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第69話 待ち合わせ


 待ち合わせの食堂に入る。


 チャオプとイリガの姿を発見。オレたちより先に到着していたとは。

 彼女たちのいるテーブルに着く。まだムアンだけが来ていなかった。

 ショッピングが長引いているのか。



 別のテーブルに冒険者ふうの団体がいる。皆、鎧と兜の重装備だ。

 彼らもこのあと中央神殿に向かうのかもしれない。


 さらにまた別の団体が店に入ってきた。やはり冒険者ふうの恰好だ。

 若い男が二人と若い女が五人の団体だった。


 その団体を目にしたイリガが立ちあがる。


「どうした、イリガ?」


 彼女は無言で歩きだした。

 トイレの方へと向かっている。

 なーんだ。トイレか。


 先ほど入ってきた団体は、隣のテーブルに着いた。

 さりげなく彼らの顔をチラッとうかがう。



 ああああああああああああ!



 嘘だろ? きょうはなんて日だ。こんな偶然が続くなんて。

 人違いではない。よーく知っている顔がそこにあった。

 さっきアーチャーとバッタリ遭ったばかりだというのに。


 彼らの男女比が二対五というのは間違いだった。

 若い男が二人だとばかり思っていたが、片方は女だ。

 髪が丸坊主だったから、てっきり――。


 おい、どうしてここにソードマスターが来てるんだよ。


 ちなみに、オレはソードマスターを許すことにしている。

 しかしそれは幼き日々のように、また仲良くしようということではない。

 憎しみが消えたため、関心もいっしょに失せただけだ。

 すなわち赤の他人になったのだ。だから話しかけることなどない。


 ソードマスターがこっちに気づいているか否かは不明。

 仮に気づいたとしても、たぶん知らんぷりするだろう。


 そのソードマスターが立ちあがる。

 トイレの方へと歩いていった。


 ちょうどイリガがトイレから出てきた。

 二人は鉢合わせとなった――。


 互いの足が止まる。両者の目は相手を見据えていた。

 静かな緊張感が漂っている。


 先に歩きだしたのはイリガだった。こっちへと戻ってくる。

 ソードマスターも歩きだし、トイレに入っていった。

 その短い間に、会話が交わされることはなかった。


 次に立ちあがったのは、隣テーブルの若い男だった。


「マスター、どうしました?」


 はす向かいに座る若い女が、彼を見あげて『マスター』と呼んだ。

 彼が団体のリーダーってことか。しかし彼女の声は耳に届いていないらしい。

 こっちのテーブルにいるイリガを、ひたすら睨みつけているのだ。


 たぶんイリガは彼の視線に気づいていることだろう。

 あの殺気に満ちた眼差しに、気づいていないわけがない。

 それでもイリガは彼と目を合わせることをしなかった。

 はて……。気づかぬフリは何故だ?


 イリガに視線を注いでいるのは、彼だけではなかった。

 彼の仲間たちもイリガに注目している。


「イリガっ」と叫んだのは、彼の正面に座る女。


 とても憎々しそうな声だった。彼と同様、彼女たちも次々と立ちあがる。

 依然としてイリガは気にするような素振りを見せない。


 隣テーブルの彼女たちが口にする。


「あの恥知らずが、どうしてここに来てるのかしら」

「思いだしたくもない顔だったのに。ご飯が不味くなるわ」


 いったいなんだと言うのだ!


 イリガは大人しくしているが、オレはじっとしていられなかった。

 隣のテーブルのヤツらを睨みつけながら立ちあがる。

 ほぼ同時にシェムとチャオプも立ちあがった。


「おい、オレたちが先にこの店に入ったんだ。オレたちがいるのがイヤならば、あとから来たお前たちが出ていけばいいだろ」


 イリガがオレの腕をグッと掴む。


「やめて。わたしのことはいいの」


 えっ? どうしてだよ。

 だが本人にそう言われては仕方あるまい。

 ここは堪えることにした。

 ああ、モヤッとする。


 しかし若い男はこんなことを言ってきた。


「へえ、拾ってもらったのか。でもまた裏切るのだろ?」


 オレが口を開こうとすると、イリガの握力が増した。

 いてててて。細腕なのに怪力だ。さすがは女剣士。


「わたしは何を言われてもいいの。あの人は恩人だから」

「アイツが恩人?」

「義理の父に奴隷として売られそうになったとき、わたしを助けてくれた」

「わかったよ」


 オレたちがしぶしぶ椅子に座り直すと、彼らも同様に座り直した。



 しばらくして店に新たな客がやってきた。冒険者らしい恰好ではない。

 オレはその客に向かって手を振った。


「おーい、ムアン。こっちだ」

「皆そろってたのね。わたしが最後になっちゃってごめんなさい」


 ムアンはオレたちのいるテーブルに着いた。

 隣テーブルの若い男がまた口を出してくる。


「待ち合わせをしていたわけか。用が済んだのならば、さっさと他の店に行ってくれないかな」


 なんて自分勝手なことを!


「もう注文だって済ませたんだ。いまさら店を替えられるか」

「なーに。いますぐ出ていってくれるのなら、俺がここの支払いをしてやるが」


 こんなヤツらの傍で飯を食いたくない。

 アイツらが支払いするのなら、店を替えた方がいいだろう。



 そんなとき、また店に新たな客が現れた。



 若い男が大口を開ける。驚愕したような顔つきを見せた。

 そして、入ってきたばかりの客に声をかける。


「おお! あなたは……」

「まあ、偶然。お財布の件では感謝しています」


 客は若い男に会釈し、そのまま通りすぎようとする。

 若い男がさっと立ちあがる。その客を席に誘うのだった。


「あの……。もしよろしければ、ごいっしょしませんか? さあ、こちらへ」


 彼と同席する若い女たちは、そろってムッとした顔になった。

 ヤツは仲間のことを何も考えちゃいないのだろう。


「お誘いありがとうございます。せっかくですが、知り合いがそこにいますので」


 客はそう告げてこっちにやってきた。


「まあ、皆いたのね。さっきムアンちゃんがここに入るのが見えたの。だからわたしもこの店で、お昼ご飯にしようかなって思って」


「やあ、ルアンナ。ごめん。実はさあ、そこの客に店を出ていけって言われてたんだ。だからいまから他の店に移ろうと思うんだけど」


「わたしも師匠に賛成だ。こんなところで食べたくない。皆もいいかな?」


 シェムは大賛成。ムアンもイリガも「構わない」とのことだった。


「ならば、わたしもごいっしょしていいかしら」とルアンナ。


「「「もちろん」」」


 皆、ルアンナの同行を歓迎した。

 オレたちは別の店で食べることになった。


 出口で若い男を顧みる。


「そんじゃ、支払いは頼んだぞ」

「ま、待ってくれ……」


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