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第12話 後悔

「私は……」

「いいかい、ニーナ。僕は、君のことを大切な人だと思っているんだよ」

「たいせつなひと?」

「そう、君は古くからの友達だし、今や家族のような間柄になっている」

「は……い」

「マリアは年下で、相談しにくいこともあるだろう。だからこそ、私にはちゃんと甘えてくれ。君はずっと頑張りすぎていたんだから……そうしなければ、ずっとずっと一人で生きていくことになってしまうよ」


 目が潤んで、視野が狭くなっていく。


 ※

「ニーナ、残念だがキミは皇太子の婚約者として、ふさわしくない。キミとの婚約を破棄する」

 ※


 殿下の言葉を思い出して、私は胸がえぐられる気持ちになった。


「でも、あの件については、私にだって少なからず責任があるんですよ」

「ニーナは責任感が強い。私は、ニーナのそういうところは好きだよ。でもね、君は被害者でもあるんだ。君がどんなに強くても、間違いなく傷ついたはずだよ。本当なら幸せの絶頂にいなければいけない卒業パーティーで、自分の人生を否定されるかのような心無いことをされたんだ」

「……」


「キミは、たしかに反省しないければいけないこともあるかもしれない。でも、それがなによりも優先されるわけがないんだ。ニーナは本当に我慢強すぎるよ。でも、我慢すればするほど、誰もキミが痛がっていることに気がついてくれないんだよ。本人が苦しいと言ってくれなければ、誰もキミと一緒に苦しんでくれないんだ」


「でも、私は、強くなくちゃいけなかったんです。そうしないと、国民の先頭に立てないから。だから、私は強く正しくなろうと……でも、そのせいで、私は彼に捨てられてしまった」


「ニーナの努力は間違っていなかったよ。キミは誰よりも強くて賢い女の子になった。キミは正しかった。でも、正しさに彼がついてこれなかったんだ。彼は、弱かったから。そして、自分の弱さを認めることができないほど、彼は繊細だった。だから、起きてしまったんだよ」


「最近、ずっと考えていたんです。もう少し、殿下に寄り添うべきだったと。彼の弱さを理解していたのに、私は彼を追い詰めてしまったんじゃないかって――私が悪かったんじゃないかなって」


「ニーナ。あまり、自分を責めてはいけないよ。キミは優しすぎる。キミの行動は正しかったと僕は信じている。でも、正しいことは、時に弱者を追い詰めてしまうんだ。殿下は、もっと強くならなくちゃいけなかったのに、彼はそれができずに自分で自分を追い詰めてしまったんだと思うよ。だから、あんなことをしてしまった」


「私はどうすればよかったんですか? 教えてください、フランツ様……」


「後悔は、忘れることはできないと思う。僕たちも、両親を失って、ずっと後悔を抱えて生きている。でもね、ニーナ。後悔を抱えて生きるのと、ずっと後悔を見つめているだけの人生はまるで違うものなんだ」


 彼は、私の左手を優しく包みこんでくれる。


「キミは過去に縛られちゃいけないよ。過去の後悔を忘れずに、《《今を生きるんだ》》」


 彼の顔を直視できない。ここまで、自分のことを考えてくださっているなんて、思いもしなかった。


「苦しいです、フランツ様……私は頑張ったのに、みんな私のことを認めてくれないし……一番、私のことを理解してくれていると思っていた人から拒絶されて、浮気ばっかりして私、ずっと苦しかった。泣きたかった。でも、泣けなかった」


「苦しかったね、ニーナ。ここには、キミの味方しかいないんだ。だから、いっぱい泣いてくれ。僕は、胸を貸すくらいしかできないけどね」


「あり……がとう……ござ」

 私は、感謝の言葉も言い切れずに、彼の言葉に甘えて、赤ん坊のように泣きじゃくった。



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