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ありふれた恋すら、あなたとは。  作者: よせなべ
第二章『甘いコーヒーと宇治抹茶入り緑茶』
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10『訪問の理由』

10『訪問の理由』




 穂花ちゃんをリビングで見送り、自室に戻ってから僅か数分。

 勉強机の前に座って教科書を開いた矢先に、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「え?」


 突然のことに目を見張って、何事かとそちらを見ると、部屋の前に今し方はじめましてを済ませたみさきさんが立っている。傍に穂花ちゃんの姿はなく、悪戯で驚かされたのかとも思ったが、彼女の纏う雰囲気にふざけた調子は感じられない。


 みさきさんは、何処か真剣な表情をして、一言も発することなく一歩踏み出す。


 彼女一人で何の用件だろう。

 予想は全く付かず、迫力すら感じる彼女に声を掛けることが出来ないでいると、


「あっ!」

「ん?」


 みさきさんが急にハッとして、その途端に自身の身嗜みを整え始める。

 いきなり僕の部屋で寸劇でも始まったのかと、口を挟まずに成り行きを見守っていたら、彼女はその場で直立して、それから大袈裟なくらい深く頭を下げた。

 

「失礼しますっ!」

「お、おぉ。今なんだね?」


 ほんの少しだけタイミングが遅かったかもしれない。

 それ以前にノックをして欲しかったが、身内でもない僕がわざわざ注意することでもないので、今日のところは見逃してあげよう。


 それにしても、独特な空気感を持つ子である。

 マイペースな奔放さと活力的な面が両方感じられて、大人しい穂花ちゃんとは対照的に感じるけれど、二人はとても仲が良いみたいだ。

 穂花ちゃんは少し消極的なきらいがあるので、みさきさんのような溌溂とした人との関係性は非常に貴重なモノなのかもしれない。

 

「あははっ。ごめんなさい! 忘れてましたっ!」

「自分の部屋みたいに入ってくるから吃驚したよ」

「計画のことに必死で」

「計画……?」

「あー! 違います! 口が滑っちゃいましたっ」

「そ、そっか。口が滑っちゃったんだ」


 何だろう。この子になら騙されてもいいやって思える。

 口を滑らせたと言いつつ、口を滑らせたことに気付いてなさそうな彼女が、人を貶めることなんて出来る訳がない。明らかに何か企てている様子ではあるけど、痛い目は見ないだろうとたかを括り、ここは聞かなかった振りで通して、先を促す。


「穂花ちゃんはどうしたの?」

「穂花? 穂花はぁー、えっとぉ……。今、寝ちゃって」

「……寝ちゃって?」

「そう。すっごく疲れが溜まってたみたいでお休み中なんです」

「へぇ……。お昼ご飯食べてる時はそんな感じしなかったけどなぁ」


 とんでもなく分かり易い嘘を吐くみさきさん。

 慌てた様子で視線を彷徨わせる素振りと咄嗟の設定が、あまりにも虚っぽくて、それが僕の危機感を鈍らせる。最早、彼女の反応を楽しむくらいのつもりで、軽い指摘を飛ばしてみると、みさきさんは明らかな動揺を示してくれた。


「そ、それは……。えーっと、んーと」


 困り顔で右往左往する動きが小動物みたいで微笑ましい。

 揶揄い過ぎると可哀想ではあるけど、悩み抜いた末に天恵が下りてきたらしく、思い切り手を叩いたみさきさんは、お手本のようなドヤ顔を見せてくれる。


「逆にご飯を食べたから眠くなったのかも!」

「なるほどなるほど。血糖値スパイクってことだね」

「け、血糖値スパイス?」

「スパイク」

「……へぁ?」

「ごめん。この話やめよっか」 


 少し難しい話をしてしまったかもしれない。

 綺麗な顔から生気が抜け始めているので、この話は早急に終わせよう。


「僕に用があったんだよね? その話をしようよ」

「あれ? お兄さんに気を遣われてる気がする?」

「いやいや。気を遣ってるだなんて。そんなそんな」

「……じゃ。穂花が寝てる間。話し相手になってもらえますか?」

「話し相手? 僕が?」

「はい。さっきあんまり話せなかったし、聞きたいことがあって」

「そんな楽しい話できる自信はないけど……」

「……駄目ですか?」


 胸の前で手を合わせ、小首を傾げるみさきさん。

 自覚してるのかどうかは分からないけど、凄くあざとい。

 普通の男子高生なら、今の一発で陥落させられたに違いない。


 僕も出来ることなら即座に頷いてあげたかったけど、言葉は喉元で止まり、彼女の意図を考えてしまう。


「……」


 何か事情がありそうな妹の友人。


 穂花ちゃんを伴わずに僕の部屋を訪れた理由が、親友にも聞かせられない内容なのだとすれば、穂花ちゃんについての相談という線もありそうで。


 二人の間に何か不安があるのであれば、それを取り除く協力はしたい。

 

「……お客さんを放置するのも悪いし、少しの間でいいなら」 


 兎にも角にも、聞いておいて損はないだろうと考えて、首を縦に動かした。


「やったぁ! ありがとうございますっ!」


 僕の肯定に飛び跳ねて喜ぶ彼女は、狭い部屋を駆け足で近付いてきて、僕の正面にそびえ立つ。みさきさんは小柄な少女なので、見下ろされているような感覚はしないけど、目のやり場には気を遣う。


「……近くないかな?」

「え? そうですか?」


 壁側に身体を寄せても、その分の距離はすぐに詰められて、息が詰まる。

 どうにか離れて貰おうと床にあったクッションを指差そうとして、それよりも早くみさきさんが口を開いた。


「お兄さんは、穂花のことどう思ってるんです?」

「……は?」


 何の前置きのないアバウトな質問。

 

 それは、あまりにも唐突な問いかけで。

 雑談の空気感で答えるのは躊躇ってしまう。

 少なくとも単なる世間話にしては、仰々しい雰囲気があって。

 みさきさんの表情には明確な意志を感じられた。


「どうとは……?」


 それが何なのか。

 探るように尋ね返して、


「そんなの穂花が女の子として魅力的がどうかに決まってるじゃないですか!?」

「んなっ……!?」

 

 全身に衝撃が駆け抜けていく。


 よりにもよって義兄である僕になんて質問をして来るんだこの子は。

 混み入った関係性の僕達に対して、初対面でするような質問じゃないだろう。


 迂闊に発言しなくて本当によかった。

 慎重に言葉を選ばないと、誤解を招きかねない。


「突然。妹になった女の子にどんな感情を抱いてるんですか!?」


 カッと目を見開いて、僕に詰め寄るみさきさん。

 僕が何かしでかしたと言わんばかりの剣幕だが、特に思い当たる節はない。

 ただ、僕が気付かない内にやらかしていた可能性もあって、無意識に穂花ちゃんを傷付けていたのかと思うと、胸の奥がギュッと絞め付けられた気がした。

 

「……穂花ちゃんが何か言ってた? あいつマジでムカつくみたいな」

「そんなこと穂花が言う訳ないじゃないですか」

「え、えぇ……。それじゃ。今の質問はどういう意図で……」

「最近。二人は凄く仲良くなってるみたいですね。穂花がよく話してくれます」

「穂花ちゃんが? ……それは、本当に嬉しいな」

「漫画の貸し借りもしてるんでしょ?」

「あ、あぁ。そこに積まれてるのがそうだね」


 勉強机の片隅に置かれた少年誌で連載中のヒーロー漫画。

 穂花ちゃんがおすすめしてくれて、勉強の息抜きに読んでいるが、これがとにかく面白い。危なく自制心を失いそうになるので、嵌り過ぎないように気を付けているけど、ついつい手が伸びてしまう。


 それで、借して貰うだけでは申し訳ないから、僕も中学の時に集めていた漫画を何冊か貸し出していて、時々感想を言い合ったりしている。


 そのおかげで話す機会も増えたし、良いこと尽くめだと思うのだが、みさきさんはそんな解釈はしてくれなくて、不審なモノを見るように眉を顰めた。

 

「穂花と仲良くなったのは、お兄ちゃんとして? それともーー」

「兄として、友達として。あとは家族として。……だよ」


 続く言葉はほとんど反射的に遮った。

 それだけは間違えてはいけないと、強く肝に命じている。


 そうか。ようやく彼女の言いたいことが分かった。


 みさきさんは、穂花ちゃんのことを心配しているんだ。

 僕が、兄という立場を利用して、親友に近付こうとしているのではないか、と。


 優し気な素振りで、趣味を合わせて、打ち解けた後に欲に塗れた本性を現す。


 これは、そんな下衆な思考を暴くための尋問だった。


「みさきさんは、優しい子だね」


 世の中には騙された方が悪いなんて宣う悪人がいて。

 狡猾なやり口で人を貶める人間は、案外普通の顔で生きていたりするモノで。

 僕が、そんな人間ではないという保証は何処にもなかった。


 だから、彼女は、例え人を暴くことが得意ではなくても、穂花ちゃんが傷つくことがないように、たった一人で僕の前に現れたんだと思う。


「心配しなくても。大丈夫」


 僕のことを何も知らないみさきさん。

 そんな彼女が、こんな言葉を聞いても、あまりに不明瞭で、嘯いているようにしか聞こえないかもしれない。狡賢い人間ほど口がよく回るから、半端な言葉では疑いの芽を育てることにしかならないだろう。

 

 それでも、信じて貰うためには言葉を尽くすしか方法はなくて。

 それを僕は、可能な限り穂花ちゃんにも実践してきたつもりだ。

 だから、今回も同じ。いつも通り、嘘偽りのない想いを伝えるだけ。


「血は繋がってなくても、僕たちは兄妹なんだから」

「それ以上の感情は全くないんですね?」

「……そんなの持ってたら穂花ちゃんが恐がる」


 父さんが勇気を持って手に入れた関係を利用して。

 自分の下心のために、年下の女の子を騙くらかす。


 そんな人間にはなりたくない。


 紳士的であれ。

 それが父さんから貰った、誠太という名前の由来なんだから。

 

「穂花ちゃんを不安にはさせない。寂しい想いもさせたくない」


 自分と似た境遇で育ってきた彼女には、一際強くそう思う。

 家族としての関係が、穂花ちゃんの拠り所になるように。


「誓ったんだ。穂花ちゃんには恥ずかしくて言えないけど。自分自身に」


 それこそ証明なんてしようがない心の中を。どや顔で語っている僕は、本気で馬鹿なんだと思う。でも、そう在れることは少しだけ誇らしい。


「いつか。最高の家族だって言いたいから」

「……それって」

「ん?」


 僕の答えに手のひらを合わせて、みさきさんが口元を抑える。

 驚いた表情で目を開いていくのは、たぶん、想いがちゃんと伝わったから。

 

 詰め込んだ本心が信用に値したのなら本望だけど、


「好きとか。一緒に居たいとか。そんな恋心よりも素敵な思い遣りですねっ!」


 彼女の解釈は少し大袈裟な気もして。

 美化され過ぎてしまったことを思うと、若干の羞恥心が芽生えてきた。


「そ、そうかな……?」

「そこまで穂花のことを考えてくれてたなんて! 素敵です!」

「……まぁ、まぁまぁまぁ。日は浅いけど、僕は穂花ちゃんの兄貴だからね」


 ただ、褒められると気持ちがいい。

 そこまで称えられると、柄にもなく鼻が高くなってしまう。


「疑ってごめんなさい。穂花って警戒心はあるんですけど、心許しちゃうと結構ふにゃふにゃだから。本当にお兄さんが信用できる人なのか気になっちゃって」

「疑ってくれて全然構わないよ。君みたいな子が友達でいてくれて僕も嬉しい。これからも穂花ちゃんと仲良しでいてあげてね」


 今までもみさきさんは、穂花ちゃんを沢山守ってくれていたんだろう。

 自由奔放な発言もする人だけど、胸の内にはしっかりとした芯を持っていて。

 溌溂とした印象とは異なる、冷静さと頼もしさを強く感じた。

 

「勿論です! えへへ。私もスッキリしましたっ。もしお兄さんが穂花にスケベな想いを向けていたらどうしてくれようかと思っていたので!」

「は、ははは……。まさかね……」


 もしもの世界線だと、僕は一体どんな落とし前を付けさせられていたのか。

 明るい口調がより恐怖心を増長させて、足が震える。


「……本当に穂花のことは女の子として見てないんですよね?」


 そこに更に追い打ちがくるから疚しい気持ちは抱いていない筈なのに、顔をググっと寄せてくる圧に怯んで、視線を逸らしてしまった。


「と、当然。さっき言った通りだよ」

「可愛いって思ったこともないんですか?」

「……う、うん?」


 あれ。雲行きがまたおかしな方になってきたぞ……。


「一緒に暮らしててドキッとしたことも?」

「それは……」

「あーっ! その顔はあるって顔だぁ!」


 さっきは僕を見極めるみたいなことを言っていたのに、僕が言い淀むと途端にはしゃぎ始めるみさきさん。彼女が大切にしている穂花ちゃんへの想いを知った後だと、多少は口も軽くなって、言葉を選びながらではあるけど、


「……穂花ちゃんは可愛いらしい子だからね」


 そんな本心を漏らしてしまった。

 穂花ちゃんの笑顔は、引き込まれるような魅力がある。

 

「えへへっ。穂花は可愛いんです!」

「何だか……。みさきさんが嬉しそう」


 少し肝を冷やしたけど、みさきさんはとても満足そうだ。

 可愛いと思うのはセーフらしい。

 これは認められたと思っても良いのかな。

  

「私もお兄さんみたいなお兄ちゃんが欲しかったなぁー」

「あ、ありがとう。……全然上手くできないことばかりだけど、嬉しいよ」

「私もお兄さんの妹になってもいいですか!?」

「ん……? それは、色々と無理があるんじゃ……?」

「でも、穂花とだって血は繋がってないですよね?」

「それはそうだけど……、家族っていう前提があるからね?」


 僕の見定めが終わって、みさきさんが無茶苦茶なことを言い始めてしまった。

 疑似的な兄妹体験をしたいだけなのかもしれないが、これにやる気を見せるのはどう考えたってキモい。とても人には見せられない絵面になりそうなので、やんわり断ろうとしたら、みさきさんはこてんと首を傾げて、言う。 


「私は、お兄ちゃんって呼びますよ?」

「お、お兄ちゃん……っ!?」

 

 そうして、未だかつてない衝撃が全身を駆け巡った。


「勉強お疲れ様ですっ。お兄ちゃんっ!」

「おぉ……。妹感あるかもしれない」

「今ならにぃにでもいいですよ?」

「そんな呼ばれ方してる人は漫画でしか見たことないな……」

「ふっふっふー。魅力的じゃないですか?」


 揶揄うように笑うみさきさん。

 誘惑の仕方が流石に狡い。これを素でやっているのなら魔性の子だ。

 彼女は妹というよりも悪戯好きな後輩という方がしっくりくるかもしれない。


 そんなことを大真面目に考えていると、視界の奥に誰かいた。


「何をしてるの……?」

「あっ」

「んー?」


 部屋の入り口に、今までで一度も見たことがない冷ややかな表情をした穂花ちゃんが立っている。


 目が合って数秒。口が回らずに見つめ合っている間。

 瞬き一つしない異様な立ち姿は、とんでもなく恐ろしい。


「穂花! 探しちゃ駄目って言ったのに!」


 僕の顔が引き攣ったことに気付いて、みさきさんが振り返る。

 僕には穂花ちゃんの背後に淀んだオーラみたいなものが見えるんだけど、みさきさんは普段通りの感じで話しかけていて凄い。……凄いのか?


「中々帰ってこないから心配して見に来たら……。二人でいったい何してたの?」

「……」

「ねぇ。なんで答えないの。誠太くん」

「えっ……? 僕?」

「だって、みさきに何か言わせてたじゃん」


 まずい。とんでもないところを見られてた。

 これは早急に誤解を解かなければ、今後の関係に禍根を残しかねない。


「い、いや。それは違くて。僕が強要したとかではない。ねっ。みさきさん?」


 自分の主張だけで疑いを晴らせるか不安で、彼女の親友に言葉を求める。

 先程頼もしい姿を見せてくれたみさきさんなら、きっと、どうにかしてくれる筈だと、淡い期待を視線に乗せて視線を向けたら、心なしか彼女の表情は不敵にほくそ笑んでいて、顔付きだけは有り余る自信で満ちていた。


「心配しなくて大丈夫だよ。穂花。今のはお兄さんに私のお兄ちゃんも兼任してもらおうと思って、呼び方を決めてただけだから」 


 駄目だぁ。完全に火に油を注いでいる。

 僕の無罪の証明には欠片もなっていなかった。


「誠太くんがみさきのお兄ちゃんになる……?」

「そう。とっても優しい人だって知れたから私も甘やかして欲しいなって!」

「そんな理由だったのか……」

「……そんなの無理に決まってるでしょ。変なこと言わないで」

「えぇー。いいじゃん。お兄ちゃんシェアしようよー」


 みさきさんは、僕のことを物か何かだと思っているのだろうか。

 お兄ちゃん呼びにときめいてしまったのは、一生の不覚だったかもしれない。


「いいから。早く私の部屋戻るよ。誠太くんが勉強の邪魔されて困ってる」

「いやいや。僕は別にーー」

「困ってるよね?」

「こ、まってる、かも……。み、みさきさんはこの通り差し上げます。どうぞ」

「えぇー!?」

「ほら。早く来て」

「楽しくお話してたのにぃー」


 献上した小柄な少女は腕を引っ張られて、部屋から引き摺り出されていく。

 その後一人取り残されると、室内は嵐が過ぎ去ったみたいに静かになった。


 やはり、穂花ちゃんが寝ているというのは嘘だったらしい。

 事情の説明はしていなかったみたいだけど、上手く取り繕ってくれるだろうか。

 恥ずかしい部分は、なるべく黙っていて欲しいんだけど。


「……不安だ」

「誠太くん」


 独り言を漏らした瞬間。廊下に消えていった筈の穂花ちゃんから名前を呼ばれて、危なく心臓が止まりかけた。慌てて顔を上げてみれば、扉の隙間から顔を覗かせた彼女が、ジトッとした視線を向けてきている。


「な、なに?」

「後で詳しく聞かせてもらうから。そのつもりで」

「……はい」


 どうやら事情聴取を受けなきゃいけないのは僕の方だったみたい。

 なんでこんなことになってるんだ……。

 妹の友達に格好つけていたら、肝心な穂花ちゃんからの信用を失っていた。


 思えば扉も最初から開き放しになっていた気がするし、いったいどこから聞こえていたんだろう。

 

「あんな不機嫌な穂花ちゃん。初めて見たな……」


 言葉にして自覚すると、再び全身が震え始める。

 みさきさん。何とかして穂花ちゃんの怒りを鎮めて欲しい。頼むぞ……。





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