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短編

【短編】「役立たずと言われ追放されたけど、あれ? 俺のスキルなしでみなさん今後どうする…(以下略)」とか言いたげなアイツが気に食わないので、全力で阻止してやろう。

「アラン、お前には悪いが、パーティから外れてもらう」


 ギルドに呼び出された、見た目も冴えないその男は、思わぬ言葉を受けて立ち尽くしている。アラン……パーティの荷物を運んだり雑用を任されたりしている()()()は、たった今、パーティのリーダー、そして勇者であるレオに、クビを言い渡されたところだった。

 そして、その様子を冷めた目で見ている私は、カトリーナ。現在、脳内実況、絶賛進行中。ちなみに、レオの率いるパーティでは、魔導士として大活躍している。


「分かった……でも、俺がいなくなって困らないか?」


 出た。


「アラン、お前のスキルは〈幸運の種(フォーチュンシード)〉。はっきり言ってほとんど役に立たない。そうだろ、オフィリア」


「ええ……アラン様には申し訳ないですけど、剣も魔法も今一つ。残念ながらアラン様が戦闘で活躍している場面を、これまで一度も見ることはありませんでしたわ」


 レオの隣で話し始めたのは、聖女のオフィリア。そして、他のメンバーも無言で頷いている。


「そうか。……まあ、レオ達がそう言うなら、仕方ないか」


 出た出た。


「じゃあ、そういうことで……」「ちょっと待ったあああああ!!!」


 ギルド中に響き渡る声。その場にいた皆が、一斉に私の方を見た。


「カ……カトリーナ? そんな大声張り上げてどうした?」


「アランの固有スキル〈幸運の種〉について、レオはどれだけ理解しているっていうの?」


「えー……アランのスキルなんてちょっとした幸運が起こるくらいのものだろ?」


「甘いわ!!!!!」


 私の喝に、全員がビクッとする。


「アランのスキルは地味だけどその効果は侮れないわ。経験値1.08倍に増加、クリティカルヒット率微増、ちょっとしたラッキーな出来事数知れず! それをみすみす手放すとは、レオ、あんた見る目がないわよ」


「……カトリーナ、なんだってそこまで俺のことを庇ってくれるんだ? 俺の能力なんて、今のみんなにはさほど影響ないだろ」


 はっ、きょとん顔してんじゃないわよ!!! これで、あんたの計画は丸つぶれ。悪いけど、今後も徹底的に監視させてもらうわ。


 ――私は先日の記憶を呼び覚ましていた。


 アランがこっそり持ち歩いている本に何気なく目が行くと、そこには『追放されても、大丈夫。嫌なアイツらを見返せる』のタイトル。その本は街で流行しているらしいので、早速チェックしてみると……恐ろしいことが分かった。


 何、これ。まるで私達とアランの関係みたいじゃない! この本を読んで、来たるべき時に備えているとは……アラン、なんて腹黒い男なの。


 そうして、今日を迎えた私は、アランがどういう思考で行動しているか、手に取るようにわかる。今だって、自分の能力を分かってるはずなのにろくに弁明もせず、パーティを外されかけても文句も言わないその態度が何よりの証拠。こいつ、私達が後でその存在の大きさに気付いて、泣いて縋ってくるのを「いや、もう新しいパーティで大活躍しちゃってるんで」とか言って切り捨てた後、こちらが破滅する様を見て高笑いしたい願望を抱いているに違いない。よろしい、そちらがその気なら、こっちも全力で阻止してみせようじゃないの……!!


「カトリーナ?……おーい??」


 私が事の真相を一人噛みしめているところに、来客があった。 


「大変だ! 西の山にワイバーンが出て、通れなくなってみんな困っているんだ。退治してくれないか?」


「そういう魔物退治に関しては、クリスのパーティの方が向いてるんじゃないか?……なんか最近あいつ見かけないけど」


「それが、最近追放した弓使いさんが実は多大な貢献をしていたらしくて、クリス様のパーティは存続の危機になっているらしいですわ」


 オフィリア、その情報どこで手に入れたの。侮れない女ね……。


「……そうなのか、どうする? まあ、ワイバーンくらいなら俺達でも簡単に倒せるだろうけど」


「引き受けましょう! ちょうどいいわ、私がアランの能力を皆に知らしめてあげる!」


「えー……」


 こうして私達は、ワイバーン退治へと山に向かうこととなった。


        ◇  ◇  ◇


 山の中腹。私達は今、ワイバーンと対峙している――。ここからが私の実況中継の腕の見せ所ね!


「はい! 今のレオの攻撃、うまく軌道にのってワイバーンの頭にヒット!」


「私の今の魔法、下位なのに威力二倍で広範囲攻撃になっていまーす!」


「オフィリアの落としたロッド、アランの幸運がなければ今頃崖下に転がっちゃってたよー??」


 ワイバーンに対する攻撃は次々と繰り出される。その一つ一つの攻撃に、アランのスキルの効果がどれほど含まれるのか見極めるのは難しい。アランがパーティに参加する前から長年、みんなの様子を観察し続けた私にしかできない芸当だ。


 喉はカラカラになり、息が上がる。それでも、私は歯を食いしばり、次々と的確な評価をし続けた。

 

 そして、ついにワイバーンは力尽きた。もう少し長引いていたら、私もやばかったかもしれない。喉が。


「はい、経験値5200のところ、5616も手に入りましたー! 10回で4160、100回で41600の差が生まれますよー!」


 私が最後の言葉を絞り出すと、レオがアランに向き直る。


「アランの功績、よく分かった。これからも、よろしく頼む」


 おっしゃああああ!! ざまあああああ!!! これでアランの計画は失敗に終わったわね。アランが複雑な表情を浮かべているのもまた、小気味いい。


「そして、カトリーナ。……アランの力はもう充分わかったから、戦い中の実況をやめてほしいんだけど」


 えー、私の分析能力、貴重だと思うんだけど。まあ、声が枯れるし、毎回はやめよう。


 私はそれ以降も、アランの様子をがっつり観察し、皆がその恩恵を忘れそうになる度、報告し続けた。


        ◇  ◇  ◇ 


「カトリーナ、その、悪いが……パーティから外れてもらう」


 私は飲んでいたコーヒーを、噴き出した。


「げほっ……は? 何その冗談」

 

 レオは顔にかかったコーヒーを拭きながら話し出す。


「うう……冗談、ではないんだ。実は俺たちのパーティに参加したいという別の魔導士の子がいてね。カトリーナに交代してほしいと思っているんだ」


「……誰よ、そいつ」


「う……新人のハンナなんだけど」


「は? なんでよりによってあの子? レオって人を見る目が全くないの? 私の方が高位魔法を覚えているし、MPだって俄然高い。経験の差は言うまでもない。そして、何より、顔が可愛いじゃない!!」


「……確かに、カトリーナの言う通りだ」


「なら、どうして!?」


「だって、そのさ……口うるさいじゃん、カトリーナ。俺、優しい子がいいもん」


「……」


 こうして、私はあっさりとクビになった。


 所詮、能力値も中途半端なうえ、勇者とかいう曖昧な職種の人間がリーダーのパーティなんぞ、未練もないわ!


 私の最後の言葉に、レオは泣いていたようだけど、ここまで貢献してきたのにこの仕打ち。私の方が泣きたいくらいだわ!!


 ……でも、そんなことでこのカトリーナ様はへこたれない。


        ◇  ◇  ◇ 


 そうして、仕方なく実家に帰った私は、父の経営していた商店を引き継いだ。細々と地元の人間向けに日用品を売る、しょぼくれた店だったけど、まあ、いいわ。命を危険にさらしてまで続けている魔導士という職業にも、そろそろ見切りをつけようと思っていたところだったし。



 ……そして、あっという間に1年が過ぎた。現在、私の店は「美しすぎる魔導士が経営する魔道具店」として、大繁盛している。近々、チェーン店もオープン予定だ。持ち前の細かい分析力と打たれ強い性格は、魔導士より商人として向いていたのかもしれない。

 社長として多くの従業員を雇う身になった今でも、私は積極的に店に出ている。だって、客のニーズや流行り廃りを見極めることこそ、商売成功の鍵だからね。



 そんなある日。自室でくつろぐ私に、思わぬ事態が訪れた。


「社長、知り合いの方がお会いしたいとのことですが、どうしましょう」


「誰かしら?」


「それが、昔の仲間で『アラン』様とおっしゃっていますが」


「……は? アラン??」



 久しぶりに見たアランは、相変わらずパッとしない感じだった。


「カトリーナ、久しぶり」


「……どうしたの? まさか、レオのところをクビになって、私に泣きついてきたってわけ?」


「いや、今でもレオ達には良くしてもらっているよ。それで、新しく入った魔導士の子が結構大変な子で……カトリーナの魔導士としての力と分析力の貴重さにみんな気付いたんだ。カトリーナ、パーティーに戻ってきてくれないか?」


 私は飲んでいたフルーツティーを、盛大に噴き出した。


「は? 私もうこの商売で結構稼いじゃってるの。今さら戻れと言われても、もう遅いって」


「……」


「……」


 ん…? このセリフって……なんか、私が聞かされる予定だった……例の……?


 アランは顔にかかったフルーツティーを気にもせず、話し出す。


「無理にとは言わない。……だったら、俺も一緒にカトリーナの商店経営に関わらせてもらえないか? 戦いの場よりも役立つと思うんだ」


「ちょっと待って……ねえ、何の話をしてるの?」


 さすがの私も、こんな状況は予測できなかった。どういうことなの?


「……だってカトリーナ、俺のこと、ずっと……ずっと見ててくれただろ?」


「ひっ」


 アランの頬は、心なしか赤い。ガン見すると恥ずかしそうに視線を逸らされた。もしかして……なんかこいつ、勘違いしてる!?


 固まり続ける私のところに、従業員の一人が慌てた様子でやってきた。


「店長! この店の商品、全部言い値で欲しいという貴族の方がいらっしゃってます」


「え……ええええ!?」


「あ、言い忘れてたけど、俺、スキルアップして〈究極の幸運〉持ちなんだ」


「……」


「店長、どのようにお答えしましょう!?」


「カトリーナ、返事は?」


 ……


 ……私は今、人生の岐路に立たされている。

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― 新着の感想 ―
畳み掛けるような怒涛の展開でめっちゃ面白かったです。 でも、他に書いていらっしゃる方も言うとおり、常時幸運は諸刃の剣なので、スキルを自在に操れるぐらいにならないなら身内にするのは避けたほうがいいかと。…
[良い点] 商店的にはアランは雇わない方が良い。 雇うとしても〈究極の幸運〉を封じる手段を得て、実行してから。 でないと商店は幸運だよりになって、依存してしまう。 カトリーナ本人も従業員も商才が鈍っ…
[良い点] いやー上手いわ。 とにかく一直線で主人公以外置き去りの暴走ムーブも面白いし、最後の伏線だったことも、素直に喜べないリアルな選択を迫られるところも、いやーもうね。上手いとしか言えんわ。
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