップのせいか?)
いや、くだらねえ。
これはゲームじゃない。現実だ。考えるべきは別だ。
あの咆哮のデカさからして、相当な化け物に違いねぇ。でも、何だ? 吠えるゾウか?
……まあいい。死地に突っ込んでるのは百も承知だ。それでも、目の前で危険に晒されてるガキから目を逸らすなんてことだけは、あり得ない。
再び悲鳴が上がった。今度は、別の――女の声も混じっていた。
その直後、ドスン、ドスンと巨体が地面を叩く音。木々もビリビリと震えている。まるで小さな地震だ。
(ヘビどころの騒ぎじゃねえな)
雷を撃つサル、酸を吐くヘビ――今まで見た中で、どれよりヤバい。
【デレク】「ヴァンダ、リペアボットを先行させろ。周囲スキャン、ミニマップにマーク。民間人は緑、敵は赤だ」
【ヴァンダ】「了解しました、デレク」
ボットたちのヴゥゥンという小さな羽音が響き、木々の中へ消えていった。
ディスプレイに緑色の点がポツポツと広がる。
【デレク】「現場に着いたらバラバラの死体しかない……とか、やめてくれよ」
その時だった。
ズガァァァン!
空気を裂く咆哮が響き、衝撃波が彼の体勢をぐらつかせた。千切れた大枝がゴウッと飛んできたが、デレクはひねるようにかわし、茂みを飛び越えて柔らかな地面に着地した。
膝で衝撃を吸収し、すぐ顔を上げる。
そこにいたのは――
ゾウ。
いや、違う。
巨大な体は絡まった毛に覆われ、頭は野生のたてがみに囲まれていた。真紅に光る目が悪意に満ち、まっすぐ一人の女を睨みつけていた。
白いマントを翻す金髪の女。
怯えもせず、剣を両手に構え、怪物と対峙していた。
【デレク】は思わず立ち止まった。
ミニマップには、二十近い緑の点が集まっている。子供も、ほかの人間もそこにいるに違いない。
そして、赤く輝く一つの点。
あの怪物だ。
戦闘状態になっていないからか? どっちにしろ――
(デカすぎる)
女なんて、玩具みたいに小さい。
レベルだのステータスだの言ってる場合じゃねえ。
喉がカラカラに乾き、背筋に冷たいものが走った。
【デレク】(あの女……死ぬな)
それでも、心のどこかで、その胆力だけは認めたくなった。
【女性】「オルビサルは我が側にあり!」
彼女は叫び、剣を構え直した。
【女性】「来い、破壊の獣よ! 我は恐れぬ!」
彼女は怪物の巨大な鼻先の下で、大きく剣を振り抜いた。
怪物はブォォォと鼻を鳴らし、一歩後退して、ズズンと巨大な足で地面をかいた。土が震えた。
【デレク】(何やってんだ、こいつ……)
【デレク】「イカれてんな……」
彼女は、たった一人で、たった一本の剣だけで、あのバケモノと戦うつもりらしい。
バズーカも、粒子ライフルも、パルスグレネードもない。
デレクなら「武器」とも呼ばないガラクタだ。
まるでファンタジーの世界から抜け出してきたような格好で。
それでも、前に出会った毛皮と葉っぱの原始人とは明らかに違った。肌は白く、服はボロだが、素材は上等だった。
【デレク】「信じられねえ……」
彼は前へ出ようとしたが、距離がありすぎた。
その瞬間――
ドンッ!
怪物の鼻が振り下ろされた。しかし、直前で白いバリアがバチバチッと展開され、巨大な鼻を弾き飛ばした。まるで高温溶接のときのような、眩い火花が四方に散った。
彼女は片膝をついたが、バリアはびくともしなかった。
怪物は怒りの鼻息を吐き、ズズンと後退した。鼻先は熱で焼け焦げていた。
【デレク】(あのバリア……前に原始人が使ったやつに似てる)
けど、こっちの方がずっと輝いてる。ずっと安定してる。
(発生装置は……見えねぇ。植生に隠してんのか?)
【ヴァンダ】「デレク。女性のエネルギー値が不安定です。このままでは耐えられません」
【デレク】(チッ……時間がねぇ)
冷静になれ。ここで考え違えたら終わりだ。
本来助けるはずだったのは――子供たちだ。
けど、今目の前にいるのは、剣を振り回すイカれ女。
そして次の瞬間、
ドオォン!
怪物の鼻が再び振り下ろされた。
バリアがバチィッと輝き、女の苦しげな声が響く。
【女性】「オルビサルよ、力を!」
火花が空に舞った。
怪物は力を緩めず、熱で焼け焦げた鼻先をバリアに押しつけ続けた。
焦げ臭い煙が立ち上り、あたりに広がったものの、怪物は一向に諦める気配を見せなかった。
【デレク】(……もう十分だ)
彼は意識でコマンドを叩き、プラズマキャノンを最大貫通モードに、アーマーを軽量化モードに切り替えた。
ターゲットロックオン。
ディスプレイに二つの青い四角が浮かび、怪物の頭を捕らえた。
狙って――
発射!
ドシュウウウッ!
金色の光線が二本、まっすぐ怪物へ向かった。
一発は鼻を貫き、ズブリと深い傷を刻む。もう一発はかすっただけで、黒い焦げ跡を残した。
怪物はドガァァァンと咆哮し、顔から血を滴らせながら周囲を睨んだ。
そして、ディスプレイに新しいメッセージが表示された。
《レベル:アイアン6》
さらに、その下には――
《体力:80%》
【デレク】(……冗談だろ)
アイアン6?
一発でももらったら、ノヴァでもひとたまりもねぇ。
彼は即座に脚部アクチュエーターを全開にして、バシュッと上空の枝へ飛び移った。
その間にも、金髪女は剣を振りかざし、怪物に突っ込んでいった。
デレクは呆れながらも、思わず見とれた。
(あのバカ、マジでやる気だ)
彼女は怪物の鼻を浅く切り裂き、一歩押し返した。
狂ってる。
でも、力も胆力も、本物だ。
デレクは再びプラズマキャノンを撃ち込んだ。狙いは鼻先。
(これで少しは怯め……!)
だが怪物は逆に、頭を振り上げ、ズガァァァァンと咆哮した。
枝がビシビシと揺れ、デレクは必死にしがみついた。
巨大な牙には、ビリビリと電撃のような光が走っている。
【ヴァンダ】「デレク。エネルギー反応が急上昇。何らかのエネルギー攻撃を準備中です」
【デレク】(クソッ、間に合わねえ)
即座に脚部出力を全開にし、枝から飛び出した。
着地予測がディスプレイにバババッと表示される。
一点集中。
そこへ向かって――
ドンッ!
デレクは女性と怪物の間に着地した。砂埃が舞い、視界を覆った。
怪物はブォォォと驚きの鼻息を吐いた。
煙が晴れると、ノヴァの漆黒の装甲が月光を反射していた。
白いマントを纏った女と、真っ黒な鉄塊。
どちらが本物の怪物か、わかったもんじゃない。
彼女が一歩踏み出し、剣と盾を下ろし、ぽかんと口を開けた。
【女性】「あなた……本当に……? オルビサルの……?」
デレクは瞬きした。
【デレク】「知らねぇな、その名前。……今は雑談してる場合じゃねえだろ」
彼は顎で怪物を示した。
だが女は、呆然としたままだった。
【デレク】(ショックか、バカか。その両方だな)
怪物が再び咆哮し、ドガガガッと地面を揺らしながら突進してきた。まるで怒り狂った機関車だ。
女性は逃げず、盾を構えて体勢を低くした。
【女性】「オルビサルは我が側にあり! 来い、魔獣よ! 我は恐れぬ!」
【デレク】(ああ、間違いねぇ。こいつ、バカだ)
デレクはすぐさま飛び出し、彼女を抱き上げるように肩に担いだ。
そのまま全速力で走り抜け、怪物の突進をギリギリでかわした。
彼女は彼のアーマーに押し付けられたまま、動けなかった。ショックか、驚きか、たぶんその両方だ。
デレクは近くの大岩の陰に飛び込み、彼女を地面に下ろした。
その直後――
ウィン、と肩のミサイルランチャーが展開された。
本気を出す時だ。
ミサイルが次々と発射され、シュルシュルと空に打ち上がったかと思うと、鋭い角度で怪物に向かって降下した。
ドガガァァン!
爆発が立て続けに起こり、ジャングル中に轟音が響き渡った。濃い煙と砂埃が辺りを覆った。
【デレク】はプラズマブレードを展開し、黒い弾丸のように前へ飛び出した。
ドスン、ドスン、と重い金属の足音を響かせながら。
怪物は見えないが、ミニマップでは位置がしっかり捕捉されていた。
レベルアイアン6。
生きているに決まっている。
接近すると、わずかに鼻先が見えた。
【デレク】は即座に跳躍し、ゴンッと怪物の鼻の上に着地した。
装甲の脚で鼻を挟み込み、アクチュエーターを最大出力に。
そして――
上半身を曲げ、プラズマブレードを両目に突き刺した!
バチバチバチッと火花が散り、ドガアアアア! と怪物は頭を振り回した。
デレクは必死にしがみついたが、とうとう振り飛ばされた。
空中でマイクロスラスターが作動し、着地の衝撃を少しだけ和らげたが、それでもドシンッと膝に来た。
アーマーがギギギ……と悲鳴を上げた。
ディスプレイに新たな警告が点滅する。
《重大損傷。熱衝撃×2。レベル差により火炎ダメージ50%減少》
ミニマップ上の体力バーは、やっと半分まで減っていた。
【デレク】(……半分? どうしてまだ死んでねえんだよ)
命懸けであの鼻面に飛び乗り、プラズマブレードを脳まで届くほど深く突き立てたってのに……まだこれか。
彼は息を整え、作戦を練り直そうとした。
だが――
目に飛び込んできたのは、金髪の女が、再び剣を掲げて突撃する姿だった。
【デレク】(……こいつ、マジで狂ってやがる!)
怪物は鼻をビュンビュンと振り回して血を撒き散らしていたが、彼女は怯まなかった。
【女性】「オルビサルのために!」
彼女の剣が、ズバァン! と怪物の鼻を切断した。
飛び散る肉片と血飛沫。
怪物はギャオオオオ! と断末魔のような悲鳴を上げた。
体力バーはさらに減少。
彼女は剣の先を地面に突き立て、一歩後退した。
目には、揺るぎない光が宿っていた。
【女性】「オルビサルの力を目に焼き付けよ!」
パアアアアッ!
空が光り、もう一つの光球が降下した。
ドカァァァン!
怪物に直撃し、衝撃波が周囲を揺らした。
電撃が怪物の体を走り、焦げた肉の臭いが立ち上った。
それでも、倒れない。
怒り狂ったまま、再び彼女に突進した。
【デレク】は全力で割り込んだ。
【デレク】「ヴァンダ、装甲質量を増やせ!」
【ヴァンダ】「承知しました」
サーボモーターがうなりを上げ、デレクは怪物の脇腹に体当たりした。
ズガガン!
重い衝撃。ディスプレイが一瞬暗転する。
システム警告がバチバチと点滅する。
それでも、押し返す。押し返すしかない。
だが衝撃でアーマーが悲鳴を上げ、彼は地面に叩きつけられた。
息が詰まり、肺が焼けたようだった。
それでも――
彼は立ち上がった。
怪物は一瞬止まったが、すぐにまた女性へ向かって向きを変えた。
彼女はまだ立っていた。剣を握り、信念の炎を宿した目で怪物を睨んでいた。
【デレク】(……狂気に限界はねえな)
膝をつきながら、デレクはプラズマキャノンを持ち上げ、発射した。
ズドォン!
砲撃は怪物の首を直撃し、よろめかせた。
だがまだ立っている。
体力バーは20%を切り、オレンジに染まっていた。
デレクはプラズマ残量を確認する。ギリギリだ。
その時――
怪物の牙が伸び、触手のように女性へ襲いかかった。
彼女は剣で受け止めたが、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
【デレク】(……クソッ)
デレクは立ち上がり、怒鳴った。
【デレク】「こっちだ、このバカ怪物!」
怪物は怒り狂ってデレクへ向かってきた。
牙がシュッと突き出される。
デレクはギリギリでかわし、プラズマブレードで牙を叩き落とした。
もう一方の牙が迫ってきた。
デレクは両手で掴み、必死に押し返した。
だが、牙の先端はじわじわと喉元に近づく。
心臓がドクドクと打ち、警告アラートがディスプレイを埋めた。
【デレク】(――クソ、持たねえかもな)
その時だった。
【女性】「オルビサルの栄光のために!」
彼女が復活し、剣を一閃!
牙の先端がゴトリと落ちた。
彼女は止まらず、ズバズバッと怪物の脚や腹に剣を叩き込んだ。
体に刻まれた無数の赤い傷口から、血が滝のように噴き出し、怪物はよろめいた。
【デレク】(今だ!)
デレクもプラズマブレードを振るい、怪物の背中、脚、首を焼き切った。
ズバァァッ!
ジュウウウ……
焦げた肉の臭いが周囲に充満する。
体力バーはついに真っ赤になり――
怪物は足を折り、地面に崩れ落ちた。
女性は剣を構え直し、叫んだ。
【女性】「オルビサルの慈悲を受けよ!」
ズドン!
剣が怪物の胸に突き立った。
怪物は最後の痙攣を見せ、動かなくなった。
ディスプレイにメッセージが浮かび上がる。
《オーリックレベルアップ。アイアン4到達》
《オーリックレベル:アイアン4 アップグレード可能数:2》
【デレク】(……やっとかよ)
彼はプラズマブレードを解除し、シューッと刃を収めた。
残量は限界寸前だった。
【デレク】(もう一戦なんて無理だな)
彼は女の方を見た。
細い腕で、あれだけの一撃を放ったことに驚く気力すら残っていなかった。
女は剣を引き抜き、血の中に立っていた。
鋼のような灰色の目が、まっすぐデレクを見据えている。
その意志は、いささかも揺らいでいなかった。
狂気じみた信念――だが、それもまた本物だった。
彼女は血にまみれた剣の切っ先を、デレクの喉元に突きつけた。
【女性】「正体を明かせ。さもなくば、オルビサルの怒りを受けるがよい!」
荒い息を吐きながら、宣言した。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
多くの無辜の命が懸かった戦いの果てに――運命は再び動き出す。
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あなたの応援が、次なる戦場への扉を開きます!




