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第72話 絶望の皇太子と悪女

―メアリ視点―


「急げ、メアリ。とりあえず、砦で休もう」

「はい、殿下」


 足が痛いわ。木の枝が足にあたって、すり傷ができている。なんでこんな無様ぶざま逃避行とうひこうをしなくちゃいけないのよ。


 私たちは権力の中枢ちゅうすうにいる選ばれしものなのよ!?


 私たちは、どこに敵がいるのかもわからない恐怖におびえながら、前に進んでいるわ。

 落ち武者狩り。


 盗賊のようなやつらが、私たちが身に着けている貴金属を目当てに襲ってくるの。すでに、護衛が何人も奴らにやられたわ。


 あいつらは、私たちからすべてを奪って、報奨金目当てに逆賊たちに身柄を売り渡そうと虎視眈々《こしたんたん》と狙っているはず。


 女の私が捕まったらどうなるか……


 考えただけでも、ゾッとするわ。


 早く逃げなくちゃ。こんな目に合うのは、私じゃなくてニーナのほうがお似合いなのに。そもそもあいつを国外追放にして、盗賊たちに襲わせる算段になっていたはずなのに、どうして私がこんな目にあわなくちゃいけないのよ!?


 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。


「あそこだ。あそこまでがんばるんだ」

 殿下が私を導いてくれる。


 ああ、助かった。あの砦に入れば、一安心ね。

 私たちは、新興貴族派が守る砦に駆けこんだ。


「ああ、殿下、そして、メアリ様。お待ちしておりました。よくぞ、ご無事で」

 守備隊長が私たちを温かく迎えてくれた。


 よかった、私たちは無事に帰ってこられたんだ。

 でも、治癒魔法を受けているときに、私たちは衝撃の事実を聞くことになった。


 《《帝都が陥落した》》と。

 私たちは完全に孤立した。切り札だった人質たちも敵の手に渡ったと考えたほうがいいだろう。


「どうするのよ、これ……」

 私は絶望する。


「ねぇ、殿下。どうするのよ。考えてくださいよ。あなたが総大将でしょ! ここから逆転する手、早く教えてよ!!」

 私は、くるったように殿下を揺さぶる。


「ああ、どうしような」

 殿下も我を失って笑うことしかできなかった。


「ねぇ、殿下! 殿下ってば!!」

 彼はうなだれて私の問いには答えない。


 肝心な時に使えない男ね。こんなのが、次期皇帝とか笑わせないで。

 

 ああ、お父様、早く帰ってきて。

 私は、唯一の希望を待ち望むも、お父様が帰ってくることはなかった。


 ※


―オーラリア公庁―


「ニーナ様、前線から速報が届きました」

 

 その言葉を聞いて、私はドキリっとする。少しだけ報告を聞くのが怖いわ。

 でも、大丈夫。私はみんなを信じているから。


「内容を教えて」


「我が栄光あるオーラリア公国軍は、本日早朝、グレア帝国軍と開戦しました。帝国軍は、グレア帝国皇帝軍旗を見たことで動揺し、一気に崩壊。総大将の皇太子はオンス砦に敗走し、チャーチル将軍がコンス軍務尚書を捕虜にしたそうです。また、クーデターの中心人物である子爵は、死亡が確認されました。わが軍の完全な勝利です。我らに被害はほとんどありません」


 よかった。フランツ様たちに怪我もないのね。それだけでも、救われた気持ちになる。


「子爵が死亡したのは、確かなの?」


「はい、前線からの報告では、敗走中の森で倒れているところを発見されたそうです。腹部に槍が突き刺さっていたようで、致命傷はそれだと思われます。身に着けていた貴金属がなくなっていたので、盗賊かなにか襲われてそのまま放置されたのかと……」


「そう、報告ありがとう」

 かなり無残な死に方ね。お腹を槍で突かれても、即死するわけじゃないわ。盗賊たちに襲われて、かなり苦しんで亡くなったのね。激痛の中を長く苦しんだと考えると、敵とはいえ暗い気持ちになる。


「また、公爵様率いる海軍が主導した帝都強襲作戦も無事に完了し、ルーゴ将軍のご協力もあって、帝都に残っていた新興貴族派たちは拘束。人質たちも無事に解放されました。皇帝陛下もまだ目が覚めておりませんが、ご無事が確認されています」


「完璧ね」

 これで、クーデター軍は皇太子たちとオンス砦に籠もった残存戦力だけになったわ。


「砦に残っている兵力はどれくらいかわかる?」


「あくまで推定ですが、1万以下だと予想されます。すでに向こうの大部分は降伏するか、我らに協力を申し込んでいるようですし。そのおかげで、わが軍は、約10万の兵力を有しております。すでに、砦は包囲が完了し、誰も逃げることができない状況です」


「チェックメイトね」


「はい! そして、グレア帝国においては、皇太子を反逆者とみなして廃嫡はいちゃくとなる算段が強いです。同時に大罪人として訴追そついする手続きにはいりました。また、ルーゴ将軍率いる暫定ざんてい政権が発足ほっそくしたようです。つきましては、ニーナ様が国務尚書として、宰相と共に帝都におもむき、終戦交渉を担当してほしいとのことです」


「わかったわ。兵力が急激に増えたのと、我が国の占領地が増えたから、物資の運搬が難しくなると思うわ。財務尚書に後を引き継いでもらうことにしましょう。私が作った物資のレポートがあるから、そちらを財務尚書にお持ちして」


「わかりました!」


 まだ、戦闘は続いているけど、これで事実上の終戦ね。

 フランツ様が戦場で頑張ってくれたんだから、次からは私たちの番。


 戦争は、はじめるよりも終わらせるほうが難しいわ。

 

 もし、このままグレア帝国とオーラリア公国が分裂したままになれば、ライバルであるヴォルフスブルク帝国だけが得をすることになる。それでは、私たちの安全も脅かされる。


 難しい交渉になる。ここから私の戦いが本格的に始まるわ。

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