表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/100

第84話 一輪の白い花


 とんがり帽の魔導士は、さらに火球や破裂球を放った。

 しかし飛び去っていく有翼人に当たることはなかった。


「ふう。大人の有翼人は仕留められなかったか。逃げアシの速いヤツだ」


 とんがり帽の魔導士は手をだらりとおろし、振り向いた。

 英雄を気取ったようなスマイルを見せている。


「キミたち、危ないところだったね」

「「「…………」」」


 オレたちは返事ができなかった。


 とんがり帽の魔導士は何も悪いことをしていない。むしろオレたちを助けようとしてくれたのだ。彼を責めるつもりはまったくない。だけどなんだか……。


 とんがり帽の仲間が非難する。


「あーあー。先生に助けてもらったくせに、礼の一つも言えないのかよ。最近の冒険者ってこういうのが多いんだよなー」


 とんがり帽が彼を止める。


「よさないか。いま彼らはそれどころじゃないのだろう。有翼人の恐怖から解放されたばかりなので、きっと心はまだ正常じゃないんだ」


 そう言ったのち、こっちに向いた。


「ヤツは逃げていった。さあ、もう安心していい。では俺たちはこれで」


 とんがり帽と仲間が去っていく。

 たぶん彼はイイ人なのだろう。



 皆で子供の肉片を集めて土に埋めた。

 その上に一輪の白い花を添えた。


 ソードマスターが花に向かって両手を合わせている。

 オレはそんな彼女の背中に問いかけた。


「あのさ。巨人のアイツを故郷に帰さないか?」


 驚愕の顔で振り返るソードマスター。


「こんなときに冗談はやめて」

「オレは本気だ」


 彼女は首を左右させる。


「言ったはずよ。タンクにとっての故郷はソンクラムだって」

「故郷と言ったって……。暮らしてるんじゃなくて、飼育されてるだけだろ?」

「飼育じゃないわ!!」

「そっか。違うのか。ならば悪かった」


 彼女の口元に力が入る。そのあと小さく首を振った。


「ううん。あなたの言うとおり『飼育』が正しいわ。とても可哀想な子。本当は助けてあげたい……。あの子は頑張り屋さん。酷く扱われているにも拘わらず、軍のために尽くそうとしてるの」


「見ていてそんな感じがしてた」


「あの子、すべて母親のためだと言ってるの。だからあの子だけを故郷に連れていくなんて無理。必ず母親もいっしょじゃないと」


 アイツの母親について、彼女はこう説明している――。


 ・昔、軍は戦力となるような魔物の奴隷を望んだ。

 ・そのため捕獲した雌ギガースに、人間との子を身ごもらせた。

 ・しかし雌ギガースは心身が病み、廃人のようになっていった。

 ・現在はずっと寝たきりで、何も喋らなくなった。

 ・もちろん息子との会話もない。

 ・ただ一方的に息子が話しかけているだけ。



「でも実際、あの親子を連れ去るなんて、非現実的だわ……」

「簡単に諦めるなよ。あの巨人も含めて相談してみないか?」


 ここでマスターが口を挟んできた。


「おいおい。ソンクラム軍を敵に回すことになるぞ」


 そんな彼に軽蔑の意味で横目を送ってやった。


「大規模パーティーのリーダーのくせに、軍の一つが怖いのか」

「あたりまえだ!」

「ふん、意気地なしめ」


「これだからお子様は。俺はパーティーの責任者だ。メンバー全員の命を預かっている身だ。己のことだけを心配していればいいわけではない。メンバーに危険なことはさせられないし、無茶をしそうになったら止めなくてはならないんだ」


 まあ、言われてみれば確かにな。

 リーダーになれば皆そんなものだろう。

 だがオレは大人しくしているつもりはない。



「あの……」と弱々しい声。


 マスターは仲間の一人に振り向いた。

 まだ若い子だった。


「なんだ。フォーティーンス?」


「仲間を思ってくださるマスターにはとても感謝しています。ですが聞いてください。わたしが冒険者を目指すようになったのは、他国軍に協力するためではありません。己が正しいと信じる正義のためです。そのための死は覚悟しているつもりです」


「フォーティーンス。キミは……」


 マスターは彼女の肩に両手を乗せた。

 すると彼の仲間たちからの声。


「わ、わたしもですわ。ソンクラムなんて、わたしに無関係な他国。敵に回してもぜんぜん怖くありません」「マスター、わたしも」「わたしもです」「わたしも自分の正義が優先です」「わたしだって、ソンクラムには縁もゆかりもないですし」


 考え込むマスター。


「そうかい。皆……。でもセカンドは? ソンクラムで育ったんだよな」


「はい。ソンクラムの冒険者スクールで、何年間も学びました。ですが別にわたしの故郷ではありません。ソンクラムから永久に離れることはできます」


 マスターが「ふうっ」と深く息を吐く。上を向いた。建物は壊れており、屋根はない。見えているのは真っ青な空だけだった。


「そうだよな。皆、冒険者だもんな」


 ソードマスターが首肯し、笑顔を見せる。


「はい。わたしたちは冒険者です」

「わかった。キミに協力するとしよう」

「ありがとうございます、マスター」


 ソードマスターは皆の顔を眺めた。


「じゃあ決まりね。ここの皆でタンクたち親子を故郷に帰すの」





    ◇




 北西の森からソンクラムに戻ってきた。


 オレたちには『ギガースの親子を仲間のもとに帰す』という目標ができた。

 そのためには、まずハーフギガースと話をしなければならない。


 ソードマスターによれば、ギガースの親子は軍の施設にいるとのことだ。

 ちなみにその施設は、軍の本部や病院と同じ敷地内にあるらしい。

 軍の病院ならば行ったことがある。ルアンナの妹ムタの見舞いのときだ。


 へえ、あの近くにアイツがいたなんて思わなかった。


「でもこんなに大勢の冒険者が軍の施設に行ったら、何事かと思われてしまうわ」


 ソードマスターの意見に、多くの者が首肯した。

 そこでマスターが提案する。


「サーティーンスの言うとおりだ。いまの半数くらいで行くのがいいだろう」

「いいえ、マスター。わたしとラングの二人だけで行ってきます」


 えーーーーーーーーーーーっ。


 ソードマスターに指名されてしまった。

 別にイヤとかじゃないけど、なんでオレと?



「やいやい! まさか二人だけで行って、背後から師匠を襲うつもりじゃ……」

「しないわよっ」


 目をすがめるチャオプ。


「だったら師匠と二人で行って何をするつもりだ」

「何度も言ってるでしょ。タンクと話すだけよ」

「で、でも二人きりというのは……。その……」


 オレはチャオプの頭に手を置いた。

 何故かチャオプが赤面する。


「大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」

「あの女には……気をつけてほしい」


「なあに。一度オレを裏切っているとは言え、さすがに斬りかかってはこないだろう。それに二人きりといっても、当然、シェムを連れていくつもりだ。だから危険はまったくない」


「そ、そうじゃなくて……」


 オレは足元のシェムを抱えあげた。

 腕の中でシェムがミャーと鳴く。


 ムアンが手を伸ばしてきた。

 シェムの小さな頭を撫でる。


「だけどシェム(この子)を連れていくとなると……。危険なのはサーティーンスって子の命よね。ちょっと心配だわ」


「「えっ」」オレとソードマスターの声がハモった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ