第28話 父親と辺境伯
「ただいま、戻りましたわ、お父様」
久しぶりに会えたお父様は、少しやせていたわ。随分と心配をかけたのね。胸が痛む。
「おお、ニーナ。よくぞ、無事に戻ったな。この度の件は、皇帝陛下の使いからすべて聞いている」
「ご心配をおかけしました」
「いや、ニーナ、お前はオースリア辺境伯領でも、婚約破棄の件があっても腐らずに大活躍してくれた。それもあって、今回のことがあるんだ。さすがは、我が娘だ。お前の努力は決して無駄にならなかった。すべては、お前が今まで頑張ってきたことの延長線にあるんだよ」
お父様は、とてもやさしい口調で、私に語りかけてくれる。その優しい言葉を聞いているだけで、目が潤んでくる。
自分が頑張っていることを知ってくれているだけで、私の気持ちはこんなに満たされる。
もっと早く気がついていたら、皇太子様との関係もまた別のものになっていたのかもしれないわ。
「そして、フランツ辺境伯。この度は、娘の件で多くの負担をかけてしまったな。あなたのご尽力に関しては、感謝してもしきれない」
「いえ、ニーナは私にとっても家族のような子です。私は、公爵様にいつも助けていただいてばかりでしたので、今回の件で少しでもその恩を返せたなら、幸いです」
「お主は、父上に似て真面目過ぎるな。今日はもう遅い。ふたりとも、ここに泊まっていきなさい」
「えっ!! お父様、私はまだ何も言っていませんが……」
まるで、私も辺境伯領に帰ることを知っているような口ぶりだわ。
さすがに、まだ皇帝陛下から連絡が来ているとも思えないし。
どうして、わかったのかしら……
「なに、自分の娘のことくらい顔を見ればわかるよ。その顔は、この屋敷に残る気など毛頭ないような決意にあふれているからな。私が止めても、止まるような娘ではないだろう? 辺境伯に迷惑をかけないように、頑張れよ。たまには、屋敷に帰って顔を見せてくれ」
「お父様……」
「辺境伯よ、引き続き娘のことをよろしく頼むよ」
「はい! ニーナはとても優秀な事務官なので、助けてもらってばかりなんですが……」
「そんなことありません。私の方こそ、フランツ様に助けていただいてばかりですよ!!」
そんな私たちの言い争いをお父様は、なぜだかニヤニヤしながら聞いていたわ。どうしてかしら?
「ニーナ? すまないが、フランツ君と話をさせてくれ。少しだけ、ふたりきりにさせてくれないかい?」
お父様は、私たちの言い合いがひと段落するのを見計らってそう言ったわ。
たぶん、政治のお話ね。
「わかりました」
お父様とフランツ様は、とても厳しい顔をしていたわ。
ふたりとも、そんなに難しいことを語り合うのかしら?




