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第42話 手を

そして、御者ぎょしゃさんに馬車を任せて、私たちは屋敷に帰ったわ。


 どうしてかしら……


 フランツ様と一緒だと、無言の空気でも心地よいのよね。

 皇太子様とずっと無言だったら、お互いに気まずくなっていたのに……。彼とはお互いに気を使い過ぎたのかもしれないわね。私は、彼が立派な皇帝陛下になってくれるようにずっと願っていた。彼は、そんな私とずっと一緒にいることで気持ちが休まることはなかった。


 そして、私たちの関係は崩壊したわ。


 フランツ様との関係は大事にしたい。誰よりも私を選んでくださったんだから。

 やっぱり、どうしても今の自分の立場が夢のように感じてしまうわ。

 フランツ様と恋人同士になっただなんて、信じられない。

 あの湖の出来事は夢だったんじゃないのかな……そんな風に心配になってしまう。


 でも、夢じゃなかった。さっきのレストランで彼はゆっくり恋人同士になっていけばいいと言ってくれたわ。


 ※


「ずっと君のことが好きだった。それはあの卒業パーティーの瞬間まで、届かない恋だった。届いてはいけない恋だった。でも、今は違う」


「違うよ、ニーナしかいないんだ」


 ※


 彼が私のために言ってくれたことは、今でも私の心を包んで離さないわ。あの時のことを思い出すだけで、胸が熱くなって苦しくなる。


 本当にもったいない言葉だったわ。


 馬車はゆっくりと屋敷に帰る。

 その間、私たちは、お互いに目を閉じていたわ。


 さすがに、疲れたのよね。いつもは体力に自信があるフランツ様も、気疲きづかれがあるようなので、うとうとしている。今日は大事な会議もあったし、その前の準備もいろいろと大変だったし――そのおかげで、私は仕事に集中していたから、悩まずに済んだんだけど、ね。


 そう考えると、私はずるいわ。彼の優しさに甘えていたのよね。


 いくらフランツ様でも、告白したのに、他人行儀たにんぎょうぎな態度をされたら気が気じゃなかったはず。もしかしたら、傷つけてしまったかもしれない。


 私は彼の気持ちが嬉しかった。でも、同時に申し訳ない気持ちにもなってしまったわ。だって、そうじゃない? 私はずっと待っていただけじゃない。


 フランツ様は、皇太子様の横暴おうぼうから私を助けてくれた。

 私が絶望しないように、仕事も用意してくれた。

 私の名誉回復のために、各所に根回しをしてくれたはずよ。

 皇帝陛下との面会もセッティングしてくれた。

 陛下と両親にもきちんと筋を通してあいさつしてくれていたのも聞いたわ。


 ずっと、私は彼に助けてもらってばかり……


 彼に何も返せていないのよね。そして、彼の恩情に甘え続けているのよ。

 彼は私のために、ゆっくりと気持ちの整理をする時間を与えてくれた。

 それに甘え続けて、自分から何もしないのはただ、逃げているだけじゃないのかな?


 彼と恋人同士になったなんて、帝国中の女性が喜ぶ身分なのに、私が何もしないなんて許されない。そんなのは、ただ立場に甘えているだけだから……


「あの、フランツ様?」

 私は思わず口を開いてしまった。沈黙の空気が変わっていく。少しだけ後悔しながら、私は頑張って言葉を紡ぐ。


「どうしたんだい、ニーナ?」

 フランツ様の笑顔を見ていると、その笑顔に吸い込まれてしまう。何を言うのかも忘れてしまうくらい、透明感がある笑顔ね。


「あ、あの……」

 私は、何を話せばいいのかまごついてしまう。


「大丈夫だよ、ゆっくりね」

 その言葉を聞いて、私は母親にあやされる赤子のように気持ちが落ち着いていく。

 大丈夫よ。私たちは恋人同士だから――

 拒否されるなんてありえないわよね。


「あの、手を……」


「手を?」


「手を握らせてはくれませんか? 今日はとても楽しかったから、もう少しだけ、あなたを感じていたくて……」


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