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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第一章 廃墟から聖都ロスメアへ
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第10章: バナナのティアラは要らない

「ジャングルでバカンス」って言ってたよな?

新鮮な空気、珍しい野生動物、殺意マシマシの電撃サル――は、予定に入ってなかった。

NOVAなしで命がけのマラソン中。

最高の一日だな。

木々の上から、かすれた叫び声が響く。歪んだような声が幹から幹へと反響し、ジャングルの奥でこだまする。

近づいてくるかと思えば、また遠ざかり、そして――

また戻ってくる。

 

デレクは全力で走っていた。脚も肺も限界、息はヒューヒューと鳴り、まるで古びた蒸気機関車のようだ。

シャツは汗とジャングルの湿気でべったべた。

いつものようにNOVAのアクチュエーターで走れたらよかったが、今の彼はただの生身。

そのギャップに自分でもイラつく。遅くて、鈍くて……ぶっちゃけ、みっともない。

 

顔にはツルやラタンの葉がビシバシ当たり、空中にはぼんやりと光る玉が漂っていた。

……まるで熱に浮かされた悪夢の中にいるみたいだ。

 

バリバリッ――ッ!!!

近くで電撃が炸裂し、木が爆発炎上。

熱風が顔を焼き、髪を後ろに吹き飛ばした。

上空ではサルたちの叫び声が四方から降り注ぐ。容赦のない全方位シャワーだ。

 

逃げ道なんて、最初から存在しない。

ただ、走るしかない。

 

あのクソどもは動いてる標的に当てるのが苦手そうだが――

数が多すぎる。

いつか一発が当たる。

その時が終わりってわけだ。

 

【ヴァンダ】「デレク、しっかり! お願い、持ちこたえて!」

 

【デレク】「やってるっての、ヴァンダ……!」(ゼェ、ゼェッ)「NOVAさえあれば、こんなの楽勝だったのによ」

 

彼は上空を飛ぶ三角形のドローン――NOVAの残骸を睨む。ヴァンダが操縦していたが、木々のせいで接近すらできていなかった。

あれがアーマーに戻って、こっちに装着するには……立ち止まらないといけない。

普通なら簡単な動作だ。

でも今止まったら――死ぬ。

 

【ヴァンダ】「ロックできない。動きすぎ。ウサギでも追ってるの?」

 

皮肉の一つでも返そうとしたが――

 

ズバァン!!!

前方の茂みが爆発し、閃光と電流が飛び散った。

デレクは止まろうとしたが、足が濡れた葉に滑る。

ズシャァッ……

あと一歩でクレーターに突っ込むところだった。

体をねじり、新たな方向へ走り出す。

 

【デレク】「今、止まってる余裕なんかねぇっての!」

 

【ヴァンダ】「了解。それで? 計画は?」

 

デレクは木の上を一瞬だけ見た。姿は見えない。

雷撃はブラインドで撃たれている。

――つまり、向こうも見えてない。

なるほど、狙いが下手なわけだ。

 

【デレク】「ヴァンダ、戦術照準アルゴリズム、起動。俺の軌道を予測して追え」

 

【ヴァンダ】「……了解。アルゴリズムを再設定して、対象を『あなた』に変更中」


その時、背後で――

ドォンッ!!!


2発の電撃が地面を撃ち抜いた。

爆風で吹っ飛ぶ。地面に叩きつけられ――

ぐっちゃりした泥水が顔面にヒット。


【デレク】「っげ、うえっ……!」


腐った水と一緒に、柔らかい何かが口に入る。

デレクは盛大にしかめっ面で泥を吐き出し、ゴホゴホと咳き込む。

喉が焼ける。

耳の奥で心臓の鼓動がうるさい。

このジャングル、マジで最悪だ。

 

それでも――

彼は脚を動かし続けた。

木々の間を、蔦をくぐり抜けて、全力で。

 

【デレク】「ええよ、ヴァンダ。のんびりやってくれ。俺、急いでねぇから」

 

その瞬間――

 

ドスンッ!

巨大な影が目の前に落ちた。

数メートル先に、でかいサルが着地していた。

 

周囲のサルたちの声が、一斉に止む。

雷撃も、止んだ。

 

デレクは思わず立ち止まり、息を切らしながらサルを見つめる。

服は汗と泥で肌に張りつき、呼吸は荒い。

 

(何だ……? 何が変わった……?)

唯一の救いは、ヴァンダがロックオンできるようになったこと。

でも、彼女が間に合うかどうかは――完全に運次第だ。

 

そのサルは明らかに他の連中よりデカい。

目は赤く光り、見るだけで吐き気を催す。

しかも、こいつの登場と同時に周りが退いた。

リーダー格――ってわけか。

 

デレクは奥歯を噛み締めた。口の中はカラカラに乾いている。

直感が警告する。

――こいつが来たら、今までみたいに避けきれない。

彼は全身を構えた。来るべき一撃に備えて。

 

【デレク】「……アホみてぇな死に方しそうだな、これ」

「オマエ……!」

低く、ガラガラした声。まるで岩を潰したような響き。

サルが、喋った。

 

デレクは目を見開き、口を開けたまま固まった。

……何だよこれ? まるで地獄のサーカスじゃねぇか。今度はサルが喋り出すし……次は何だ? ジャングルの動物総出で、感動的なミュージカルでも始めるつもりか? 

馬鹿な。絶対ありえない。

でも――イヤーピースの翻訳機は、確かにあの一語をこう訳した。

「オマエ」

 

……熱で脳ミソやられてんのか、俺。

 

【デレク】「で……何かご用命でも?」

かすれた声で時間稼ぎ。

呼吸を整えつつ、ヴァンダがアルゴリズムを完成させる時間を稼ぐ。

 

「動クナ。動ケバ、外ス」

大猿が唸るように言い、指差した先――

頭上の枝には、サルたちが目を光らせて彼を見下ろしていた。

 

(なるほどな。胸にデカデカと的でも描いといて、あいつらが外さないようにしとくか)

 

その時――背後から聞き慣れた『ブーン』という電子音。

デレクの口元がニヤリと歪む。

来たな、ヴァンダ。

 

彼は両手を胸にあて、わざとらしく謝罪のポーズ。

【デレク】「ああ、それだけ? もっと早く言ってくれればよかったのに。ごめんよ。君たちの感電芸を回避しちゃって、ほんと悪気はなかった。今からは完ッ全に静止しとくよ。満足?」

満面のドヤ笑顔。

 

サルの口が裂け、むき出しになった歯茎とギザギザの牙が見えた。

「……感謝スル」

それだけ言って、叫び声を木々の上へと向けて放つ。

 

――終わりだ、クソサーカス。

 

【デレク】「ヴァンダ、今ッ!!」

 

ブシュゥゥゥッ!!

NOVAが背後から彼に追いつき、冷たい金属の抱擁で彼を包み込む。

パーツが滑るように重なり、磁力でカチカチとロックされていく。

脚部、胴体、腕部――一つずつ、完璧に。

 

サルが睨み返し、眉間に皺を寄せる。

「ナニヲ……シタ?」

 

ヘルメットのバイザーが閉じる直前、デレクはウィンクと笑顔を残す。

 

ピピッ……

視界に、見慣れたHUDが立ち上がる。

けど――そこには、見慣れない表示が混じっていた。

 

サルの頭上に、黄色い文字が浮かんでいる。

 

  《レベル:アイアン2》

 

その下には、緑色のバーが一本。

まるで、体力ゲージみたいな表示。

 

考える時間なんてない。

デレクは腕を振り、プラズマキャノンを展開。

青い照準が、ピタリとサルの胸を捉える。

 

サルは吠え、掌に赤と白の渦巻くエネルギー球を形成し始めた。

その目――真っ赤に光り、怒りで燃えている。

 

(へっ、やらせねぇよ)

 

デレクはトリガーを引いた。

 

ズドォン!!!

 

金色の光が放たれ、サルの腕ごとエネルギー球を吹き飛ばす。

 

ブシャッ!!!

血と焦げた毛皮が空を舞う。

HUDのゲージが一気に減り、赤く点滅した。

 

  《残量:わずか》

 

サルは絶叫し、ジャングルが再び地獄の混沌と化す。

白い雷撃があちこちから降り注ぎ、彼に集中している。

 

【デレク】「……お返しだ、クソ猿ども」

 

彼は脚部アクチュエーターを全開にし、地面を蹴った。

ブォン――!!!

まるでジェット推進のバイクみたいに、デレクは一気に加速する。

 

笑みを浮かべながら。

今の自分は、ただの人間じゃない。

――『悪魔』だ。

 

当たらなかった人間を、今のNOVAが止まるわけがない。

デレクは回り込み、苦悶にのたうつ巨大ザルの背後に立った。

血の飛沫が森の地面に弧を描く。

断末魔は弱まり、呼吸はズズッ……と擦れるような音。

まるで倒木を森の奥で引きずるような、鈍い呻きだった。

 

今にも死にそうだ。

だが――

再生する可能性は、ゼロじゃない。

 

【デレク】「……生き残ってまた来られても困るしな」

 

プラズマブレードを抜く。

スゥ……と音を立てて、刃が燃え上がる。

即座に一閃。

 

ズバッ――!

 

首が飛ぶ。煙と光を引きながら宙を舞い、

ボチャッ

と鈍く湿った音を立てて地面に落ちる。

胴体は一瞬、カタく固まり――そのまま

ドシャァンッ!

と崩れた。

 

NOVAの中にまで入り込む、焦げた毛と焼けた肉の臭い。

むわっ……と押し寄せてくる。

吐き気を催す悪臭が、喉の奥にへばりつく。

 

7000ケルビンのプラズマは、瞬時に傷口を焼き固め、血飛沫を最小限に抑える。

そのおかげで、この『処理』も効率的だった。

 

  《オーリック・レベル上昇:アイアン2 到達》

 

その瞬間――

 

サルたちの叫びが、一気に高まり……

 

ピタッ。

一斉に、沈黙した。

 

(……は?)

 

彼は視線を上に走らせるが、何もいない。

 

トン……

小さな着地音が背後から響いた。

 

クルッと回り、ブレードを構える。

現れたのは、少し小柄なサル。

目を赤く光らせ、じっとデレクを睨んでいる。

 

その頭上に、緑の文字が浮かぶ。

 

  《レベル:アイアン1》

 

その下には、満タンの緑色ゲージ。

 

……またかよ。

 

トン……トン……トン……!!

次々に、着地音が響く。

十、いや――十数体が、周囲に降りてきた。

 

デレクは一回転して、状況を確認。

完全に――囲まれている。

 

(プラズマキャノンで何体かは倒せる。でも、撃ち切る前にこっちもやられる)

 

装甲がどこまで持つかは、未知数。

あの火球バカとやり合ったあとだ。

もう無茶はしたくない。

 

【ヴァンダ】「……デレク?」

 

【デレク】「ああ?」

 

【ヴァンダ】「なんで、襲ってこないの?」

 

彼は辺りを見渡す。

十数体のサルが、無言で――だが鋭い視線で、彼を睨んでいた。

全員、全く動かない。気配すらない。

 

【デレク】「知らん。お前が直接聞いてみたら?」

 

その時――一匹のサルが膝をつき、頭を地面に伏せた。

 

【デレク】「……は?」

 

【デレク】「なにこれ? 新しい攻撃モーション?」

 

【ヴァンダ】「違うと思うけど」

 

次々に、他のサルたちも頭を下げていく。

デレクは目を見開いたまま、その異様な光景を眺めた。

十数体の青白く輝くサルたちが、彼を囲んで――ひざまずいている。

まるで、朝日の中で儀式でも始まりそうな雰囲気だ。

 

(……やべぇ。これ俺、神扱いされてんのか?)

 

彼はNOVAの脚部をジャンプモードに切り替え、敵意があればすぐに飛べるように備えた。

虫の羽音が戻り、鳥の鳴き声がジャングルに響く。

ようやく気づいた。

――さっきまで、あまりにも静かすぎたことに。

まるで、ジャングル全体がこの戦いを見守っていたみたいだ。

そして――終わった今、日常が戻っただけ。

 

サルたちは頭を下げたまま、ピクリとも動かない。

まるで、命令を待っているかのように。

リーダーを倒したことで、群れの『新たな支配者』と見なされたのかもしれない。


【デレク】「……はぁーっ」

短くため息をつく。

表示された心拍数が、ようやく落ち着いてきた。


【ヴァンダ】「おめでとう、デレク。これで君も、『サルの王様』ね」

 

【デレク】「……黙れ」

 

【ヴァンダ】「バナナのティアラで、正式に戴冠してもらえるかもね?」

 

【デレク】「はぁ……」

ふんと鼻を鳴らして、首を振る。

 

小さく咳払いしながら、彼は疲れた笑みを浮かべた。

【デレク】「えーっと、なあ。通じるか分からねぇけど……」

「別にお前らのボスになる気はねぇし、攻撃するつもりもない。だからよ――これでチャラってことでいいか?」

 

彼らに通じているのか、分からない。

だが、言ってみる価値はあった。

 

サルたちは一体ずつ顔を上げ、互いに視線を交わす。

そして、誰も何も言わず――

 

ヒュンッ、ヒュンッ……

次々と木の上へと跳び、密林の奥へと消えていった。

 

姿が見えなくなるまで、デレクはじっと見送った。

 

(……ひとまず、終わったか)

 

彼は顔をしかめながら、ディスプレイの新たな表示に視線を向けた。

 

【デレク】「なあヴァンダ。これ、何だ?」

 

【ヴァンダ】「わからないわ。OSのデータじゃないし、発信元も不明」

 

【デレク】「仮説は?」

 

【ヴァンダ】「……ないわね。少なくとも、まともなものは」

 

【デレク】「……そろそろ、『まともじゃない』可能性も考えるべきかもな」

 

ディスプレイの隅――小さく表示された一行に、彼の視線が留まる。

 

  《オーリック・レベル:アイアン2 アップグレード可能:1》

 

それを口に出す気にはなれなかったが。

通知も、ゲージも、レベルも、魔法じみた攻撃も……全部そろっている。

 

まるで、クソな――

ゲームの中にでも、入り込んじまったみたいだった。

おめでとう、デレク。

これで正式に「ジャングルの王様」だ。

必要だったのは、プラズマブレードでデカいサルの首を飛ばすことだけ。

大したことないよな。


次回の更新は、4月29日(火)21:00を予定しています!

27日と28日はお休みなので、お間違えのないように

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