第75話 冒険者たちの交流戦 3/4
準々決勝の第四試合は、タハーンとファーストの対戦だった。
結果、タハーンが圧勝した。あまりにも実力が違った。
そして準決勝の対戦相手が決まった。
イリガは『超美しい女剣士』と戦うこととなった。
ソードマスターに勝利した相手だ。
ちなみにタハーンの相手は、兜の下で覆面を被っている。
名前は長すぎて、オレには覚えられない。
オレたちはイリガとともに、控え室から闘技台まで歩いてきた。
闘技台をあがっていくイリガに、ムアンが声をかける。
「ねえ、手は握らなくて大丈夫?」
「今回の相手は初対面。やりにくいわけではない」
ムアンは悪戯そうな横目をオレに送ってきた。
「だってさ。ラングは残念ね」
「なんでオレが残念なんだよ」
「右手が寂しいでしょ?」
「馬鹿言え。寂しいわけがあるか」
ムアンが小声になる。
「代わりにお姉さんが手を握っててあげよっか」
「オレはシェムの肉球をイジってるから間に合ってる」
「なーんだ、つまらない」
闘技台の上では、『超美しい女剣士』が見物人たちに手を振っている。
「やっほー。準決勝まで来ちゃった! 皆ぁー、応援してね~☆」
しかし見物人たちからの反応は薄かった。
まあ、当然だろう。
このトーナメントは、あくまでも冒険者たちの交流戦。
決してビジネスを目的としたものではない。
だから試合の見物人は、冒険者や軍の関係者に限られている。
彼女のファンだろうがなんだろうが、一般人は場内に立ち入りできない。
ここにはミーハーな観衆などほとんどいないのだ。
それでも彼女はタフだった。平然としている。
気まずそうなようすも、しょんぼりしたようすも見せなかった。
闘技台の上で互いが向き合った。
「左腕、ちゃんとあるのね。びっくりしちゃった」
「わたしを知ってるの?」
怪訝そうな顔のイリガ。
「知ってるわ。以前、試合を見たことがあったから。片腕のあなたが『美しすぎる女剣士』に勝利したときよ。わたしは感動したわ。あなたは強くて美しかった。わたしがプロ闘技者として、闘技場に立つようになったのは、あなたに憧れたからなの。そんなあなたと真剣勝負ができて幸せよ。できれば勝ちたいわ」
「真剣勝負……。いいわ。始めから全力で行く」
「きゃっ、嬉しい! わたしも最初からMAXで行くからね~」
そして試合が開始された――。
「これをやると一気にスタミナを消耗するけど、やるしかない。倍速剣・六倍!」
超美しい女剣士が猛ダッシュで迫る。風のように速かった。
寝かせて構えた剣を一振りし、イリガの脇を走り抜ける。
早くも勝負がついた。
超美しい女剣士の剣は、イリガが身を躱して空振り。
逆にイリガの剣が相手の背中を打ったのだ。
審判団がイリガの勝利を告げる。
「ふう。倍速剣の六倍……しんどーぃ。いまこうして立っているのもやっと。だけど負けちゃった。負けた、負けた、負けた。あー悔しいな」
超美しい女剣士の背中にイリガが言う。
「でもあなたの剣、とても速かった」
「ありがとう。じゃーまた闘技場で勝負してね」
「それはイヤ」
「けちぃーー」
イリガが闘技台からおりてくる。
オレたちはイリガの勝利を喜んだ。
「あっと言う間だったじゃん。今回、楽勝ってところか」
首を横に振るイリガ。
「まさか。ほんの一瞬の差。ギリギリだったわ」
「そうなのか。素人のオレにはわからないが、とにかく勝てて良かった」
◇
第二試合でタハーンが登場。
相手は何やら怪しい人物だ。どうして覆面なんてしているのだろう?
平らな胸部を見る限りでは男だ。でもチャオプの例もあるからなあ……。
試合が始まった。
タハーンの猛攻撃。やはり強かった。強すぎる。このままタハーンが勝てば、イリガはこの厄介な相手と、決勝で戦わなければならない。
しかし相手はタハーンをじわじわと押し返してきた。
「どうしたんだろう。タハーンはスタミナ切れか」
オレのつぶやきに対し、イリガがこう説明する。
「いいえ、タハーンの体のキレは衰えていない。相手がタハーンの攻撃を予測し始めたみたい。タハーンの動きはほぼ完全に読まれている」
タハーンは試合開始時とは異なり、いまは防戦一方だ。
そして相手の両手剣がタハーンの腕を打つ。
勝負あった。審判団が相手の勝利を告げる。
タハーンは天を仰ぎながら、両膝を闘技台についた。
ふうっと息を吐く。とても残念そうだ。
イリガに訊いてみる。
「決勝は勝てそうか?」
「やってみないことにはわからない」
オレたちは控え室に戻ることにした。
その途中でイリガの足が止まる。
「どうしたんだ、イリガ?」
返事がない。小さな溜息を吐いている。
まさか次の対戦が怖いのか?
いやいや、そんなことはあるまい。
もう一度、声をかけてみる。
「イリガ?」
次の瞬間、オレはワケがわからなくなった。
いきなりイリガがオレの胸に飛び込んできたのだ。
えええええええええええええええええええっ!
オレの胸に顔をうずめるイリガ。
やはり次の試合に恐怖を抱いているのか?
それにしても、イリガから漂う甘い香り……。
彼女はこれまでの試合で、だいぶ汗を掻いているはずなのに。
オレの心臓がバクバク言っている。
オレはどうしたらいいのやら。
両腕で優しく包み込めばいいのか?
だけどそれってマズいよな……。
ヘンな勘違いが生まれてしまうかもしれないし。




