第36話 うるさい小姑
「ニーナ様、ニーナ様ってば!!」
「あっ、ごめんなさい、マリア。少し考え事をしていたのよ」
マリアの声で私は現実に引き戻された。
今日はだめね。昨日のショックで、今日は本当にボーっとしてしまう。
なんとか冷静になろうとハーブティーを口に含んだ。
ミントの香りが口の中に広がる。
とてもさわやかなお茶ね。
「もう、どうしたんですか……今日は一日変ですよ。朝も夢うつつみたいな感じでしたし」
「ちょっと、寝不足なのよね。そのせいかしら……」
「私はてっきり、お兄様と何かあったのかと思ったんですが」
「……」
ドキッとして、無言になってしまう私。明らかに動揺しているわ。
ここはごまかさないといけないのに……
嘘をつきたくないから、動揺して言葉が続かない。
こんな状態なんて、生れてはじめて。
「あー、やっぱりそうなんだ。お兄様もニーナ様も水くさいですね~」
「だって……」
「いいですか、ふたりとも本心を隠していたつもりだと思いますけど、外から見たら、バレバレでしたわよ」
「えっ」
「そうよね、みんな?」
周囲のメイドたちも、頭を大きく動かして肯定していたわ。
えっ、嘘。私って、そんなに気持ちが表に出ていたの!?
そもそも、私はこれが恋なのかもわからなかったのに……
「ニーナ様は、お兄様をずっと目で追っているし」
「……」
自覚、あるわ。
「ふいに手が当たった時は、かなり動揺していたし」
「……」
そんなこともあったかしら……
「今日も兄さんのことを考えて、ずっと夢の世界をさまよっているんですもんね」
これは疑いようのない事実よね。
「何も言えないわね」
「ですよ。もう完全に恋する乙女の顔になってますから……」
「うう」
そんなに私ってわかりやすい? わかりやすいのよね……だって、メイドさんたちも、うんうんと首を振っているし。
「でも、よかったわ。お兄様とニーナ様。最高のカップルです。品格、家柄、知性すべてがピッタリの皆がうらやむ男女ですもの!! 正直に言えば、あの愚鈍な皇太子様には、ニーナ様はもったいないですもん。ねぇ、皆さん?」
「はい、素敵ですわ」
「フランツ様と釣り合いが取れるのは、帝国を見渡してもニーナ様くらいしかいませんわ」
メイドさんたちは、そう言って私に対して賞賛の言葉をおくってくれた。
「みんな、持ち上げすぎです!!」
「ニーナ様は、自己評価が低すぎですわ。もっと、胸を張ってください。そうしないと、我が家の評判にも関わりますから!」
「そんな小姑みたいなことを言わないでよ、マリア……」
「何を言っているんですか、《《将来の》》小姑ですよ、私は……」
マリアの言葉にみんなが笑いだした。この光景を見ると、いるべき場所に帰ってきたとわかるわ。もう実家みたいに、落ち着ける場所よね!
「でも、よかったです。これで、私も安心して学園に帰ることができますね」
「あっ……」
そうだった。もうすぐマリアが学園に帰ってしまう。
ということは、私とフランツ様のふたりだけの共同生活がはじまってしまうの……?
「うるさい小姑は、あと1週間くらいでいなくなるので、あとは若いおふたりで仲良く過ごしてくださいね、ニーナ様!」




