第15話 ベリータルト
そして、ベリーのタルトが出てきた。
ストロベリーとクランベリーが上に奇麗に飾られたサクサクのパイ生地となかにたっぷりカスタードが入っている。
「最高ね! 甘さと酸味が絶妙で……」
「はい、ニーナ様! お茶も飲んでみてください! これもおいしいですわ」
そううながされて、私は紅茶を一口飲む。紅茶の素晴らしい香りの後に、フルーツの甘さが口に広がる。
これはジャムね。ジャム入りの紅茶なんだわ!! それも、隠し味でジャムにワインが混じっているのね。だから、香りが引き立つんだわ。
「美味しい。心が満たされるような素敵な香りね」
「それはよかった。店主として最高の誉め言葉です」
私たちの後ろにはクランベールさんが立っていて、満足そうに笑っている。
「これは、イチゴジャムを入れた紅茶なのね」
「はい、北の大陸の寒い場所に住む人たちの飲み方なんですよ。極寒のなかで、体を温めつつ、保存できるジャムで貴重な栄養を取ることができるので」
「店主さんは、博識ですね」
さすがは、辺境伯領の元官僚ね。
「褒めていただき恐縮です。それではごゆっくり……お茶のお代わりは、1杯まで無料ですので、おくつろぎください」
店主さんはにこやかな笑顔で去っていく。
「すごい店主さんね」
「ええ、官僚時代は、相当やり手な財務官僚で、亡くなった父も重宝していたんですわ。お兄様も『クランベールには復帰してもらいたいんだけどね。本人は今の生活に満足しているようだから無理強いできないよな』と残念がっているんです」
※
「とても美味しかったですわ、クランベール」
「マリア様に褒めてもらえるのが、このクランベール最高の幸せですな」
ニーナ様には先に馬車に行ってもらい、私はお会計をするために、クランベールと談笑していた。
「ニーナ様も、あんな風に笑うことができる方だったんですね」
「あら、やっぱり知っていたのね」
「ええ、亡き領主様の付き添いでパーティーに出て、何度かお見かけしたことがありますよ。身分が身分ですから、きちんとご挨拶したことはありませんでしたが……」
「ニーナ様は、ずっと重荷を背負っていましたから」
「ええ、だから、マリア様とあんなふうに年相応の少女のように笑いあっている姿を見て、私もホッとしました」
「そういえば、今日の紅茶のジャムは、イチゴだったのね。いつもはマーマレードなのに」
「イチゴの花言葉を知っていますか、マリア様?」
「知らないわ」
「『私は、あなたを楽しませる』と『尊重と愛情』です。おふたりにピッタリな言葉だと思いましてね」
「もう、ずいぶんと粋な計らいね」
そう言って私は、クランベールと別れる。
外の日差しはとてもまぶしく、空は雲一つない晴天だった。




