第21話 ボロボロの王子
「この大バカ者が!!!!」
玉座の間に、皇帝陛下《父上》の怒声が反響した。
温厚な陛下が、ここまで大きな声を出すのは、はじめてだ。
それほど、今回のことは、大失敗だったな。
「お前が自分で選んだ妃候補だろう! 私にも、大臣たちにも、誰にも相談せずに、お前が、お前のワガママで選んだ者じゃないか。なぜ、なぜだ。あの者は、将来の皇后になる自覚が足りなさすぎる」
くそ、どうしてこんなことに……
「申し訳ございません」
「たしかに、お前は将来、この帝国の長になる男だ。皇帝になってしまえば、孤独で、誰にも頼ることができないこともある。そんな時に、お前を支えて、国を一緒に良い方向に持っていくのが皇后だ。その皇后くらいは、お前の意向を尊重してやろうと思っていた。それに、ニーナは優秀過ぎた。だからこそ、メアリに関しては、時間をかけて、じっくり教育をしていくように皆に指示を出していたのだ」
陛下は、信頼関係を大事にする。
最も信頼する公爵家の令嬢であるニーナを俺の婚約者にあてがったのも、父上の性格によるところが大きい。
「できないことを、できるとはいうな。国は、信頼の上にしか成り立たない」といつも口を酸っぱく言われてきた。
信頼。
それは、国と民を繋げるのに最も重要なことだ。
そして、陛下の後継者に最も必要なこと。
後継者になるはずの俺が、陛下の信頼を裏切った。それは、最も父上が嫌うこと。
「前回の外交使節団の対応は、まだ準備不足だったということで見逃した。しかし、今回の宮廷行事は、事前にしっかり準備をしてきただろう? 時間もあった。にもかかわらず、どうしてお前の新しい婚約者は、マナーもほとんどおぼえずに行事に参加し、挙句の果てに不貞腐れて退出するなど、言語道断だ!」
今回の行事は、春の種付けの安全を祈願し、神々に穀物の豊作を願う最も大事な宮廷行事の一つだった。新しい婚約者のお披露目の意味もあり、俺たちにとっても重要なもののはずなのに……
メアリの役割はそこまで多くなかった。にもかかわらず、大失敗して、周囲の冷たい目線を浴びて、彼女は逃げ出したのだ。
「いったい、この1か月なにをしていたんだ。おまえたちは!! 教育係に聞いても、メアリはまじめに授業を受けずに、サボってばかりと言っていたぞ。お前の監督不行届きではないのか?」
「……」
それに関しては、何も言えなかった。
正直に言えば、俺はメアリと顔を合わせないようにしている。すぐに、遊びたいとか、何が欲しいとかばかりだったから。だからこそ、彼女の準備がここまでできていないとは思わなかった。
彼女の自由奔放さと優しさに惹かれた俺だったが……
隣の芝生は青く見えただけじゃないのか、不安になっている。
だが、ニーナだって、問題があった。
あいつが、メアリをいじめなければ、俺だってあんなことをしなくてもよかったんだ。
すべては、ニーナが悪い。
俺は、必死にそう思い込む。




