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第92話 <ソードマスター視点①>


  කුකුකුකුකුකු  ソードマスター視点  කුකුකුකුකුකු



 髪は少しずつ伸びてきた。

 新しいパーティーでも結構うまくやっている。

 序列も一気に『ナインス』まで駆けのぼった。

 他のメンバーたちからは、スピード出世だと言われている。


 空は真っ青に澄み切っていた。いつもと変わらない平穏な日に見えた。

 それでも、ここ軍事都市国家ソンクラムは、このあと最悪の日を迎える。

 きょうがソンクラム壊滅の日になるなんて、誰が思ったことだろう――。




「ねえ、ナインス。いまの人は誰? もしかして彼氏?」


 そんなふうに冷やかすのは、序列が一つ上のエイトスだ。


「違うわ。単なる幼馴染みよ」

「そうかしら。でも……ふふふ」

「エイトス、何がおかしいの?」

「確かにイケメンだった。だけどああいうオトコとは、早く別れた方がいいわ」


 さすがに少し腹が立った。決してそんな関係じゃないのに。


「だから彼氏じゃないって言ってるでしょ! それにどうして『ああいうオトコ』呼ばわりするのよ」


 ニヤッと笑うエイトス。


「だってナインス。おカネを渡してたでしょ? 彼、ヒモ男なんでしょ?」

「アーチャーはヒモなんかじゃない!!」


 事情があって準軍奴隷になったのだ。解放されるには多額の支払金が必要。

 わたしが軍奴隷にならなかったのは、単にアーチャーより運が良かっただけ。

 だからわたしとしては、アーチャーを一日でも早くなんとかしてやりたい。


 ただ、そこまでエイトスに話すつもりはなかった。


「へえ、アーチャーっていうの? そんなムキにならなくてもいいじゃない。でも彼がヒモかどうかなんて……まあ、わたしには関係なかったわね。その点は謝っとく。それにしても仲のいい幼馴染みかぁ。しかもイケメンというのは羨ましい気がする。仮に本当に彼氏じゃなかったとして、付き合おうと思ったことはないの?」


 エイトスがわたしの顔をじっとうかがう。


「アーチャーとは、一度もそんなふうに考えなかったわ」

「ふうん。でもそれ、親しい幼馴染みが彼だけじゃなさそうにも聞こえるけど」

「わたしも含めて四人組のスクール・パーティーだったから」

「親しい幼馴染みの四人組かぁ。あとの二人は彼氏候補にならなかった?」


 うるさいなあ……。


 わたしには三人の親密な幼馴染みがいた。

 同い年でも、なんとなく兄っぽいのが一人、弟っぽいのが二人って感じだった。

 弟についてはデキが良いのと悪いのと。


 デキの良い弟は魔導だけではなく、勉強でも運動でも学年の上位にいた。

 だけど精神面においては、親密な幼馴染みの中で最も弱かった。

 大きな問題に当たると、すぐに逃げる・隠れる・諦める。

 それに臆病だった。


 デキの悪い弟は、わたしが初めて異性として好きになった人だ。

 何事にも要領が悪いけど、とても頑張り屋さん。

 無駄に頑張っている姿がキュートだった。


 でもわたしは彼に取り返しのつかないことをしてしまった。

 その結果、いま彼とは赤の他人になっている……。

 これからも昔のような親しい関係にはならないだろう。


 それは彼のせいではない。わたしのせいだ。

 わたしが『兄』に、心変わりしたことから始まった。


 兄は落ちこぼれの弟が大嫌いだった。

 しかもその弟がパーティーのリーダーだったので尚更だった。

 わたしは兄に加担した。兄のためなら弟を地獄に突き落とせた。


 いま兄は遠い世界を彷徨さまよっている。

 わたしは兄から離れて、やっと自分の醜さを知ることができた。

 楽しかった日々は二度と帰ってこない。



「ねえ、あれ。何かしら」



 今度はなんだというのだ。

 エイトスが遠い空を指差している。


 本当だ。遙か向こうに何かが飛んでいる。

 鳥ではない。もっともっと巨大なものだ。

 ここソンクラムに近づいているようにも見える。


 あっ、あれは!

 この前のやつ……。


 エイトスにも正体がわかったようだ。

 わたしたちの声が重なった。



「「ナロック・ナーガ!!!」」



 有翼人征伐時に見た蛇龍の化け物だ。

 凄まじい速さでこっちに向かってくる。


 ナロック・ナーガに気づいた人々が、大声で騒ぎ始める。

 街はたちまち大パニックを起こした。


 上空にはナロック・ナーガの群れ。空から黒い炎を放ってきた。

 道が焦げ、建物は焼け、木々も燃えていった。それから多くの人々も……。


 いまソンクラムは幸いなことに、国外からも多くの冒険者が集まっている。

 次の有翼人征伐に向けた準備が始められているからだ。


 冒険者の魔導士たちが大風を吹かせる。

 空を飛ぶ魔物には、その魔導が最も有効とされている。


 エイトスも風を起こした。


 そう。彼女は剣士であるばかりでない。

 魔導も少々使えるのだ。しかし……。


「エイトス、ダメよ。そんな微風そよかぜじゃ、ちっとも攻撃にならない。きょうみたいな暑い日には、心地がいいくらいよ。かえって敵を元気にさせてしまうわ」


「ナインス、その言い方ひどーい!」

「逆にその魔導で敵を倒せるとでも思ったの?」


 役に立たない魔導ね。まったく……。

 楽しかった(ウィザードのいた)頃のことを思いだしちゃうじゃない。



 軍が魔導で国民にアナウンスしている。南方へ逃げるようにとのことだ。

 南側から国境を越えさせるつもりのようだ。


 もちろんわたしもエイトスも逃げることはしない。プロの冒険者だから当然だ。

 ただし剣士であるため、上空の敵には何もできない。エイトスの魔導は論外だ。

 できることと言ったら、南へ逃げる人々の誘導を手助けするくらいだった。


 敵はナロック・ナーガの群れだけではなかった。

 有翼人も遅れて現れた。これは敵の復讐に違いない。


 ナロック・ナーガにしろ、有翼人にしろ、大風魔導による飛行障害を起こすことはなかった。何事もないように空を飛んでいる。


 ナロック・ナーガの黒い炎に加えて、有翼人の矢が斜め上から降り注ぐ。

 しばらくして魔導によるアナウンスがあった。軍からのものだ。



 ――魔導士以外の兵士および冒険者は、直ちに北の国境へ集合――

 ――北方の森から攻めてくるギガースの大軍に備えよ――



 なんなのよ! ギガースって言った? さらに新たな敵まで来るわけ?

 これ……きっとソンクラムにおける史上最大の危機だ。


 有翼人がギガースと同盟を組んでいる話は聞いていた。

 敵はナロック・ナーガと有翼人とギガース……。なんと厄介な。


 国境に集められるのは、剣士や弓使いなど非魔導士のみだ。

 魔導士は対象外。そのまま上空の敵に対応させるためだろう。



 いっしょにいたエイトスとともに北の国境へと急ぐ。

 その途中、偶然にもパーティー仲間のマスターとファーストを発見。

 二人も北へ向かっているところだった。


「マスタぁーーーー、ファーストぉーーー」


 彼らがこっちを向く。


「おお、お前たち」


 わたしたち四人が合流。他の仲間はどこにいるのだろう?

 きっと皆も北の国境へ向かっているはずだけど……。



 ギガースの大群が遠くに見えてきた。大きくて迫力がある。


 巨大な敵はとうとう国境近くまでやってきた。

 わたしたちも早く国境に到着しなければ。


 先に国境に到着した弓使いや剣士が、ギガースに攻撃を開始する。

 しかし巨大な敵は物理攻撃に対し、めっぽう強かった。平然としている。

 魔導士たちに支援を求めたいところだが、彼らは上空の敵への対応で精一杯。


 ギガースの圧倒的な強さにずるずると押されていく。

 ついには大群の一部が国境を越えてしまった。



 ぐおおおおおおおおおおおお

 ぐおおおおおおおおおおおお

 ぐおおおおおおおおおおおお



 ギガースが咆哮する。何度も何度もそれを繰り返した。

 まるで誰かを呼んでいるようにも聞こえる。


 呼応する鳴き声が、別の方から聞こえた。



 くおおおおおおおおおおお



 国境を越えたギガースは、鳴き声のする方へと向かった。

 あそこは軍の本部のあるところだ。


 ドゴーンっと建物の崩れたような音……。

 ギガースが本部の各棟を壊しているのか。


 わたしたち四人は走る方角を少し変え、本部の方へ行ってみることにした。

 やがて本部の建物群が見えてきた。ある棟の前で巨人が立ちはだかっている。



 あっ!



 あれはタンクだ! タンクが建物を守っている。

 タンク、頑張って。でも無理はしないで。


 しかし大勢のギガースに、ボコボコにされてしまった。

 ああ、タンクが……。巨体は地面に沈んでいくのだった。



「タンクぅーーーーーーーーーーーーーーー」



 ギガースの集団に、小柄なギガースが捕まった。

 あれはタンクの母だ。


 さっきの呼応する鳴き声は、彼女のものだったと思われる。


 しかし彼女は一人で歩けていなかった。

 長年寝たきりだったため、筋力が衰えているせいに違いない。

 他のギガースらに支えられながら歩行している。


 たぶん彼女が捕まったという表現は、正しくないのだろう。

 取り返されたといった方が良さそうだ。



 タンクの母を連れたギガースが、北方へと戻っていく。

 しかし敵の襲撃は終わったわけではなさそうだ。

 他のギガースが北の国境から次々と入ってくる。



 もうソンクラムは終わりなの?

 なんとかならないの?


 誰か……助けて……。


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