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ストーリア・ディ・ロッタ  作者: 乙訓野添
第一章 非モテ脱却
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1 神の声

 それから長い年月が過ぎた。その間に、正社員として就職し、その会社が潰れ、失業保険貰いながらブラック企業を転々とし、ようやくまともな会社に入って、落ち着く事が出来た。気がつけば、30歳になっていた。この間、浮かれた話しは全くなかった。職場にも、趣味でも、生物学上の(フィメール)じゃない、女性と知り合う機会は、全く無かったからである。彼女いない歴=年齢、どころではない。当時の基準で行けば、魔法使いになって5年くらいになっていた筈である。というのも、ちょっとピュアなところがあって、風俗は行きたくなかったからである。(風俗に行く稼ぎがなかったとも言える)

 しかし、ある日の事。賃貸アパートの6畳間に寝転がり、古びた天井をぼんやり眺めていると、何やら声が聞こえた気がした。曰く、


 「このままでいいのかい?」


 神の声だと思う。即座に返事した。


 「嫌です!」


 この瞬間から、彼女を作る一大決心をした。これまでは一目惚れだったから、確たる対象が居たのであるが、これからはどこにいるか分からない「彼女」を見つけ出さねばならない。鳥取砂丘で手探りで砂金を探す様なものである。

 そこでまず考えたのが、「恋愛の仕方」を学ぶ事だった。当時はネットなどない。情報は全て本である。なので、本屋に行って恋愛本を探した。ピピっと来たのは、当時新進のとある心理学者の書いた本だった。それを片っ端から読んだ。それらの本から学んだのは、


 「人に好かれる前に、まずは自分を好きになりましょう」


 という事だった。実のところ、それまで自分は自分の事が好きでなかった。自分は不遇な人間で、挫折を友として生きてきた、と思っていた。しかし、そんな人間が、魅力的に見えるだろうか。見えるはずがない。じゃぁ、どうすれば自分を好きになれるのか。それらの本に答えが書いてあった。


 「ちょっとした利点、努力、成功、これらの積み重ねを、誉めましょう」


 要するに、大成功を収めてなかったとしても、ちょっとちょっとした成功はあるものである。例えば、試験場で大型二輪の免許を取ったとか、サバイバルゲームのチームの隊長をやってるとか、失業を乗り越えてちゃんと正社員で働いてるとか。何もない人生ではないのだ。

 見た目がブサイク、というのだって、そう思うなら痩せる努力をすれば良いのだ。清潔感や服装にも配慮をすれば良いのだ。そうした努力の積み重ねが、自分にとっての成功体験となり、自信の源泉になるのである。

 そして、これは自分にとって、一番大事な事である。


 「失敗を恐れない」


 確かに、小中高と、失敗する事を格好悪いとする風土で育った事もあって、女性に振られるなんてのは大ゴシップなので、その失敗は恐怖でしかなかった。しかし、それで勇気が出なくて人生的な失敗を10年前にしたのではないか。それを思うと、失敗を恐れた結果、貴重な20代を不意にしてしまった事になる。そもそも今回は、相手からして探していかねばならない。失敗以前の話しなのである。


 という具合に、自ら進んで自己啓発する様になった。当然、ダイエットも始め、服もミリオタな格好以外のを買う様なった。半年間くらいは、そうした自己研鑽に励んでいた。体重は一気には落ちないのである。

 しかし問題は、「彼女」をどこで見つけるか、である。前にも書いた様に、とにかく女っ気のない生活、仕事だったのだ。女性を紹介してくれる人もおらず、合コンに誘ってくれそうな知り合いもいない。実家の親は、結婚しろ結婚しろとうるさいが、自分らだって見合い結婚だったくせに、見合いの釣書の一つも持ってこない。結局のところは、自分でどうにかするしかなかったのだ。

 そこで、勤めている会社の同僚の女性に声をかけた。年齢は同じくらいだが、誠に残念な事に、見た目はまったく自分の好みじゃない。同僚なので話しはした事あるが、そういたモーションはこれまで一度もした事がなかった。そもそも、同じ会社の人間に、そうしたモーションをかけるというのは、極めてリスキーな事である。うっかりすると、セクハラだのなんだの騒がれかねない。しかし、そうした事を恐れていては、一歩を踏み出せないのである。

 結果は、丁重にお断りされた。断られた理由までは聞かなかったが、自分とはそういう間柄になれない、という事だった。自分も、恋い焦がれて告白したという訳ではないので、断られてたからといって、ショックを受ける様な事はなかった。むしろ、ちょっと、ホッとしたところもあった。というのも、何だかんだで、やっぱり好みのタイプではなかったからだ。「だったら声を掛けるなよ」とか、「人をドア開ける前の玄関マットにしたな」と非難されそうだが、これが非モテ脱却の第一声となったのである。

 ちなみに、その女性は、その日の事は一切誰にも口外しなかった。人としては立派だったのである。


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