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ストーリア・ディ・ロッタ  作者: 乙訓野添
第一章 非モテ脱却
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5 スピード破局と厄落とし

 カーテンの隙間から差し込むの陽の光で、目が覚めた。雀が鳴いている。いわゆる「朝チュン」というやつだ。約半年前、神の啓示を受ける以前は、話しにしか聞いた事にない情景が、今、現実に、自分の寝室で起こっている。これはまことか。夢じゃないのか。実は目が覚めたら、いつもの様に隣の6畳間のやっすいカーペットの上で、毛布被って寝てるんじゃないか。

 ふと、横を見てみると、彼女が寝息を立てて寝ている。明るくなってから見ると、やっぱり残念な見た目だ。それでこれが現実だと実感した。と同時に、ちょっとガッカリした様な現実感にも襲われた。誰にしも理想はあるだろう。非モテだろうが理想はある。それから大きく外れていれば、残念な気持ちになるのも仕方ない。いわゆる「賢者モード」とまでは行かないが、まぁ、こんなもんなんかなといった気持ちが無かったといえば嘘になる。

 しかしまぁ、これが自分が努力した到達点なのだ。他の人はどうなのか知らないが、思春期から非モテを15年以上も拗らせた自分にとって、彼女を作って朝チュンするというのは、2階に上がるのにスペースシャトルを打ち上げるほどのパワーが必要だったのである。しかし、どういう形であれ、打ち上げは成功したのだ。大した魔法が使えた訳ではなかったが、魔法使いを廃業した。

 非モテの独身生活と、曲りなりにも彼女のいる生活の、決定的な違いは、生活に潤いがある、という事である。メールをするにしても、これまでみたいに、一言間違えばアウトになる様な嫌な緊張感がない。朝のおはようから始まって、昼休み、仕事が終わって帰ってから、そしておやすみまで、ラブラブしたメールが楽しめるのは、これまでの人生にない幸福感であった。彼女は訪問入浴サービスの仕事をしていたが、自分が休みの時にたまたまウチの近所に来ているという事で、わざわざスクーターに乗って会いに行こうともした。ナビが上手でなくて、結局会えず終いだったのだが、こんなバカな事だって、これまでにない新鮮な体験だった。

 そのまま付き合い続けていくもんだと思っていた。ところが、付き合いだして2週間ほど経ったころ、どうした訳か風邪をひいてしまった。まだ冬にはなってない頃で、銭湯から帰ってきてパンツ一丁でいたのが油断だったのかもしれない。しかも熱が39度も出て、仕事も休まねばならなかった。自分は熱が出ると途端にダメになってしまうのだ。

 その間にも、彼女からはいつも様にメールが届いていた。熱だして彼女から心配されるなんてのも初めての体験だったが、熱はどんどん上がっていって、返信するのも難儀になって、遅れがちになった。すると、段々と彼女が疑心暗鬼になり始めた。こちらが熱出して寝込んでるというのも、逃げ口上に捉える様になってきた。いくら否定しても、余計にひどくなるばかり。そして、とうとう、


 「結局、体が目当てだったんだね。もういい」


 とメールがきた。一体全体、どうしてそういう発想になるのだろうか。その時は全然分からなかった。それどころか、その頃にはもう、返事するのも億劫だったので、これ幸いに返信した。


 「ああそう」


 それっきり、メールは来なくなった。やり逃げされたと思われたのは心外だったが、とにかく泥の様に眠りたかった。今にして思うと、見た目が残念なのは、彼女にも自覚があったのだろう。「好きになった相手」に自分の体を与える事で、気持ちを繋ごうとしていたのもあったのかもしれない。ところが、やり捨てされたと感じたのかもしれない。残念な気持ちの行き違いであるが、自分もそれほど引きずらなかったのは、やっぱり見た目が残念で好みでなかったからだ。残酷で得手勝手な事である。

 こうして、人生初の彼女は、わずか2週間をもたずしてお別れする事になったのだが、話しはこれで終わりではない。風邪が治って職場復帰してからも、何かしらトラブルや不幸に見舞われた。スピード違反で違反切符を切られたり、財布を落としたり、家の鍵を無くしたり。不注意と言われればそれまでだが、にしても立て続けである。何が起こったのだと訝しんでいた。

 そんなある日、仕事に持っていっているカバンの中を漁っていると、何やらビール券が出来た。と同時に、それを前カノから貰ったのを思い出した。しかし、自分は酒を飲まないので(飲む時は死にたくなった時だけ)、誰かにあげようと思ってカバンにしまい込んでいたのだ。そこで、職場の酒好きのおっさんにくれてやる事にした。おっさんは喜んで貰ってくれたのだが、なんとその夜、職場のみんなから集めた屋形船パーティーの費用をそっくりどこかに落としてしまうという惨事に見舞われた。自分は密かに、あのビール券が、とある宗教団体を信仰してた前カノの呪いの呪符であった事を察知した。もちろん、そんな事は、口が裂けても言わなかったのだが。

 こうして厄落としてした自分には、次のステージが始まるのである。

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