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第86話 <教頭視点①>


  කුකුකුකුකුකු  教頭視点  කුකුකුකුකුකු



 話はずっと遡る。ソンクラム軍が有翼人征伐に失敗した日――。




 ふう。ゲンコツあたまのヤツめ。俺をかしらに推薦しやがって。

 本当になってしまったではないか……。ああ、胃が痛い。


 校長が大笑いする。


「アー、ハッハッハッ。お前が賊の新しいかしらかぁ。お前らの小組織はそれほど人材不足だったわけだな」


 くぅーーーーっ、校長のヤツ!

 上司だからと言いたい放題だな。


 俺だってかしらなんてやりたくはなかったんだ。そもそもお前がすべて悪いんだろ。

 尊敬する俺たちのおかしらを、化け物(キメラ)なんかに変えやがって。



 かつて我々のゴロツキ組織は平和だった……。


 長い間、我々は何者にも怯えず暮らしてきた。

 人を恐喝して金品を奪い取ったり、人を誘拐して売りさばいたり。

 この地域を牛耳る賊として、自由気ままに我が物顔でいられた。

 あの『山羊の左目』がソンクラムに勢力を伸ばしてくるまでは。



 校長が咳払いする。


「ゴホン。お前が馬鹿話するから、話が脱線してしまったではないか」

「も、申し訳ありません。それで司令官殿からはどのようなお話を?」

「至上命令がくだされた……」


 全身脱力したように天井をあおぐ校長。


「……とにかく、あのエリートとして(、、、、、、、)扱われていた無能(、、、、、、、、)をこのスクールに戻せ。除籍は取消しだ。わかったか」


 エリートとして扱われていた無能? ええと、エリートで実は無能って……。

 ああ、そういえば特殊スキルを取得できなかった特待生がいたっけ。


「もしやラングという元生徒でしょうか」

「ああ、そんなイマイマしい名前だったな」

「先日除名しましたばかりですのに、どうしてまた……?」

「きょうの有翼人に対する戦闘で、大活躍したそうだ」

「大活躍ってまさか! あの落ちこぼれが?」



 校長によれば、その『まさか』が起きたらしい。



 軍は敗戦による撤退の際、敵の有翼人の猛追を受けた。

 しかしドラゴンに乗った彼が、それを撃退してしまったそうだ。


 英雄となった彼は、当スクールから除名された過去を持っている。

 軍の司令官はそれを知り、激しく憤慨しているとのことだ。


 立場が悪くなったのは校長だ。司令官から脅されてきたらしい。

 直ちに彼をスクールに復帰させなければ承知しない、とかなんとか。

 だが、いまさら言われても……。



「校長、あの元生徒は本当にそこまで優秀なのでしょうか」

「馬鹿なことを言うな。司令官は絶賛しているが、大きな勘違いに決まってる」

「ですよねえ」


「事実、ヤツはドラゴンに乗ったらしいが、それ以外のことは何もしてなかったとの報告も入ってる。敵への攻撃はなかったようなのだ」


「でもヘンですね。ならば敵が逃げていったのは何故でしょう?」


「なあに。ドラゴンの登場が突然だったから、敵が驚いただけだろう。ヤツに実力があったわけではない。それなのに司令官ときたら……。物事の表面だけしか見えてない。あんなのが上司だと思うと情けなくなる」



 あの生徒が司令官に気に入られるとはねえ。うまくやりやがって。

 そういえば、確かに学年主任からも、ちょっとおかしな報告はあった。

 彼が授業で一瞬のうちに、八体の土人形を倒したとか。


 生徒の実力としては、耳を疑うレベルだったかもしれない。

 しかしそのレベルの者ならば、ソンクラム軍の中にはゴマンといる。

 当スクールの教員にしたって、八体の土人形を倒せる者は珍しくない。

 だから学年主任の話を聞いても、たいして気には止めなかった。


 けれども彼が超一流であるはずはない。特殊スキルを得られなかったのだから。

 ただ……まあ、まったくの無能というワケではなかったのかもしれない。


 だとしても、司令官からの異常なまでに高い評価はなんだ?

 大英雄のように扱われていることには納得できない。



 校長が立ちあがる。


「いいか、教頭。ヤツを早々にスクールへ連れ戻せ! 失敗は許されない」

「任せてください。スクールに戻れると知ったら、跳びあがって喜ぶはずです」

「まあ、それもそうだな」

「明日にでもここへ連れて参りましょう」


 俺は自信満々といったふうに、ポンと自分の胸を叩いてみせた。


 なんたってウチは、国外でも名高い由緒ある冒険者スクールだ。

 卒業生は人々から尊敬と羨望の眼差しを受けることができるのだ。

 そりゃ当然、ここへ戻ってきたいのに決まっている。



 このときは、それがラクな仕事だと思っていた。



 明日、元生徒のラングは軍の本部に招かれるらしい。

 そのあとで彼を待ち伏せすればいい。いまのうちに応接室も予約しておこう。

 きっとヤツは頭をさげて感謝してくるはずだ。



 それなのに――。




   කුකු කුකු කුකු කුකු




 次の日。


 軍の施設内にある応接室で、悲鳴をあげてしまった。

 予想外の展開だったのだ。



 ひいいいいいいいいいいいいいいい



 まさか、当スクールへの復帰を元生徒に断られるとは。

 まさか、感激するほどありがたい話に乗ってこないとは。


 いったいどうなっているのだ?

 彼は応接室から逃げていってしまった。


 困ったぞ……。

 こんな馬鹿なことってあるのか。

 校長にはなんと報告したらいい?



 重い足取りでスクールへと向かっていく。

 スクールに戻ってきてもまだ信じられなかった。



 校長室のドアの前に立つ。無意識に溜息が出てきた。

 きのう校長には自信満々に『任せてください』と言ってしまった。

 それなのに大失態。これは絶対に怒られる……。

 ああああ、どうしよう。


 溜息とともに、額からは一筋の汗が垂れ落ちる。

 ドアをノックすると、威圧感のある声が返ってきた。


「入れ」


 校長室に入る。校長と目が合った。

 その鋭い眼光には、怯えることしかできなかった。

 ううううううう、もう帰りたい。


「校長、ただいま戻りました」


 首をかしげる校長。


「おや? 彼はどこだ? ラングという元生徒はどうした」


 校長は俺が無事に連れてくるものだと、確信していたのだ。

 正直に答えなくてはならないのか。ああ、報告しにくい。


「そ……それが……」


 校長の顔つきが変わった。


「もしや?」


「申し訳ございません。彼はスクールに復帰するつもりがないようです。断られてしまいました」


「この馬鹿タレがぁーーーーーー! お前はまったく使えないヤツだ。こんな簡単な仕事さえもやり遂げられないのかっ。それで賊のかしらだと? 笑えてくるぞ」


 激昂した校長が、机上の筆立てを投げつけてきた。

 もし避けようとすれば、簡単に避けられるだろう。


 しかし本当に避けたら、余計に機嫌を悪くさせる。

 だからそのまま顔に当てられるしかなかった。



 ガツン



 痛い……。



 どうして俺がこんな目に遭わなければならないのだ。

 サボっていたわけじゃない。元生徒を連れ戻そうと努力したのに。

 だいたいスクールからの除籍は、校長の指示だったではないか。


 俺のせいじゃない。悪いのは校長だ。

 でも一番悪いのはあのクソガキだ。

 ヤツめ、司令官に上手く気に入られやがって!


 だけどヤツはどうして戻ろうとしないだろう。

 ここは超名門の冒険者スクールだぞ?

 特殊スキルも取得できないようなヤツには、高嶺の花なのだぞ?


 ああ、それなのに!

 まったく信じられん。

 信じられんほどの愚か者だ。



 校長がバンっと机を叩く。

 怒りに満ちた顔だった。


「いいか。本日より我ら『山羊の左目』は、より多くの上納金を支配下組織(お前ら)に要求することにした。覚悟しておけ!」


 ひっ、酷すぎる……。


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