【狂い昔話】かまぼこ、はじめてのおつかい
むかしむかしあるところに、とても仲の良い3人家族が住んでおりました。ひとり息子の鎌凹はそれはそれは可愛く、大切に育てられておりました。
鎌凹は最近料理にハマっているようで、今日は1人で買い物に行くそうです。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
鎌凹は一礼したあと家を出て、地元のスーパー『おぱんて』に向かいました。おぱんてまでは30kmありますが、彼はもう48歳。1人でどこへでも行ける歳なのです。
「しくしく⋯⋯」
道端で汚ねぇゴリラのような女の子が向こうを向いて泣いています。鎌凹は女の子の後ろに立ち、しゃがんでいる女の子の頭に鼻水ドレッシングをお見舞いしました。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい」
愛情を注がれて育った心の優しい鎌凹は、女の子が心配なようです。声を掛けられた女の子はゆっくり立ち上がり、鎌凹の方を振り向きました。
「ハーーーーーーーーーッ!」
その女の子には、顔がありませんでした。鎌凹は驚きのあまりちょっと大きな声を出してしまいました。2秒後、落ち着きを取り戻した鎌凹が言いました。
「汚ねぇゴリラののっぺらぼうなんぞ怖かねぇ!」
ショックを受けた女の子は、足の裏から生えてきたZをバネにしてビョンビョン飛んでどこかへ行ってしまいました。可愛いですね。
しばらくして、鎌凹は歩き疲れて横になってしまいました。運動不足の48歳には30km歩くのがキツいようです。あと29.9km歩かないとおぱんてには辿り着けません。
「ええ、そうです。亥哭金武2丁目です」
どうやら鎌凹はおぱんてに電話をしているようです。この亥哭金武という地名は、かつてこの地域を治めていた怪物の名だそうです。
「では、よろしくお願いします」
そう言って電話を切った鎌凹は、そのまま眠りにつきました。ぐーすかぴー、ぐーすかぴーと三日三晩眠りました。久しぶりに起きた鎌凹は、目の前にあるスーパー『おぱんて』に入店しました。
3日前寝転がってしていた電話はこういう事だったのです。自分がもう歩けないから、スーパーに来てもらいたいとお願いをしていたのです。
「432円、ちょうどお預かりいたします」
預かるっていうけど、ちょうどなら絶対なにも返ってこないんだから『頂戴します』でええやん、と鎌凹は思いながら会計を済ませました。
家に戻ると、両親がいませんでした。鎌凹は3日も両親に会っていなかったので泣きそうになりました。鎌凹は家の裏山に登り、村を見渡しました。池の辺りに人だかりができています。双眼鏡で覗いてみましょう。
池には鎌凹の両親がいました。池の中で泥だらけになって何かをしています。鎌凹はすぐさま池に向かいました。知った顔がたくさんあります。池の近くで女性がしゃがみこんで泣いていました。村長も来ていたので、鎌凹は何があったのか聞きました。
村長が言うには、そこでしゃがみこんで泣いている女性が息子と2人で魚釣りに来たのですが、女性が少し目を離している隙に息子がいなくなってしまったそうなのです。女性は自分を責めていて、ずっと泣いているらしいのです。
池の中では村人が泥だらけになって子どもを捜しています。鎌凹は思いました。「なんでこの人は自分では1ミリも捜さないんだろう。服が汚れるのが嫌なのかな?」と。鎌凹はこの母親に対して嫌悪感を抱いてしまいました。
結局子どもは村長の家で金品を物色していたところを村長の娘に発見されたそうです。母親がやらせていたんだそうです。だから自分は全く捜そうとしていなかったんですね。
両親と3人で家に帰った鎌凹は、家族に手料理を振る舞いました。ごはんにさっき買った粉チーズをかけた『チごはん』です。家族は美味しい美味しいとすぐに平らげました。
翌日鎌凹は朝からソープランドに行きました。夜中に鎌凹が家に帰ると、とても悲しいことが起こっていました。チごはんを作ろうと粉チーズを手にしたのですが、中身がないのです! 誰かが全部使いやがったのです!
「誰だあぁぁぁぁ!」
鎌凹は叫びながら両親を粉々に切り刻んでしまいました。鎌凹は悲しかったのです。432円もした粉チーズを知らない間に全部使われていたことがとても悲しかったのです。思えばごま油やオリーブオイルもやたら減りが早かった気がします。
冷静になった鎌凹は両親を殺してしまったことを後悔しました。両親は鎌凹にこの上なく愛情を注いできてくれました。美味しいものもたくさん食べさせてもらったし、楽しい思い出もたくさんもらいました。そんな両親を⋯⋯
「粉チーズくらい何だ。ごま油くらい何だ。オリーブオイルくらい何だ。俺はなんてことをしてしまったんだ⋯⋯!」
鎌凹は20分くらい泣きました。泣いてスッキリした鎌凹は「くよくよしてたって進まない。新しい道を歩もう!」と気持ちを切り替えて新しい夢へ挑戦するのでした。めでたしめでたし。