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ありふれた恋すら、あなたとは。  作者: よせなべ
第六章『願いは髪留めに』
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43『宣誓。私の気持ち』

43『宣誓。私の気持ち』




 誠太を見送った後、一度ホテルに帰った私は、四階にあるコインランドリーで洗濯物を済ませ、一人きりで電車に乗り込み、八王子までやってきていた。


 人で溢れた駅構内を掻き分けて、北口から外に出る。

 すぐ目の前には、大きなショッピングホールがあって。

 そこでも、沢山の人だかりが作られていた。

 

 見慣れない景色に戸惑いながら。

 興味を惹かれるお店の誘惑に耐えながら。

 人の少ない通りを更に北へ向かって進んで。十数分。


「あ。あそこだ」


 私が訪れたかった目的地は、遠くからでも一目でその存在に気付けるくらい神々しくて。外観を眺めているだけなのに、その厳かで清浄な空気に圧倒される。


 神聖。


 そんな言葉が、大袈裟じゃなく当て嵌まってしまう場所。


「きれい……」


 気付くと、私はそんな言葉を口にしていた。


 ここは、八王子の中心部に位置する総鎮守。

 長い歴史の中で、数多くの願いを聞き届けてきた八幡八雲神社は、入り口に赤く大きな鳥居を構え、参拝にやってくる人達を静かに出迎えてくれている。


 道路の面した垣根には、数え切れない程の名入れ提灯が飾られていた。

 きっと、この神社は、とても沢山の人々に信頼されているんだ。

  

「お、お邪魔します」


 こういう場所に一人で来ることはなかったから新鮮で、少し緊張してしまう。

 毎年欠かさずに初詣はしているし、今年は初めて家族四人でお参りをしたけど、その時々に、私の意思はあんまりなくて。


 夢を持つことに抵抗もあったから、いつも具体的なお願いはしてこなかった。

 ただ何となく。今年も健康に過ごせたらいいや。なんて、独り言のように手を合わせるだけで。誰かの真似をしてただけ。

 

 もしかすると、私は、神様に凄く失礼なことをしていたのかな。

 そうだとしたら、怒られてしまうのかもしれないけど。

 今日の私は、小さな夢を抱いて、その後押しをしてもらいたくてここにいます。


 だからどうか。私の我儘にも耳を貸して頂けたら嬉しいです。

 そして、ほんの少しだけでもいいから応援してもらえたらなぁ。

 なんて。そこまでは望み過ぎているのかも。

 

 鳥居を潜って参道を歩き、途中にあった手水舎で私自身の手を清める。

 柄杓を使って水盤から汲んだ水は、凍っちゃうんじゃないかなって思うくらい冷たかったけど、だからこそ、ちょっと楽しい。


 そうしていたら不思議と緊張も解けてきて、社殿の手前に堂々と座っている狛犬さんにもお辞儀をしてから、短い階段を上り、参拝の列に並ぶ。


 私の他にも何人か人がいて、小さなお子さんを連れた御家族の方達が、拝殿に向かって手を合わせていた。その人達の参拝を待って、私も一歩足を進める。


 お賽銭箱に五円玉を入れてから鈴を鳴らし、おじぎを二回。

 胸の前で手のひらを合わせて、拍手を二回。

 指先までしっかりくっつけ、固く目を瞑り、神様に願いを“話す”。


「こんにちは。私は、加地穂花と申します」


 誰かに聞かれていたらちょっとだけ恥ずかしいんだけど、私の後ろには誰もいなかったと思うので、胸の内に秘めた願い事を、声に出して唱えていく。

 言霊という言葉があるくらいだし、きっと、想いは口にした方がいい筈だから。 


「今日は二つ。お願いしたいことがあります。頑張って一つに絞ろうと思ってたんですけど、どうしてもできなくて……。こんな我儘な私を許してください」


 欲張りな私には、手に入れたいモノが数え切れない程あって。

 その中から選ばれた。譲りたくない願い事。


「今。私の大切な人が大事な試験を受けています。その人は、この日のために沢山の努力を続けてきた人です。自分を変えるために行動してきた人です」


 過去に付けられた傷に蝕まれて、それでも足を止めなかった人で。

 どうしていいのか分からない暗闇の中で、それでも藻掻いていた人なんです。


「試験に合格させてあげて欲しいなんて言いません。あの人が積み重ねてきた物は誰にだって負けていないから。その成果を心配する必要なんてないんです。だから、ただ何のトラブルも起きないように。見守ってあげてください」


 いつも通りを発揮できれば、きっと大丈夫だから。

 彼の努力が嘲笑われるような理不尽は、一つも残さず、遠ざけて欲しいんです。


「もう一つのお願いは。……私自身のことで。とっても切実なんですけど……」


 誠太を想う祈りと私のための祈り。

 本音を言ってしまったら、こっちの方が占める部分は大きかったりする訳なんですけど、どうか恥知らずなんて思わないでください。

 こんな相談するのは、神様が相手でも恥ずかしいので。


「誠太くんと、ずっと一緒に居たいんです」


 あの人を信じれば、その背中を押せば、その分別れは近付いて。

 もう遠くないその瞬間のことを思うと、きゅっと胸が苦しくなる。

 それでも、この選択を悔やむことはありません。


 だって、私はーー、


「いつか何の憂いもなく、挫折も後悔もなく。彼の隣りに居たいんです」


 誠太と暮らす穏やかで、幸せな日々を夢見て。

 そんな一日一日を送るために、私は自分のできることをするって決めた。


「もし、私の心が挫けそうになった時は叱ってください」


 きっと、彼がいないことに耐えられなくて、泣き言を言ってしまうと思うから。


「私のことを。この覚悟を見ていてください。……お願いしますっ!」


 それから、最後にもう一度頭を深く下げて、神様とお別れを済ませる。

 私の想いは届いたかな。

 こんな我儘ばかりの自己宣告は、どんな風に映ったんだろう。


「よし! おみくじを買おう!」

 

 そこに書かれていたモノで、答え合わせができる筈。

 私の願いを聞いた、神様のお返事。 


 その言葉を確認するために、私は拝殿の前から横に逸れて、社務所へと向かう。

 そこで美人な巫女さんからおみくじを買い、書かれていた運勢は……、


「……小吉」


 う、うーん……。悪い結果じゃない筈だから喜ぶべきなんだと思うけど、一目で分かり易い大吉とか、凶とかじゃなかったから反応に困ってしまう。

 

 吉と小吉だったら、どっちの方が良い運勢なんだっけ?

 

 ううん。こういうのはおみくじに書かれた内容の方が大切だから、そっちにもきちんと目を通さなきゃ。とっても大事な教訓が書かれているかもしれないし。


「えっと……」


 待ち人 待ち人来ずたよりあり

 失せ物 遅ければなし

 旅行  快調に進む

 学問  たゆまぬ精神第一

 病気  信心によりて直る


「……良い方なのかな?」

 

 所々曖昧な表現だから分かり難いけど、何処となく私の頑張り次第でどうにかなりそうな感じがする。


 やっぱり、私の努力次第ってことだよね。


「頑張ります。あとは……」


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「……もう話してるよ」


 伝えなきゃいけない機会があったから。


「このおみくじは持って帰りたいな」


 落ち込んだ時に見返したら、きっと元気が貰える。

 その時に破れたり、折れたりしていたら悲しい。おみくじは綺麗に折り畳んで、スマホケースのカード入れに仕舞ってから、境内の他の場所も散策して。


 一回り終えた頃に時間を確認すると、いつの間にかお昼の十二時を過ぎていた。

 

 朝ご飯から何も食べていないのでお腹は減ってきたけど、どうしよう。

 ここまで来るために使った交通費とおみくじの料金で昼食代くらいは使ってしまったし、晩御飯まで我慢しようかな。そう思って、誠太と別れる前に預かった小さなコインケースを確認すると、中にはまだ千円札が四枚も残っている。


 私が困ることがないように預けてくれたお金はまだ沢山あって、これをそのまま誠太に返し、お腹を鳴らしちゃった時には、余計な気を遣うなって怒られそう。


「……うん。お昼ご飯は食べさせてもらお」


 そして、何処で何を食べたんだってお話しをしよう。

 そうしたら彼は、喜んでくれるって思うから。


 取りあえず、駅の近くまで戻ることに決めて、八幡八雲神社を後にする。


「お邪魔しました」

  

 最後にもう一度おじぎをして、振り返った時に見えた。

 雲一つない青空は、ここに来る時よりも一段と澄んでいるような気がした。





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