表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/100

第80話 森の中の奇妙な集落


 刺されたムアンがうずくまる。

 オレは刺したガキを取り押さえた。


「コイツ、ムアンに何をしやがる!」


 力ずくで刃物を奪い取る。


 おや? これは翼……。

 このガキは有翼人か。


 ムアンを刺しやがって!!!!

 ちょっと気は引けるが、子供だろうと敵だ。

 生かしておけるものか。



 先ほど奪った刃物を振りあげる。


「待って」ムアンの声。


 うずくまっていた彼女が立ちあがる。


「わたしならば平気よ。ほら、もう治っちゃったわ」


 治ったって……。


 そういえば以前にも同じことがあった。スケルトン兵の矢に胸部を射貫かれたときだ。あのときもすぐに完治してしまった。いったいムアンは何者なんだよ?


「だけどムアン、コイツは魔物だ。敵だぞ」

「まだ子供じゃない。可哀想よ」

「師匠……わたしからも頼む。わたしに免じて許してやってくれないか」


 お前もかよ、チャオプ。

 てか、免じてって……。お前は何様のつもりだ。

 でもまあ、大切な仲間だけど。


「…………」


 イリガがじっとオレを見つめている。

 口を開かなくとも、言いたいことはわかった。


 オレは有翼人の子供から手を放した。

 ホッとした表情の仲間たち。



 サササササ



 何かが走ってきた。有翼人の子供を抱き締める。

 そいつの背中にも翼があった。母親か?

 だが戦意はなさそうだ。


 その有翼人に訊いてみる。


「とりあえずお前たちを見逃してやるが、どうして人間の集落を破壊したんだ?」


 母親らしき有翼人の腕の中で、子供が生意気そうに答える。


「ここは人間の集落じゃない。人間に滅ぼされた僕たちの村だ」


 有翼人の村だと? 人間に滅ぼされた? 何を言っているのだ。

 ムアンが腰を落とし、子供と同じ目の高さになる。


「ここは本当にあなたたちの村だったの?」

「あたりまえだ。人間がこの森に村や集落を作るわけがない」


 軍の話によれば、この辺の町や村は有翼人に襲撃されたことになっている。

 しかしこの子供はそれを否定している。


 ふたたびムアンが子供に尋ねる。


「ここはいつ人間に滅ぼされたの?」

「一年近く前だ」

「では滅ぼされたのに、いまどうしてここにいるのかな」

「この村にはお父さんのお墓がある。だから毎日来てる」


 魔物にも墓参りの習慣があったとは……。

 まるで人間みたいではないか。


 オレも、あと二つばかり確認してみたいことがあった。


「なんで有翼人は巨人を恐れる? あれは大きいだけの魔物じゃないのか」

「僕たちがギガースを恐れたりするもんか」

「さっきの戦闘で、有翼人は巨人を避けていたぞ」

「知るもんか」


 もしや子供ながらに、自分たちの弱点を隠そうとしているのか。

 その子供をじっと睨みつけると、母親らしき有翼人が口を開いた。


「わたしたち有翼人とギガースは同盟関係にあります。決して攻撃はしません」

「同盟関係だと? 魔物同士でもそんなものがあるのか」


「当然です。わたしたち有翼人から見れば、人間もギガースも魔物です。同等の知性を持つ魔物であると認識しています。だからたとえ異種同士であっても、防衛のため同盟を結ぶくらいのことは考えます」


 その認識ってなんだ。有翼人にとっては人間も魔物だと?

 人間は人間、魔物は魔物――ではないのか。

 有翼人って、おかしなことを考えるものだ。


「もう一つ訊きたい。有翼人は何故ドラゴンを見て逃げていく? ドラゴンとも同盟関係にあるのか」


「とんでもありません。ドラゴン――とりわけ白いドラゴンはわたしたちの神だという、古くからの言い伝えがあります」


 有翼人が攻撃をやめたのはそういうことか。

 チャオプが神とされたというのは笑えるが。


 母親らしき有翼人がずっと震えている。

 見ていて可哀想に思えてくるほどだった。

 もちろんコイツを殺すつもりはない。

 さっき見逃すと言ってやったばかりだし。


 そろそろ話を切りあげて、廃墟の村から出ていこう。

 最後に親子らしき有翼人に言葉を残す。


「夜までじっと隠れていた方がいい。たくさんの人間の兵士が付近を通るかもしれないからだ。せいぜい見つかるなよ」





    ◇





 翌日、オレとチャオプはソンクラム軍の本部に招かれた。

 オレは緊張しているが、チャオプの表情もコチコチだ。

 ここは厳かな空気に包まれている。正面にいるのは司令官。


「我が軍は有翼人の追撃に苦しんでいたが、キミたちはたった二人でヤツらを撃退してくれた。我々の死傷者数は最小限で済んだといえよう。キミたち二人の大いなる功績を称えたい」


 司令官の部下たちによる大拍手に包まれた。

 部下とは言っても、たぶん上位の役職者だと思われる。

 この張り詰めた感じはとても苦手だ。


 そもそもオレはここにいるべきではないと思っている。

 あのときは、ただチャオプに乗っていただけなのだ。

 彼女だって似たことを思っているに違いない。


 また進軍時、指示された位置にいなかったことについては、お咎めなしだった。

 それどころか特別報酬をもらった。当然、すべてパーティー共有の財布に入る。





    ◇





「ラング君っ」


 本部の建物を出たところで、オレは呼び止められた。

 聞き覚えのある声だが……。誰だろう?


 足を止め、振り返ってみる。

 そこには冒険者スクールの教頭が立っていた。



 なんの用だ?



 オレは冒険者スクールを追い払われるように除籍とされた。

 だからこの教頭とは、もう無関係のはずだ。


 ここで教頭を無視したかった。

 でも、さすがにそれはできなかった。

 仕方なく彼に会釈する。


「なんですか?」

「キミにいい話があってね。ちょっと来てくれないか」

「すみません、教頭先生。生憎急いでいまして」

「悪いけど、これは非常に大事な話なんだ」


 このまま引きさがってくれそうな感じはない。

 まあ、しょうがないか。


 教頭についていくことになった。チャオプも来てくれた。

 同じ敷地内の別の建物へと入っていく。連れられてきたところは応接室だ。


「どんなご用事でしょうか、教頭先生」

「キミの大活躍の話は聞いているよ」


 オレは質問を繰り返す。


「はあ、それでどんなご用事でしょうか」

「ゴホン。先日の除籍に関する話だが、さぞかし驚いたことだろう」

「そうですね。ビックリしたのは確かですけど」


 教頭が重苦しそうな顔で二度首肯する。

 で、用事ってなんだよ! オレは帰りたいんだ。


「スクールを除籍になったことで、いまキミは苦しんでいるに違いない」

「いえいえ、楽しくやっています」

「いいんだ。わかってる、わかってる。キミの苦労はよく理解しているつもりだ」

「……」


 このオッサン、何か勘違いしていないか?


「キミに除籍を言い渡したのち、我々はもう一度よく考えてみた。規則だったとは言え、あれでは生徒があまりにも可哀想ではないかとね。それでわざわざラング君のために規則を変え、除籍を取り消すことにしてやったんだ」


 いまさら言われてもなあ。スクールに未練なんて皆無だし。


「いいえ、結構です。お気遣いには感謝します」

「な、何を言ってるのかね。うちのスクールにまた通えるんだぞ?」

「ですから、そういうのはもう必要ありません」

「まさか本気で言っているのか?」


 そんな驚愕されたって……。


「本気です。ということですので、帰らせてもらいますね」

「待った、待った。多くの人々が憧れるソンクラムの冒険者スクールだぞ。通えることがどれほど幸運なのか、キミには説明など要らないはずだ」

「その幸運は他の人々に与えてやってください」


 教頭の額から汗が垂れ落ちた。


「お、落ち着いてくれたまえ」

「落ち着いてますけど」

「その……頼むから、スクールに戻ってきてくれないか」

「忙しいので無理です」

「そ、そんなことは言わずに」

「頼まれても困ります」

「お願いだ。ぜひとも帰ってきてほしい」


 最初の態度とずいぶん変わってないか?

 オレは立ちあがって頭をさげた。


「本当に無理です。すみません。さあ、チャオプ、帰るぞ」

「ちょっとちょっとちょっと。考え直してくれないと困るんだ」

「と言われましても、これはじっくり考えた結果なんです」


 応接室の出入り口に向かって歩く。


「待ってくれ、お願いだ。スクールに在籍してくれるだけでいいんだ」

「いやでーす」

「ラング君が戻ってきてくれなければ、校長からまた何を言われるか……」

「こっちには関係ありませーん」

「ああ、ラング君!」


 チャオプの手を掴む。


「逃げるぞ!」

「おう、師匠」


 二人で建物を飛びだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ