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ホラ穴

 山間(やまあい)にある、町というよりは村と呼んだほうがしっくりくる小さな町に旅行へと来た僕は、そこで住民のお爺さんに、観光名所というか、名物とでも言うべき場所の話を聞かせてもらった。


洞穴(ほらあな)、ですか?」

「おうよ。ここから山の頂上に向かってずーっと行くとな? よぉく見ないと分からないんだが、途中で分かれ道があるんだよ。その分かれ道の先にあるんだ。ここいらでは有名なホラ穴だ」


 そのお爺さんはどこがどう面白くて有名なのかは言わなかったが、とにかく行ってみろ、としきりに勧めてくる。

 特に計画もない羽休めのような旅行であったのでその言葉に従うことにした僕は、翌日にその洞穴へと行ってみた。


 お爺さんはよく見ないと分からない分かれ道だと言っていたが、そう労せずに見つけることが出来た。洞穴の周りにはロープが張られており、近くには古い看板が立っている。その看板を読んでみると、とても珍しい動物が住んでいる洞穴なのだという。

 しかしそれ以上は特になにも書かれておらず、見た目にもそう珍しいものではない。


 こんなものが名所になるほど他に見所のない場所なのかな、そんなことを考えながら宿に戻った僕に、あのお爺さんがまた話しかけてきた。


「どうだった?」

「……珍しい動物のいる洞穴は初めて見ました。なかなか面白いものが見れました。ありがとうございます」


 名所ということだったので出来るだけ相手のプライドを刺激しないように気を付けながら僕はそう言った。しかしお爺さんはニヤニヤと面白そうな顔で笑いながら「そうかそうか、動物か」と一人で呟き、そして僕にこう言った。


「時間があるのなら、明日またもう一度行って、看板をよおく読んでみなさい」


 どういうことだろうと首を傾げるが、しかし特にやることもないのだ。

 次の日も僕はその洞穴に行ってみた。昨日と同じように洞穴の周りにはロープが張られており、近くには古い看板がある。

 あのお爺さんの口ぶりからなにかあるのかと、僕はその看板を読んでみた。すると、その看板には「希少鉱物のある洞穴」というようなことが書いてあった。

 僕はどういうことだ、とその看板を何度も見てみる。書き直したようなあともなく、間違いなく昨日と同じ看板と洞穴である。しかし書いてある言葉が違うのだ。


 肝を潰した僕は急いで町へと戻ると、あのお爺さんを捕まえていま見たことを話してみた。するとお爺さんは楽しそうに笑い、今度は俺も一緒に行こうと言った。

 そしてお爺さんを連れてまた洞穴に行ってみる。そこにはやはり洞穴と看板があった。しかし今度はその看板には「落下事故多発」と書かれている。たとえ誰かのイタズラだとしてもこんなに早く書き直せるわけがない。

 どうなってるんだと僕が目を白黒させていると、お爺さんが洞穴の方から僕を呼んだ。


「お前さん、このホラ穴を覗き込んでみたか?」


 その言葉に僕は首を左右に振る。するとお爺さんは懐中電灯を取り出すと、僕に覗き込むように言ってくる。

 僕が言われるがままにその洞穴を覗き込むと、お爺さんは懐中電灯で照らした。


 その洞穴はひどく浅いもので、希少な動物も、鉱物も、落下するような深さすらなかった。


 え、なんで、と混乱する僕を見てお爺さんはからからと笑って言った。


「だからここはホラ穴なんだよ」


 嘘つきだからな。

お読みいただきありがとうございます

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