第24話 皇帝陛下
そして、面会当日。
私たちは、玉座の間にて、皇帝陛下を待っているわ。
荘厳な玉座と装飾は、皇帝陛下の威厳を示している。ここには何度も来ているんだけど、どんなに場数を踏んでも緊張してしまうのよね。
ここが国家の中心。最高の意思決定の場所。そして、何百年も続いている帝国の歴史の中心地。伝統と権威が詰まっている場所。
「待たせたな、ふたりとも」
すでに、60歳を超えている男性とは思えないほど、力強く明朗な声ね。
リチャード9世陛下。
グレア帝国の長い歴史の中でも、屈指の名君とも呼ばれている皇帝陛下よ。国力に優る陸軍大国ヴォルフスブルク帝国を、諸外国と同盟による包囲網によって抑え込み、大陸最強の海軍を築き上げた英雄。
治世の中で戦争を起こすこともなく、外交と経済力によって大国の地位を確保している傑物ね。
内政においても、商品作物の栽培の推奨や税制度改革で辣腕を振るっているわ。
皇太子様やフランツ様のあこがれの存在であり、プレッシャーにもなっている存在。皇太子様のメンタルが不安定なのも、御父上の実績が重すぎるせいでもあるわ。
「ニーナ公爵令嬢。今回の件、皇室を代表して、お詫びする。本当に申し訳なかった」
開口一番で、謝罪の言葉を発した皇帝陛下に、私は動揺する。
「陛下、頭をお上げください! 私も、もう少し殿下の気持ちに寄り添うべきだったんです」
「ニーナ……一番つらいはずのあなたに、気を使わせてしまっているな。今回の件の最終的な責任は、皇帝である私にも責任があるのだ。公爵家の献身に、私もバカ息子も甘えていたんだ。それが結果として、あなたを傷つけてしまった。本当に申し訳ない」
「陛下……」
「すでに、私の名前で、ニーナの冤罪を晴らすための告示をしている。今回の件で、公爵家の権威を傷つけた。そちらに関しては、誠心誠意できることをさせていただくつもりだ」
「ありがとうございます……」
「そして、今回の婚約の件は、皇太子の変心によって、一方的に婚約を破棄したことを臣民に伝える」
「しかし、それでは、皇太子殿下の権威が……」
「それで後継者の道が断たれるなら、それは愚息の資質の問題だ。被害者であるニーナが心配する必要性はないよ」
「……」
陛下の優しい言葉に、私は頷くことしかできなかった。
「よかった。すぐに帝都に戻って来れるように手配しよう。公爵も寂しく思っているだろうからな」
あっ……
そうか、私が許されると、辺境伯領での生活が終わってしまうのね。
フランツ様のお仕事を手伝ったり、マリアとお茶を飲んだりする幸せな時間が終わってしまうんだわ。
当たり前のことに、今頃気がつかされた自分がそこにいた。
「よかったな、ニーナ。これでキミは自由の身だ」
フランツ様も私のことを祝福するような目になっている。
でも、それは、《《私の幸せじゃない》》。
思わず、口から言葉がこぼれてしまった。
でも、思わずこぼれてしまう言葉は、惑うことなく私の本心なのよ。
だから、ここで言葉を発することができた私のことを、私はずっと誇らしく思うはず。今までずっと籠の中の鳥だった私が、初めて自分の気持ちに正直になった瞬間だったのだから。
「陛下、そして、フランツ様――私は、帝都ではなく、オーラリア辺境伯領にとどまりたいと思っているんです」




