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歴史小説

或る小国王の走馬灯

作者: 山本大介
掲載日:2023/10/11

 拙作「刹那の風」の登場人物、余波のお話です。

 なにぶん20数年前書いた拙作であります。

 懐かしさを感じつつ、サイドストーリーを今回書いてみました。


 

 昔々の太古、日本が形成される前の倭国の時代。

 邪馬台国という巨大な連合国が、鬼道を用いて国を治める女王卑弥呼によって一つに治められていた。

 しかし、時は過ぎ年老いた女王の力が弱まると、国々は和を乱し戦が起こった。

倭国大乱である。

 南の強国狗奴国は、虎視眈々とその機を窺い続け、今が好機とその牙を小国へと向けた。



 蒼白く神経質そうな顔、黒眼がせわしなく動き視線が定まらない。

 ひょろひょろの小さな身体がふらふら揺れる。

 青年王の時が止まった。

 涙も止まり、心が消えた。

 怒りと憎しみに、彼は心を狩られた。


 余波は呆然と立ち尽くし、その者を見る。

 ずっと彼に従っていた老臣が、見やる兵士に無残に屠られたのだ。

 ただただそうするしかなかった。

 そうするんだ。

 老臣の剣を拾いあげると、雄叫びをあげながら斬りかかる。

 剣から白い霧が発生し、飛沫が線をひくように兵士の首を刎ねた。

 許せない彼は、屍と化した兵士に何度も何度も斬りつけた。

 飛びちる肉片が粉々になり、人の形を留めなくなっても怒りは収まらない。


 狂い嬲り殺す男を見て、狗奴国の兵士達は震えあがった。

 余波は没頭する切り裂き作業を止めると、ゆるりと次の目標を定めた。

 付き従った者達も、こいつらに殺された。

 殺された。

 気づいた。

 かけがえのない人だったと。

 ならば!

 どうする?

 殺す。


 怯む兵たちの中、馬上の兵士が槍で余波へと襲いかかる。


「ははははははははははははっ!」


 奇声ととともに宙に舞い、兵士の両肩に飛び乗ると、剣を脳天へ串刺しにする。

 絶命した兵士を蹴り捨て、馬にまたがると単騎、狗奴国軍へと向かう。

 狂い喜悦の表情を浮かべ殺戮を繰り返す。

 阿鼻叫喚と化す戦場は白い霧が剣から放たれる度、血飛沫が舞う。

 ついには余波の視界を返り血で真っ赤に染めた。


「うひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


「くそがあっ~!」


 狗奴国の兵士が、馬の右足を斬った。

 余波は倒れる馬から振り落とされ、地面へと叩きつけられる。

 この機会を逃すまいと、兵士達は一斉に彼に襲いかかる。


 むくり。

 余波は何事もなかったかのよう死人のように立ち上がる。

 固まる兵士達。


「ひゃあひゃあひゃあひゃぁひゃあ~!」


 剣を振り回し、躊躇した兵士達の生を次々と奪っていく。

 全身が返り血で真っ赤に染まろうとも、あたりが血の海になっても彼は剣を振るい続けた。

 もはや、思考はなくなり狂人と化しながら血の涙を流す。

 悉く敵を斬り血の海に沈めていく。

 

 もはや、この身がどうなろうともこの世界がどうなろうとも関係ない。

 ここにいるすべての者を斬り刻んで、皆の魂に捧げる。

 捧げるのだ。

 力が漲る、どこまでもどこまでも戦える。

 喜悦。


 空白。

 へ。

 次の瞬間、余波の首が身体から離れ空へと舞った。

 空が見える。

 余波の脳にあの時の映像が蘇る。




 不弥奴国王への即位式。 

 彼と母以外は誰もが納得していなかった。

 盛大な祝いのはずが、民の誰一人祝福せず、顔を逸らし俯いている。

 それは、彼が彼自身の力で王になった訳ではない事にある、これは民たちにも周知の事実だった。


 余波は、はじめ王になった喜びで大はしゃぎをしていた。

 母も満面の笑みを浮かべ喜んでくれている。

 ところが、周りの誰も彼もがずっと暗い表情をして黙っている。

 即位式が滞りなく終え、やがて、神殿にて祝宴をむかえる。

 その頃になると、余波は自分が王として祝福されていないことに、ようやく気がついた。

 心が荒れ、むしゃくしゃする。

 ご馳走が高坏に盛られ運ばれる。

 腰をおろし片膝をつくと、周りを見渡す。


(どいつもこいつも・・・なんという目をしている。俺は王だぞ)


 彼は食物をひとつまみして、高坏を払い食物を床に投げ捨てた。


「口に合わぬっ!」


 それまでの怒りが爆発し激昂する。


「余波」


 母はおろおろと呟く。


「余波様、一口も食べておられませんが」


 老臣は嗜める。


「黙れ爺っ!俺は王だぞ!」


 余波は両手で食物を摘まむと、力一杯投げつけた。

 老臣の顔面に当たり一瞬ぐらつくが、直立不動でじっと咎めねるような視線で彼を見やる。


「なんだあ~その目はっ!」


「おやめなさい!」


 母が絶叫する。


「・・・だって、爺が・・・みんなが悪いのですよ。俺が王になったのに、誰も喜んでいない・・・なんで・・・どうして・・・どうして・・・俺は悪くない・・・俺は王だ」


 余波は顔を真っ赤にして、ぶつぶつと喋りだす。


「・・・余波」


「もういいっ!王なんてやめた!やめてやる!」


 余波は、そう言うと高坏を蹴り飛ばし、地団駄を踏んで暴れた。

 母は首を振ると、皆を帰した。


「くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!」


 泣き崩れ暴れ回る息子を母は憐れむ。


「・・・余波」


「母上・・・俺は・・・俺は王だ・・・そうでしょう」


「ええ、あなたは偉大なる不弥奴国の王です」


「だったら・・・だったら・・・」


 泣き腫らし、うな垂れる余波に母は言った。


「お腹がすいたでしょう。はい」


 母は手作りの赤米の御粥を手渡した。


「・・・母上」


「食べて寝なさい。明日になれば・・・きっとよくなります」


「はい」


 母は余波の頭を撫で部屋をでた。

 泣き腫らし、鼻水も垂らしながら新しい祝福されぬ王は粥にかぶりついた。


「うまい・・・うまい」



 ・・・・・・。

 混濁し消えかかる記憶に、母の姿がみえる。

 皆の元にいき、頭を下げ懇願する姿が・・・みえた。


「ははうえ・・・あり・・・う」


 真白。



 

 倭国大乱、儚い小国王余波の戦物語である。


 昔のみずみずしいといいますか、独特な文はやっぱ書けませんね。

 でも、やってみたのは良しっ。

 

 読んでいただき、感謝です。

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