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ストーリア・ディ・ロッタ  作者: 乙訓野添
プロローグ
2/7

2 一目惚れ

 将来の事も何も考えず、部活と趣味に生きた高校3年間が終わった。勉強も嫌いだったので、大学にも行かなかった。就職活動もしてなかったから、高校を卒業したら、いきなり何もする事がなくなった。そこで漠然と考えたのは、実家を出て都会で暮らそう、という事だった。アテがあった訳じゃない。とりあえず、実家を出たかったのである。

 実家を出るまでの間、高校時代の友達のところを遊び歩いていたのだが、その一人が彼女が出来たと自慢げに話し出した。


「おいおいおい、お前、菅原洋一をデブにした様な奴やで?」


 とビックリしたのだが、さらにビックリしたのは、初体験の様子まで恍惚として喋り出したのだ。やれ、「一緒にお魚になろう」だの、やれ「一つになろう」だの、一体どこでそんなセリフを仕入れたんだ。聞いてるこっちが恥ずかしいで。元鉄道研究会の非モテのデブが、知らない間に大学デビューしていたのである。しかし、それを聞いても、自分の恋愛センサーは作動しなかった。とにかく、今は実家を出て、自立した生活を確立するのが専決だったからだ。

 実家を出て、バイト生活が安定した頃、バイト先の女の子に一目惚れした。小比類巻かおるみたいなボーイッシュな子で、一つ年上。高校卒業して間無しという事で、1歳年上は先輩って意識があって、近寄りがたい印象もあったのだが、好きになった気持ちの方が勝っていた。

 しかし、ここでも問題になったは、「どうしたらいいか分からない」という事である。女性を好きになるのは、中学一年以来であるが、その間、何にも学習も経験もしてないのだ。しかも、恋愛に関する情報も、全く皆無。誰かに相談するのも恥ずかしい。如何にもこうにも処置無しだったのである。

 それに加えて、自分にはコンプレックスがあった。まずデブなのである。元々太りやすい体質なのだが、実家を出てグチグチいう親から解放された途端、体重は100kgくらいになっていた。顔の方はというと、もとより自信がない。しかし、何もしないよりはと、ダイエットを始めた。といっても、今みたいな科学的な方法など知らず、単に絶食的なダイエットをしてただけである。それでも10kgは落ちた。10kg落ちた程度では、デブには違いないのだが、それでもちょっとだけ自信がついた。

 そこで、積極的にその子に話しかける様にした。まずは挨拶から。徐々に他愛ない話しに広げていった。女性の琴線に触れる様な事をいうセンスはないものの、コミュ力だけはあったのが救いだった。しかし、そこから先にブレークスルーする方法が分からない。要するに、好意の伝え方が分からないのだ。それプラス、拒絶された時の恐怖にも慄いていた。

 どうにかしたい。街場の易者にみてもらって、さらに深く占ってもらうって事で、後日呼ばれて、分かった様な分からん様な卜占に3万円も払ったり、その子とその子の友達を誘って、7万円もするふぐ料理のコースに誘ったり、何やかんややっていたが、今思い返せば、明後日の方向に野戦重砲をぶっ放す様な努力をしてた様に思う。

 そうこうしてる間に、その子の誕生日が近づいてきた。この日をおいて他日はない。一大決心をして、その子を誕生日のお祝いに食事に誘う事にした。予めその子のシフトを聞いておき、仕事上がりに行こうと誘ったところ、まさかのOK!


 「じゃぁ、仕事上がりまで外で待ってるね!」


 と勤め先の外で待つ事にした。しかし、、、時間が経つにつれ、自分はとんでもない拙速をしたんじゃなかろうか、これは失敗したんじゃなかろうか、と、猛烈な不安に駆られてしまった。一旦不安に感じ始めると、もうそれに耐えられなくなった。職場と最寄りの駅を悶々と行きつ戻りつしながら、とうとう、


 「いかん、これは出直しだ」


 と電車に乗って帰ってしまった。拒絶されてしまうかもしれない不安と恐怖に、立ち向かえなかったのである。

 翌日、その子の部署のチーフの人から、


 「お前、昨日、どこ行ってたんだよ。あいつ、お前の事探してたぜ」


 と言われた。しまった、しまった、大失敗だ。慌ててその子に電話をしたが、そっけない返事しかされなかった。大いに落ち込んだ。自分の不甲斐なさを恥じた。その夜、バイト先の親しい友人に頼んで、飲み屋に付き合って貰った。飲めもしないのに、大ジョッキ4杯もツマミ無しで空けて、死ぬほど吐きまくった。いっそ死んでしまいたかった。死ぬ覚悟があれば、昨日の謎の反転はなかったろうに。後悔しても後悔しても、悔いきれなかった。

 翌日昼過ぎ、ぼぉ〜っと目が覚めた。覚めると同時に、強烈に意識した。


 「こんな思いをするくらいなら、彼女なんかいらんわ」


 ほどなくして、そのバイト先はトラブって辞める事になった。その子にも挨拶しにいったが、素っ気なかった。それっきりだった。


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