第87話 <教頭視点②>
校長室から出た。教頭室へと戻る。
椅子に腰をかけ、グッタリする。
あー、疲れた。
こんなにも校長に罵倒されるとは思わなかった。
ここまで校長に絞られるのは理不尽にしか思えない。
沸々と怒りが湧きあがってきた。
校長 憎らしい 校長 憎らしい 校長 憎らしい 校長 憎らしい
コツコツとノックがあった。
誰だ? 校長か?
「ど、どうぞ」
ドアを開けたのは部下のゲンコツ頭だった。
驚かせるんじゃない! 校長だと思っただろ。
職員でもないのに勝手に校内侵入しやがって。
「お頭、ご気分はいかがです?」
「いいわけないだろ。何しにきたんだ」
ゲンコツ頭は俺に報告があるのだという。
例の元生徒をスクールに戻す手が見つかったとか。
だが話を聞いてみると実にくだらないものだった。
最近のガキにハニトラなんて通用するわけがない。
このあとゲンコツ頭に、たっぷりと小言を並べてやった。
කුකු කුකු කුකු කුකු
あれから八日が経った……。
仕事とはいえ、スクールへ行くのが辛くなった。
校長の顔を見るのが恐ろしくなった。
「お頭、お頭」
顔をあげるとゲンコツ頭がいた。
また勝手にスクールに侵入してきやがって。
この教頭室に来るまでの間、誰にも見られてないだろうな?
「ゲンコツ頭、どうしたというのだ」
「最近、お頭の落ち込んだ姿が気になりまして……」
「お前には関係ない」
「ちゃんとわかってます。お頭を煩わせているのは、あの校長ですね」
「だから、お前には関係ない」
ゲンコツ頭の目つきがナイフのように鋭くなった。
「あの校長を…………殺りませんか」
「馬鹿なことを言うな」
「不可能だと思ってますか?」
「当然だ。校長は軍の大佐だ。超一流魔導の持ち主だぞ」
不敵に笑うゲンコツ頭。
その余裕たっぷりと言った顔はなんだ?
「ひひひひ。お頭、こっちも超一流暗殺者を用意すればいいだけのことです」
「な、何を言ってるのだ。仮に殺せたとしても……大騒ぎになる。『山羊の左目』による報復は必ずあるのだぞ」
「事後処理までキッチリしておけば大丈夫です、お頭。証拠は残しません」
しかしゲンコツ頭の言う超一流暗殺者のことが気になった。
ゲンコツ頭は必ず成功すると言い張っている。
つい最近までの俺ならば、そんな話は一蹴していただろう。
だが、このとき校長への怒りと憎しみで冷静さを欠いていた。
結果、頼りない部下の企みに乗っかったのだ。
翌日の晩、魔伝書を校長宛に飛ばした。
校長を休日のスクールに誘い込んだのだ。
休日ならば暗殺を誰にも見られずに済む。
කුකු කුකු කුකු කුකු
暗殺予定の当日――。
ノックもなく教頭室のドアが開いた。
現れたゲンコツ頭を叱りとばす。
「おい、ノックを忘れたな!」
「そんなことより、お頭。何も知らずに校長が来たようです」
「何が『そんなことより』だ。まあ、いい。では会議室に向かうぞ」
「先に行って準備しておきます。お頭はゆっくり歩いてきてください」
普通ならば魔伝書を送ったくらいで、素直に校長が休日のスクールに来ることはない。だから来ずにはいられなくなるような内容のものを送っておいた。
元生徒が話し合いのためスクールに来る、と嘘を伝えたのだ。
元生徒を説得するために校長の手を借りたいとも書いた。
これで校長が来ないはずはない。
俺は会議室の前に到着。
そのドアを開けようとした。
「おい、会議室はここか?」
奇妙な男に声をかけられた。
おや? 見覚えがあるような顔だ。ああ、思いだした。
軍における校長の部下のナントカ少尉……。名前は忘れた。
校長と同様、大組織『山羊の左目』の一員でもある。
いまコイツは五人の付き人を連れている。
それにしても少尉のくせに生意気な態度だ。
このナントカ少尉に問う。
「おい、どうして少尉がここにいる」
「俺様か? 大佐に頼まれたからだ」
つくづく生意気なヤツだ。
少尉と言えば俺よりも格下のくせに。
「ならば校長はどうした。どこにいる」
「大佐には急用ができた。だから代理で来てやったんだ」
「なんだと! 校長が来ない!?」
これは困ったぞ……。大誤算だ。
校長が来なければ暗殺できないじゃないか。
くそっ、くそっ、くそっ、くそっ。
悪運の強い校長め! 計画が台無しだ。
壁をコブシで叩いた。手が痛い。
ナントカ少尉と付き人五人が会議室に入っていく。
「おい、入室を許可した覚えはないぞ。勝手なことを……」
ヤツらを追うように、俺も中に入っていった。
ゲンコツ頭が少尉と付き人を見て、首をかしげている。
そりゃ驚くだろう。
俺はゲンコツ頭に説明してやった。
「校長は来ないそうだ。急用ができたらしい。代わりに来たのはコイツらだ」
「そ、そ、そ、そんなぁーーーー! あんまりです。馬鹿にしてくれますね」
ここで少尉が怒鳴り声をあげる。
「おい、例の元生徒はどうした。どこにいる!」
「いないと言ったらどうする?」
これはゲンコツ頭の挑発だ。
「元生徒にバックレられたか。これは教頭がだらしないからだろう」
「おい、なんだと? お頭を侮辱するヤツは俺が許さない」
少尉が薄ら笑みを浮かべる。
「校長である大佐の苦労は、教頭の無能さが原因だ」
「コイツめ、まだお頭を侮辱する気か!」
「幸いにもきょうはスクールが休日だなあ」
「休日だからってなんだと言うんだ!」
「もちろん存分に暴れられるってことだ。大佐のため、ここでお前らを殺そうと思う。元生徒が来ないのならば、他にいい報告ができなくなってしまうからな」
少尉の付き人がいっせいに戦闘の構えをとる。
ゲンコツ頭はニヤリと笑い、天井を向いた。
「我が友よ、出番だ」
少尉と五人の付き人が天井を見あげる。
だがゲンコツ頭の友というヤツはいない。
現れたのは机の陰からだった。
一瞬の出来事だった――。
その人物は手に剣を握っていた。
少尉と五人の付き人を斬っていく。
ヤツらは防御する隙さえ与えてもらえなかった。
俺はただ唖然としてしまった。
この現れた剣士は不機嫌そうだ。
「話が違うじゃねえか。『山羊の左目』の幹部が来るってことだったのに」
「我が友よ、ガッカリさせて悪かった。予定が狂ったんだ」
ゲンコツ頭とは仲が良さそうだ。
その人物について尋ねてみる。
「おい、ゲンコツ頭。彼はいったい何者なんだ?」
ゲンコツ頭が嬉しそうに答える。
「彼は居酒屋で知り合った飲み友なんです」
「ほう、こんな凄腕の剣士をよく見つけてきたものだ」
「そうですとも。このタハーンは『山羊の左目』に恨みがあって、その殲滅のためならば、命を捧げる覚悟ができてるそうなんです」
ほう。『山羊の左目』殲滅のためにねえ。
それはいい。大いにやってもらいたいものだ。
そのタハーンとかいう人物の口元が緩む。
しかし目だけは笑っていなかった。
「俺が殺したいと思うのは、『山羊の左目』だけじゃないんだぜ」
「へえ、じゃあ他にどんな連中を?」とゲンコツ頭。
「すべての誘拐組織が対象だ。もちろんお前たちも含まれる。飲み屋で情報を集めてみて正解だったぜ」
何ぃ――?
タハーンとかいう人物の剣がキラリと光る。
まずゲンコツ頭の首を切り落とし、続いて俺の心臓を貫いた。
කුකුකුකුකුකු 教頭視点終わり කුකුකුකුකුකු




