【最終話】ハッピー(?)エンド
登場人物が段違いに多いので、名前を憶える必要はありません。
憶えなくても読めます。
『前略、クラリス様。ご機嫌いかがでしょうか。
さて、いきなり本題に入りますが、あなたは再スタートのループを抜け、全キャラ溺愛ルートに進むことができます。
溺愛ルートに入りますか? それとも再スタートルートに戻りますか?』
【YES|NO】
くぅ、この選択肢はズルい。どちらにせよ、再スタートルートに戻ったらまた何度もループするに決まっている。私はもう飽きたのよ、同じことの繰り返しは!
悩むことなくYESを選ぶと、世界が虹色に輝いた。
時計を見ると丁度午前0時。いつもなら朝に引き戻されるはずが、その時間を過ぎてもループしない。初めて見る再スタートのその先に感動する。
「やった! これで私は新しい時間を生きられる……!」
「そうですね、わたしたちの未来を一緒に生きましょう」
感動している私の肩を馴れ馴れしく抱いて、そっと手を取った人物が同意の言葉をささやく。あろうことか、私の耳元で。
「ひゃあぁぁ」
突然のことで、思わず耳を押さえ悲鳴を上げた私を軽くバックハグした人物は、王宮魔導士のアルトだった。
こっそり近付いてくるの本当にやめてください! 心臓がいくつあっても足りませんから!
そのままほっぺに軽くキスをして、照れる私を横目に「わたしを選んでくださっていいんですよ?」などと、美しい顔面に神々しい笑みを浮かべている。
控えめに言って好き。そんなに傲慢でないのに、自信過剰なところが好き。だけど困ったことに、そのほかの三十三人もそれぞれに魅力があって好き。選べない。
困り顔の私を見て、少し考えたアルトは私から身体を離して正面へと回り、その場で片膝をついた。
「わたしはあなたを困らせるような存在でいたくない。ですから、わたしなしでは生きられないほどに、あなたを存分に甘やかしましょう。あなたが心地よい距離をお約束いたします」
何も言わないが、自分を選べと物語る視線から目を離せない。ドキドキ高鳴る胸の鼓動を押さえられずに立ち尽くした私の背後から、複数名の声が聞こえてきた。
「ずるいです!」
「抜け駆けじゃないですか!」
「明日の朝からという取り決めでは?」
「順序を守ってください」
「チャンスは全員にあるんですから」
おかげで緊張からくる拘束が解けて、私は声のする方を見ることが出来た。
寮の入り口からこちらに向かって走ってくるのは、騎士団員の「カルロ」「エンリコ」「ローラン」「マキシム」「シャルル」そして同室の「ロバート」だった。
「クリスが女だと言うことは全員周知の事実となったから、寮のやつらと相談して部屋を個室に割り当て直したんだ。だから荷物を運ぶのを手伝おうと思ったのになかなか戻ってこないから、心配したよ」
そう言ったのはロバート。優しいところがとっても好き。
「窓から外を見たら、アルトが寄り添ってるじゃないか。慌てて起きている奴らを招集して駆けつけたんだよ」
物怖じせずに自分の意見をキチンと言えるカルロ。好き。
「今日はもう遅いし、部屋を移動して早く寝た方がクリスの為だろう?」
シャルルの気遣いが胸を打つ。好き。
「さあ、一旦寮に戻ろう」
強引に私の手を引くローランの力強いところ、好き。
「では、また朝から正々堂々と戦いましょう」
そう言ってアルトにお辞儀をし、その場を収拾する冷静なシャルル。好き。
「……」
存在感は無いのに、こういう場にはかならず駆けつけてくれるエンリコ。好き。
どのキャラにも思い入れと愛情がたっぷりあるから、私から特定の誰かを選ぶなんてことはできない。
今の時点で、この先「溺愛されまくりルート」しか残っていないことにちょっとだけ鼻の下を伸ばしながら、朝からどんな未来が待っているのかワクワクしている自分がいた。
新しいスタートを祝福するかのように、普段は鳴らない深夜にもかかわらず、鐘の音が美しく響き渡った。
END
最後まで恋愛ギャグ小説をお読みいただきありがとうございます。
次回は登場人物紹介となりますので、このお話はここで最終話となります。
面白いと思ったら、ページ下の方にあるいいねをお願い致します。
皆様のいいね・ブクマ・感想・レビューでこれまで執筆を続けることができています。いつも本当にありがとうございます。