第19話 彼の気持ち
いつからだろうか。
私がニーナのことを女性だと認識したのは……
親同士が親友ということで、私たち兄妹とニーナはよく遊ぶ家族のような関係だった。バカンスでも近くの宿を取っていたし、ニーナのお父上は、私たちの両親が病気で亡くなった時に、自分のことのように悲しんでくれた。そして、両親の代わりに私の後見人のような立場でいろんな便宜をはかってくれた。
敵ばかりの貴族社会で、私がここまで領地経営に専念できたのは、ニーナの家族の協力あってこそ。言葉巧みに私たちを騙して、甘い蜜を吸うことも可能だったはずなのに……
ニーナは、お父上に似ているんだろうな。権謀術数の世界で生きるにもかかわらず、誠実に生きることで、周囲の信頼を勝ち取っているところがそっくりだ。だからこそ、皇太子様の婚約者にふさわしいと判断されて、お互いに1歳の時に許嫁になったんだ。
皇帝陛下も頭が痛いだろう。
家柄も良くて、当主も誠実で、娘も英明と評判の公爵家は、後継者の最高のパートナーになるはずだったのに……息子の暴走で婚約が破談となり、公爵家の不信も買ってしまった。公爵様もニーナも、下の者の面倒見が良いので、一つの派閥のようなものができている。公爵家を敵に回すことは、つまり、その公爵家を慕う貴族たちの不信もつのらせることになる。
事実、新しい婚約者候補の男爵家令嬢は、あまりの傍若無人さによって、社交界の不評を買っている。皇太子様がその後継者としての資質に欠けていると言われても仕方がない。
さらに、新妃候補の実家は、権謀術数によって成り上がってきた新興貴族だ。公爵家とは真逆で、敵も多い。はっきり言えば、後継者のパートナーとして不適格。
この帝国では、古くからの貴族と新興貴族の対立も問題になっている。
このまま、皇太子問題が原因で国が二分されるかもしれない。
そうなれば、内乱の危機だ。
国土は荒れ、民は飢える。
そして、我が辺境伯領も巻きこまれるのは間違いない。
もしかしたら、私が祭り上げられるかもしれないな。
仮にも、王位継承権を持つこの立場が恨めしい。罪のない民を巻き込まないように、政治家がしっかりしなくてはいけないのだが。
民の生活を守ることができない無能者にはなりたくはない。
「ふう、考えなくてはいけないことばかりだな」
ため息をしてもひとりだ。
こういう時こそ話し相手が欲しいものだな。私は、仕事を手伝ってくれるニーナのことを考えながら、仕事を進めていく。
今日の新しい服の彼女はとても可愛らしかった。




