第7話 少女ちんちくりん
オレは龍騎士<但し乗龍経験ナシ>の少女に勝利した。
なんであれ、勝利するのは気持ちがいい。
だがオオトカゲに噛みつかれた彼女の救出には、だいぶ苦労した。
精肉市場の大勢の手を借りることにもなったのだ。
そのあとで精肉市場の皆さんに叱られてしまった。トカゲで遊ぶなと。
何故かオレまでいっしょに叱られた。理不尽に思えて仕方がない。やれやれだ。
でもコイツ、龍騎士のスキルを本当にゲットしてるんだろうか。
オオトカゲ一匹すら制御できなかったのに。
「一応、聞くけどさあ。龍騎士に関する特殊スキルを、本当に取得したのか」
「もちろんだとも。ちゃんと名高い神官から聞いたんだ」
その神官、怪しくないか。
本当に名高いのか。
「ちなみに龍騎士のスキルってどんなやつだ?」
「三つある。『乗龍』と『操龍』と『継龍』だ」
乗龍と操龍についてはだいたい意味がわかる。
龍に乗るとか、龍を操るとか、そんな感じのものだろう。
でも……。
「三つめの継龍ってなんだ?」
「わたしにも、さっぱりわからない」
「自分でわからないのかよ」
「だって名高い神官から言われたんだ。わかんないものはわかんない!」
このあと、彼女の買ったオオトカゲは、原価割れで売却することになった。
しょんぼりした顔はさすがに気の毒に思えた。
二人で精肉市場を出ていく。
市場の外に足を踏みだしたところで、彼女が頭をあげる。
「お前はわたしに勝利した」
「まあな」
「見込んだとおりの男だった」
「そうか」
「わたしを弟子にしろ」
どうしてそんな流れになる?
てか、そんな偉そうに頼むヤツがあるか。
「弟子になんかするもんか。だいたいだなあ、もっと謙虚に言えねえのかよ」
すると少女は土下座を始めた。
「どうか弟子にしてください」
「お断りだ」
「さっき謙虚に言えば弟子にするって言っただろ。ほら、土下座もしてるし」
「一般的な常識を言ったまでだ」
「ひどい、ひどい、ひどい! ひどい男に騙されたー」
道を歩く人々からジロジロと見られている。
誤解を招くような言い方はやめてもらいたいものだ。
悔しがる彼女の横に、しゃがみ込んだ。
「あのさあ、なんでオレに粘着してるんだ?」
彼女は頬をプーッと膨らましながら答えてくれた――。
オレについての話は、例の悪党から解放された人々に聞いたそうだ。皆、オレのことを『英雄様』だとか褒めちぎっていたらしい。彼女は堪らずオレを一目見たくなったのだとか。オレを探しだす手掛かりならばあった。解放された人々が『英雄様はユニコーンの角を持っていらっしゃる』などと、余計なことを言いふらしていたためだ。
そして彼女は道具屋に入っていくオレを発見。片手にユニコーンの角を持っていたので、彼らの言う『英雄様』だと推測する。しかし首をかしげた。あまり強そうに見えなかったからだ。しばらく観察し続けてみても、謎は謎のままだった。だからオレが食堂に入ったところで、勝負を持ちかけ、実力を確認することになったのだ。
「ストーカーかよ」
「その言い方、人聞きが悪いぞ」
人聞きが悪くて当然だ。
てか、お前が言うか?
「とにかくオレは、お前が思っているような冒険者の実力なんてない。さっきだってオレが勝ったというより、お前の自爆だろ。他を当たれ」
少女は首をブルブルと振った。
「いいや、お前は尊敬すべき英雄様だ。わたしはあの人たちの話を信じることにした。お前の名前も聞いたぞ。ラーング様って言うんだよな」
「どうでもいいことだけど、正確にはラングだ」
「そうか。ラーング様じゃなくてラングか。覚えたぞ」
「様はつけたままで構わないけどな」
少女の表情に気合いが入る。
「きょうからわたしはラングの弟子だ!」
「おいおい、話をもう忘れたのか。弟子になんかしてやるか。オレはガキの子守が嫌いなんだ」
「ガキじゃない。わたしは十四歳だ。たぶんラングとあまり違わないはずだぞ」
年齢があまり違わないだと?
「しらじらしい。このちんちくりんが! 証拠はあるのか」
彼女は紙切れを見せてきた。
なんだろうと思って、とりあげてみる。
ふむ、なるほど。
誕生年日の記載がある。
これを年齢証明にするつもりか。
オレは紙切れをビリビリと破いてやった。
「こんなラクガキ信じられっか」
ひいいいいいいいいいいいっと悲鳴をあげる少女。
「大事な冒険者ギルド登録証明書が……。これ再発行がたいへんなんだぞ」
冒険者ギルド登録証明書?
破いた紙切れを集めてみる。
そういえば見覚えがある。
冒険者スクールの教室に、これのサンプルが張ってあったっけ。
もう一度、紙切れをじっと見据えてみる。
うん、間違いない。本物の冒険者ギルド登録証明書だ。
ちなみにオレは冒険者ギルド登録証明書を持っていない。だが冒険において不都合なことは何もない。なぜなら冒険者スクールの学生証が、その役割をじゅうぶんに果たしてくれるからだ。うちの冒険者スクールは国外でも有名であり、広く信用されているのだ。
「十四歳って本当だったんだな。いやあ、悪いことした。謝るよ」
それにしても、十四歳でソロ冒険者をやってるとはたいしたものだ。
うちのスクールの場合、生徒は十五になるまで冒険者を名乗れない。
単独行動なんてもってのほかだ。自由に冒険できるなんて羨ましい。
少女が目をつりあげている。
「おい、ラング。どうしてくれる。責任をとれ」
「責任だと? 嫁にしろって意味か」
「ひいっ、嫁!?」
顔がタコのように真っ赤になる少女。
「大丈夫か。顔赤いぞ」
「わっ! くっくっくっ屈辱……。覚えとけよー」
両手で顔を隠して逃げていってしまった。
ふう、やっと解放されたか。
でも彼女にすまないことをしてしまったな。