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第47話 壊れていく王子

「殿下!! まだ、魔獣の被害拡大についての対策会議の途中です。どうか、お戻りください」


 従者は、俺の部屋にまで来てそう叫んでいた。


「うるさい! ひとりにしてくれ。皇太子の命令だぞっ!」


 魔獣よりもいまは自分のことで精いっぱいなんだよ。

 くそ、フランツとニーナ。この屈辱は忘れない。


「そうだ、俺はこの国で2番目に偉いんだ。そして、将来は皇帝になる男だ。もっと、自信を持て……」


 俺は自室で、震えていた。

 ひとりになると考えてしまう。


 フランツ辺境伯とニーナのことを……


 さきほど、父上から連絡があった。

 あのふたりが、婚約したという連絡が――


 すでに、父上や公爵には、許しをもらっているそうだ。そうなると、ふたりの婚約を止めることはできない。


 俺に捨てられたら、すぐに次の男に行くのか。あの、女は……

 まさか、皇太子である俺よりも、田舎の辺境伯のほうがいいってことなのか!?


 いや、それともあの卒業パーティーの時点で、ふたりは繋がっていたんじゃないのか? そういうことなら、フランツ辺境伯があそこにいたのも納得できる。


 俺に愛想をつかして、フランツと結ばれるために、ふたりで芝居しばいをうったんじゃないのか?


 俺に冷たくあたることで、浮気に走らせて、婚約破棄に誘導する作戦だったんじゃ……


 なら、俺がニーナを捨てたんじゃない。

 《《ニーナが、俺を捨てたんだ》》!!!!


 それが事実なら、こんな屈辱はない。だって、そうだろう? 俺は完全にピエロで、自信満々で婚約破棄をしたはずが、婚約者の浮気相手(フランツの野郎)に完全に論破されて赤っ恥をかいたんだ。


 あいつらは、陰で俺を笑っていたに違いない。

「あいかわらず、皇太子殿下は、無能」だと……


ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。


 そうだ、小さなころからいつも俺はあいつらに馬鹿ばかにされていた。

 剣や学問では、俺はフランツに勝てなくて……いつもプライドを傷つけられてきた。


 語学や魔力では、ニーナの方が才能があって――

 俺が皇帝になるよりも、ニーナが皇后になることを期待されていた。父上や大臣たちもだ。


「ニーナ様のような優秀な婚約者様をもって、殿下は幸せ者ですな。フランツ様のような傑物けつぶつが、帝国の絶対防衛線たるオーラリア辺境領を守ってくださいますし……帝国の将来は、安泰あんたいです」


 その誉め言葉の中に、俺はいっさいたたえられていない。お飾りの皇帝になって、実権はその二人に任せろと暗に言われているのはわかっていた。そして、どんなに努力しても、俺はふたりには及ばなかった。


 だから、俺は逃げたんだ。

 努力することからも、権力という重圧からも……


 そして、俺をチヤホヤしてくれる女たちと浮気した。


 女たちは、ニーナのような才能はなかったけど、俺をいつも誉めてくれた。メアリは特に、俺に優しかった。


 新興貴族で、社交界のこともよく知らない天真爛漫てんしんらんまんなところに俺はひかれていた。


 もう、俺にはメアリしかいない。

 父上も敵だ。帝国の守護者とか言われているフランツだって軍隊を持っている。あいつが本気を出せば、簡単に反乱をおこして、俺を殺すだろう。その時、俺は断頭台に連れていかれて、人生の最期まで、あのふたりにあざ笑われて、消えていく。


 いやだ。

 そんなのは絶対に嫌だ。


 メアリの父上はこんな俺に手を差し伸べてくれた。


「殿下の才能は、保守派たちにはわからないだけです。私たちが、手を貸しましょう。帝国の腐敗の原因である奴らを滅ぼさなければなりません。いまが、改革の時です」


 俺は、その手をわらにでもすがるように取った。


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