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第18話 緊張

「うう……」 

 屋敷に帰った後、私はもだえていた。



「でも、妹分として、長年の友人としてひとつだけは言っておきます。無意識でその人について考えたり、自分のファッションがその人にどう思われるかを不安になるのは――ニーナ様が、我が兄であるフランツに"恋"しているからではありませんか?」



 マリアの言葉が私の心に突き刺さっていたの。


「私が、フランツ様に恋?」

 そもそも恋ってなんだろう。私は皇太子様に恋をしていたのだろうか。

 皇太子様とは、物心つくまえから許嫁になっていたから、そもそも彼と結婚することが当たり前だと思っていたのよ。

 でもね、私が彼を好きだったのかと聞かれたら、よくわからないとしか答えられないの。


 親愛を感じるときは多かったけれど……

 それが、恋だったのかしら。


 そもそも、恋ってどんなもの?

 定義は?

 どうなったら恋で、どうなったら違うのよ。



 うう……


 今まで同年代の子たちとは、まるで別の経験をしてきたから、こういう時に困るのよ。

 いきなり皇后にならなくていいから、自由にしろなんて言われても!!


 そんなの自由な飛び方を知らない鳥に、飛んでみろっていうくらいの無茶な相談よ。


 でも、マリアは最後にこうも言っていた。


「大丈夫です。ニーナ様はゆっくり慣れていけばいいんです。そして、悩んだら自分の気持ちに従ってください。もう我慢ばかりしなくていいんですから」


 ゆっくり、か。


 じゃあ、私は今、なにがしたいんだろう。

 そう問いかけながら私の足は動き始める。


「失礼します」

「やぁ、ニーナ! 今日はゆっくりできたかい?」

「はい、マリアと一緒に街でご飯を食べて、服を買ってきました」

「そうか、楽しかったならよかったよ。なら、それが、新しい服だね」

「はい、いただいたお金でたくさん買ってきてしまいました」

「いや、気にしないでくれ。あれは、労働の対価なんだから」


 うう、聞きたい。

 でも、聞くのが怖い。


 もしこれで似合ってないとか言われたら……


 そんな最悪の事態しか考えられない。


 もう好きにして。


「ニーナもそういう服を着るんだね」


 きちゃった。


「似合いませんか?」


「そんなことないよ。いつものドレス姿も素敵だけど、そういう若い子がよく着る服もとても可愛らしく着こなしているよ」


 そう言われた瞬間、頭の中が真っ白になったわ。

 嬉しくて、でも、ドキドキして、世界は変わってしまう。


「それでは、お礼を言いたかっただけなので、これで失礼しますわ。お仕事の邪魔をして申し訳ございません」


「いやいや、ニーナと話せていい気分転換になったよ。明日から、引き続きよろしくお願いするよ」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


 私は、なんとか取り繕って部屋から退出する。


 胸の高鳴りは止まらない。


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