第11話 夢
私は夢を見た。まだ、私と皇太子様がうまくいっていた時期の夢。
私たちは、久しぶりに乗馬を楽しんでいたわ。晴れた平原で、私たちは風になって走る。
従者も連れていたから、デートという感じではなかったけど……
「負けたよ。ニーナはなんでもできてすごいな」
あのころはまだ、私を褒めてくれる余裕があったのね。いつからだろう。私たちが会っても笑わなくなったのは……
「俺は何をしてもだめだ。ニーナにも、フランツ辺境伯にも勝てない。先生たちにはいつも怒られてばかりだ」
「そんなことはありませんよ。殿下にもいいところはたくさんあります!」
「例えば?」
「人の気持ちがちゃんとわかる共感性の強さですとか、誰をも明るくしてくれる笑顔とか……」
「ありがとう、ニーナ。君は厳しいけど優しいな」
私たちはそう言って笑いあった。
でも、皇太子様は変わっていってしまった。
たぶん、自分の立場の重さに押しつぶされてしまったんだと思う。
共感性が高いからこそ、その感受性が暴走し、嫉妬感が強く出るようになってしまったり……
明るくしてくれる笑顔によって、女性によくモテることを自覚して、少しずつそこに依存してしまった。
私とは違い他のガールフレンドたちは責任がないから、甘い言葉や彼を誉めることばかり言っていた。
彼女たちは、責任が少なくてうらやましかった。彼のことが嫌いだとは思わなかった。でも、私たちの関係は普通の男女よりも大きな責任をともなうわ。
彼の心が私から離れていった時から、ずっと思っていたのよ。
私がもう少し彼に寄り添うべきだったんじゃないかということを……
彼の重責をもっと軽くしてあげることはできなかっただろうか。
婚約者として、そんなこともできなかったから、私は今、こういう状況になっているかもしれないわね。
ずっと、ずっと自己嫌悪が続いているわ。
※
目が覚めた。
時計を見る。深夜1時ね。
最悪の気分で眠れそうにない。散歩でもしましょう。
私は、屋敷の廊下を歩く。みんな寝静まっているから、廊下は真っ暗ね。
ひとつだけ灯りがついている部屋があった。
フランツ様の部屋ね。
こんなことをしては、はしたないと思いつつ、私は彼の部屋をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
「やぁ、ニーナ! どうしたんだい、こんな夜更けに?」
「少し眠れなくなってしまって。フランツ様は、まだお仕事ですか?」
「ああ、でも、もう終わりにしようと思っていたところだよ。そうだ、お茶でも飲もうか? 安眠用にハーブティーを飲むのが、お気に入りだからね」
「ありがとうございます。いただきます!」
夜のティータイムになってしまった。
優しい味のハーブティー。カモミールね。
「ニーナ。ここには、私とキミしかいない。だから、言っておくよ」
「えっ?」
「キミは、あんなに辛いことがあったのに、どうして甘えてくれないんだい? 全部、自分のせいだと思ってはいないかい?」




