第73話 冒険者たちの交流戦 1/4
数日後――。
「落ち込むことはないわ、ラング。お遊びみたいなものでしょ?」とムアン。
「そうだぞ、師匠。たかが交流戦。真剣勝負じゃないんだ」とチャオプ。
「…………………………」とイリガ。
そして膝の上からはシェム。
「ミャーオ」
きょう軍に協力する冒険者たちの交流戦があった。
ムアンの言ったとおり『お遊び』のようなものだ。
オレが出場したのは、若手魔導士による『火球魔導』対決だった。
簡単に言えば、火球を遠くから的に当てるという競技だ。
ウチのパーティーの代表として参加したのはオレだった。
お遊びとは言え、割と本気で挑んだ。それなのに……。
ムアンがふたたび口を開く。
「参加者七十六人中、六十一位って聞いたわ。大健闘だと思うけど」
「いいや。火球が的に届かなかったのが、オレも含めて十六人。つまり正確には六十一位タイってこと。ビリなんだよ。ああ、得意な水流魔導対決だったら良かったんだけど」
「いや、師匠。水流だろうが、どうせあまり変わら……ゲホッ、ゲホッ、なんでもない。と、ところで明日は『剣』の交流戦だったっけ。師匠、再チャレンジしてみてはどうだ」
チャオプが言ったように、明日も交流戦がある。
軍の用意した両手剣と防具を使用してのトーナメント試合だ。
ただし出場は二十五歳以下の若手に限られる。
「魔導士のオレが剣の交流戦なんかに出るかよ」
「わたしが出てみようと思う……」
そう言ったのはイリガだ。
恐る恐るチャオプが尋ねる。
「だけど、その……両手剣限定だぞ。いいのか?」
イリガはまるで目配せするように、オレを一瞥した。
「たぶん、やれる」
彼女は立ちあがり、『千手剣』と唱えた。
剣を持った『手』が室内いっぱいに現れる。
もちろんすべてイリガの手だ。
それらの手は、握っている剣を放していった。
剣はそれぞれ手から離れた途端、消えてしまった。
続いて、室内に浮遊する手も次々と消えていく。
そして一本だけが残った。
イリガはその手を右手で掴み、左の肩口に持っていった。
あたかも自分の左手のように動かして見せる。
「まあ、完璧にあなたの手ね」とムアン。
「そっか。それ、いいかもしれないな」とチャオプ。
「チャオプに頼みがある。また剣の稽古につきあってほしい」
半龍半人の白いチャオプが現れた。彼女が首肯する。
「ええ、喜んで」
二人は部屋を出ていった。
◇
翌日、国立闘技場で交流戦が行なわれた。
武器は軍が用意した両手剣だ。剣といっても刃引きされた模造剣のため、比較的安全なものらしい。兜と鎧も、軍のものを使用しなくてはならない。
前日の火球魔導のときとは違い、今回は大勢の若者が参加することになった。その数、百九十二人とのことだ。オレたちのパーティーからはイリガが出場する。
トーナメントではイリガの快進撃が続いた。
そしてベストエイトが出そろった。
なんと、勝ち残った八人中、六人が知っている顔だった。
イリガの他にはソードマスターがいた。タハーンもいた。
タハーンについては少々驚いた。二十五歳以下だったとは。
それにヤツらの一部も残っているではないか――。
マスターとかいう男と、その仲間の一人だ。
彼女は確か……ファーストと呼ばれていたと思う。
もう一人、知っている顔がある。しかし直接面識があるわけではない。
オレが一方的に知っているだけだ。いわゆる有名人。
最近、その顔を街でよく見かけるようになった。
『超美しい女剣士』
そんなタイトルのポスターに描かれた少女だ。
逆にソードマスターのポスターは、街でほとんど見かけなくなった。
ベストエイトの対決は、その有名な彼女の試合から始まる。
彼女の相手はなんとソードマスターだった。
偶然にも『超美しい女剣士』と『美しすぎる女剣士』の激突だ。
ちなみに『超美しい』も『美しすぎる』も言い過ぎだ。
どちらのポスターも、実物より三割増しに美しく描かれている。
両者が闘技台にのぼる。
少し美しい女剣士たちの対決だ。
試合が始まった――。
互いに一歩も動かず、ようすを見ている。
先に動いたのはソードマスターだった。
走りながら両手剣を振り抜く。
相手は巧く身をかわし、カウンターを狙った。
しかしソードマスターが相手の剣を打ち払う。
剣について素人のオレには、どちらが優勢なのか見当もつかない。
膝の上で丸くなっているシェムに尋ねてみた。
「どっちが勝つと思う?」
「ミャーオ」
「そうか、なるほど」
鳴き声でわかった。
シェムは試合に興味ないらしい。
相手が叫ぶ。
「倍速剣・二倍!」
急に動きが俊敏になった。彼女の特殊スキルなのか。
ソードマスターが押されているのは、素人目にも明らかだった。
「風月斬っ」
叫んだのはソードマスターだ。
彼女の剣を相手の剣が受ける。
相手は勢いに押されて、後方へコロリと転がった。
それでもすぐに立ちあがるのだった。
「倍速剣・三倍」
相手の素早さがさらに増した。たちまちソードマスターを圧倒する。
しかしソードマスターは、次の特殊スキルを繰りだした。
起死回生の一撃となるか?
「雷光斬!!!」
両手剣は閃光を放った。
ソードマスターの動きが加速する。
間合いを詰めて両手剣を振り抜いた。
勝負あったか!
ところが彼女の両手剣は空振り。
相手の両手剣が彼女の兜をポンと打つ。
「勝負あり」と審判団。
試合は終わった。ソードマスターの負けだ。
オレはふうっと息を吐いた。
「ガッカリしてるようね、ラング」とムアン。
えっ、嘘だろ。オレがガッカリして?
いいや、思い返してみればそうかもしれない。ムアンは正しい。
この試合、いつからオレはソードマスターを応援していたのだろう。




