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第66話 海上封鎖

「それは、海上封鎖です」

 宰相さんは、力強く断言した。


「海上封鎖!?」


「はい、海軍を使って、海上を封鎖し、諸外国との連絡を絶つ()のです。すでに、グレアは穀倉こくそう地帯であった我がオーラリアの土地を失っております。独立よりも前から、魔獣騒動の影響で、帝都では食料品が不足し価格が上がっていました。我らの穀物が入らなくなった今、諸外国からの輸入だけが頼りのはずです。海上封鎖によってそれすらも入手できなくなれば、戦争どころか国家組織すら維持できなくなるでしょう」


「なるほど。そうすれば、グレア帝国は自然崩壊するということだね。我が領民に出る被害は最小限に抑えられて、ただ待つだけ勝利することができると?」


「はい。我らの非常食については、常に備蓄を心がけていたため、少なく見積もって数年以上は余裕があります。ですよね、ニーナ様?」


「そうですね! 昔まとめたレポートが庁舎にあったはずです」


「ありがとうございます。それに対して、グレアの台所事情は火の車でしょう。貴族たちに備蓄をするように命令が出ていたようですが、まるで進んでいません。ですよね、チャーチル将軍?」


「その通りですね。備蓄が進んでいるのは、皇帝陛下が直接指揮を執っていた帝都の周辺だけです。それでも、軍隊を維持するだけの備蓄量しかありません。帝国全土をカバーするほどの量はありません」


「ということで、持久戦になればなるほどこちらが有利です。おそらく、グレアには一度くらいは総攻撃を仕掛しかける余裕があるかもしれませんが、その後は続きません。その大会戦に大敗しなければ、最終的には私たちの勝利です。私たちは防御を固めるだけでいいのです」


 怖すぎる知謀ちぼうね。戦争において一番大事なことは、戦争自体に勝つこととはよく言うわ。貴族たちは、大きな戦いで活躍することを重視するけど、それはあくまで局地的な勝利に過ぎないのよね。そこで勝っても、最終的に負けることもありうる。


 クランベールさんもそのことをよく理解していて、確実に戦争に勝てる状況を作り出した。新興貴族たちは、戦う前からもう負けているのね。


「それでは、軍をグレア国境沿いに進めましょう。我々は防備を固めるだけです」

 みんなはうなずく。


「いや、少しだけ待ってくれ。実は見せたいものがあるんだ。これは今後のことを左右する大事な切り札だから、みんなにも見せておきたい。少し前に皇帝陛下からゆずり受けていたものがあるんだ」


 そう言ってフランツ様は一枚の書状を取り出した。そこには、驚くべきことが書かれていたわ。


 この戦争の行方を結論づけてしまうほどの大事なことが……


 ※


 私たちは、会議の後、ふたりだけになって会話をする。このタイミングを逃せば、いつ落ち着いて話せるかわからないから……


 窓から差しこむ夕日が私たちを照らしている。


 言いたいことがたくさんあるからこそ、何を言っていいのかわからないの。


「いつ、あんな大事な手紙を預かっていたんですか?」


「ニーナの罪が許された時、ふたりで陛下に面会に行ったことがあっただろう。あの時、ニーナには席を外してもらって、陛下と二人きりの時にね」


「あー、ありましたね、そんなことも」


「僕は、キミとの婚約を陛下に許してもらった。そして、陛下には、あれをもらったんだ。黙っていてすまない」

 本当に政治的な根回しの才能がすごいわね。フランツ様は……


「いえ、あんな大切なものですから。仕方しかたがありませんよ」


 そう、仕方がない。ちょっとだけ、秘密にされていたのが悲しかったけど、仕方がないわよ。


「だから、いい加減機嫌(きげん)をなおしてくれないか?」


「機嫌を悪くしてないから、なおすもなにも……」


「本当に?」


「本当ですよ!」


「よかった」


 そう言って、フランツ様は不意に私を抱きしめる。


 えっ!?


 どうして……


 フランツ様の身体が、私を包み込む。


「あの、フランツ様?」


「まだ、ちゃんと言えてなかったことがあるから……あの湖でまだ、キミにきちんと伝えることができていないから。本当はもっと早くに言わなくちゃいけなかったことだから」


「フランツ様、落ち着いてください」


「うん、落ち着こうとしているよ。戦場だってこんなに動揺しないよ。生涯できっと一度きりのことだから。これを受け取って欲しい」


 そう言って彼は上着のポケットから小さな青い箱を私に差し出した。


「これは?」


「オーラリア家に伝わる婚約指輪だよ。きちんとキミに正式にプロポーズさせてほしい。ニーナ、僕と結婚してくれ」

 箱には美しい指輪が入っていたわ。


 指輪のことは以前、マリアから聞いている。これは今となってはご両親の大事な形見にもなっているはずよ。そんな大事なものを私に託してくれるのね。


 それがどうしようもなく嬉しかった。


「その大事な指輪にふさわしい君主になれるように、ふたりで頑張りましょう、陛下。末永すえながくよろしくお願い致します」


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