第82話 冒険者の集う森
教頭が頻繁に宿を訪れてくるようになった。
だから別の宿に移ることにした。
ところで軍の有翼人への再攻撃日が決まった。
きょうから十日後とのことだ。
「師匠、例の廃墟になった村に行ってみないか」
「どうしてだよ。行って何をするつもりだ」
「もしまだあの子が毎日来てるようだったら、危ないって教えてやらなくちゃ」
そう。あの有翼人の子供は、毎日来ていると言っていた。
父の墓参りのためだとか。しかし……。
「おいおい。敵側に襲撃日を漏らすつもりか。これは秘密事項だぞ」
「違う。別に漏らすとかじゃ。ただ……」
そんな顔しないでくれよ、チャオプ。
気持ちはわかるけどさあ。
「わたしもチャオプに賛成よ」
ムアンが言った。イリガも無言で首肯を繰り返している。
「でもなあ」
「別に襲撃日の情報を漏らすわけじゃないの。いつ戦いが起きても不思議じゃないから、当分の間は村に来ちゃダメよ、って言うだけだから」とムアン。
三人がオレをじっと見据えている。
「わかったよ」
「「やったー」」彼女たちは歓声をあげながらハイタッチ。
さっそく北西の森へと向かっていった。
◇
偶然だった――。
他の冒険者パーティーに、ばったり出くわしたのだ。
まさかこの森に冒険者パーティーが来ているとは。
眼前に突っ立っているのは六人。そのうちの一人の顔は知っている。有名な『超美しい女剣士』だ。もちろん『美しすぎる女剣士』のソードマスターのことではなく、交流戦でイリガと対決した方の女剣士だ。
超美しい女剣士が前に出てきた。
「あらまあ、こんなところで! 奇遇ねぇ~」
いきなりイリガの胸に飛び込んできた。
イリガに抱きつきながら上目遣い。瞳がキラキラと輝いていた。
それはまるで、大好きな飼い主に向ける子犬の眼差しだった。
「は、離れてくれないかしら」
「イヤよ。離れたくない。だって憧れの人だもん」
「迷惑だから」
「またわたしと剣で勝負してくれるのだったら放すけど?」
超美しい女剣士の仲間が、彼女の後ろに立つ。
「これこれ。嫌がってるのだから、放してやりなさい」
「しょうがないな~」
口を尖らせている。
ようやくイリガを解放するのだった。
しかし今度はオレを見据えているではないか。
な、なんなんだ?
オレを指差しながら、視線をイリガに戻す。
「へえー。英雄さんになったドラゴン使いじゃない。同じパーティーだったのね」
イリガは返答せず無視している。
けれどオレはドラゴン使いじゃないからな。
どちらかと言えば、チャオプがそれに近い。いいや、そのものか。
超美しい女剣士の連れが言う。
「それにしても英雄さんまで、この森を下見に来ているとはねえ」
「森を下見って。それ、なんのことですか」
「お・と・ぼ・け」
「はあ? とぼけてませんが……」
話を聞いてみると、こういうことだった。
今度の再襲撃では、『自分たちのアピール』のため、あるいは『特別報酬』のために、大いに活躍しなければならない。だから戦場となる森について熟知しておく必要がある…………と、そんなふうに考えているパーティーが多いらしい。実際、この森には彼らの他にも、たくさんのパーティーが来ているそうだ。
「もし英雄さんたちが下見じゃないのなら、どうしてこの森に入ったんだい?」
「そ、それは……」
当然ながら例の廃村の話はできない。
だから嘘を吐くしかなかった。
「……本当は下見です。ハハハ。バレちゃいましたか。おっしゃるとおりです」
「なーんだ。やっぱり英雄さんたちも下見だったのか」
「そうなんです」
「いやあ、立派だね。前回じゅうぶん大活躍したのに、さらなる活躍のために努力しているわけか。恐れ入ったよ。見かけによらず貪欲なんだねえ。見習わないと」
彼らと別れて、ふたたび歩きだした。
この森には、他にも多くのパーティーが下見に来ているとのことだった。
もしあの有翼人が廃村に来ていたら、非常にマズい。
オレたちは無意識のうちに、急ぎ足となっていた。
◇
くだんの廃村に到着。辺り一帯は静まり返っていた。
あの親子の姿は見当たらない。来ていないのか。ならばそれでいいのだが。
抱えていたシェムがするりと腕の中から抜けだした。
四肢で走っていく彼女を皆で追いかける。
彼女が止まった。こっちを向いて「ミャー」と鳴く。
オレはふたたび彼女を抱えあげた。ここに何かあるのか?
カタッ
小さな音が聞こえた。何かがいるようだ。
もしかしてあの親子か?
シェムが見据えているのは半壊した建物だ。
石壁の多くは残っているが、屋根はなくなっている。
この中にいる?
警戒しながら足を踏み入れる。
見つけた。あのときの子供だ。母親らしき有翼人もいる。
またここに来ていたのか。
母親らしき有翼人は子供を抱え、体を震わせている。
「この前の有翼人だよな? 心配するな。オレたちは何もしない」
「じゃあ、なんの用だよ」
相変わらず生意気な態度をとる子供だ。
「いいか。しばらくの間、ここに来ちゃダメだ」
「ここにはお父さんのお墓があるって話しただろ」
「戦闘があったばかりじゃないか。しばらく墓参りは我慢しろ。さもなくば、お前が墓の中で永眠することになるんだぞ」
母親らしき有翼人が、恐る恐る顔をあげる。
「事情はわかりませんが、ここが危険というのならば、当分の間はそうさせていただきます」
チャオプとムアンとイリガに安堵の表情が見られた。
とりあえずここに来た目的は果たした。では帰ろうか。
ところが――――。
「これどういうこと?」
オレたちのあとから、この半壊した建物に入ってきた者がいたのだ。
よく知っている顔だった。
なんとソードマスターではないか。
「ねえ、ラング。そこにいるのは人間じゃないわよね。魔物でしょ?」
見つかってしまった。




