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第67話 <マスター視点>

 かつてイリガが所属していたパーティーのマスターの話です。


  කුකුකුකුකුකු  マスター視点  කුකුකුකුකුකු



 我が愛妹(ヒメ)は魔物に襲われて死んだ。


 魔物に襲われたとき、剣士仲間といっしょだった。しかし我が愛妹(ヒメ)は助からなかった。助けてもらえなかった。


 恐ろしい魔物を目の前にして体がすくみあがるのは、理解できないこともない。だが剣士だぞ? いくら自分の命が大切だからって、他人を犠牲にしてまで助かりたいのか。剣士としての誇りはないのか。


 まったく意味がわからない。仲間を魔物に差しだした? 仲間が食われている間に逃げた? これほど卑怯なヤツがいたなんて信じられない。我が愛妹(ヒメ)とはあんなに仲が良さそうに見えていたのだが……。ああ、酷すぎる裏切り行為だ。


 俺は奴隷として売られようとしていたアイツが可哀想に思った。だから引き取ってやったのに。あんなに可愛がってやったのに。


 もちろん可愛がってやったのは、稀に見る美貌の持ち主だったからというのも否定できない。まだちょっと幼かったけれども、成長すればかなりの別嬪べっぴんになることは想像がついた。だがアイツの正体は悪魔そのものだった。




「マスター、マスターってば」


 誰かに呼ばれた。目の前にはフィフスがいた。


「フィフスか」

「また考えごとですか、マスター。夕食に出かける時間ですよ」


 フィフスが無邪気に笑っている。彼女もなかなかの器量好しだ。

 きょうは皆でいっしょに夕食を食べる日だった。

 数日に一度はパーティーの全員でテーブルを囲むことになっている。


「ごめん、ごめん。もうそんな時間か。おや? そのイヤリング……」

「きゃっ、気づいてくれましたか。きのう買ったんです」

「とても似合ってるじゃないか」


 別の男がやってきた。


「マスター、馬車の用意ができました」


 せっかくフィフスと二人で、いい雰囲気で喋っていたのに……。


「料理屋までわざわざ馬車を使うのか」

「なにせ大人数ですので、全員が入れる店は限られてしまうのです。店はここから離れたところにあります」


 俺たちのパーティーは人数が一気に増加した。特に男子メンバー数だ。

 以前はほとんどが女剣士だった。それは我が愛妹(ヒメ)をゴミ虫から守るためだった。

 しかし我が愛妹が他界したいま、男を避ける必要はなくなってしまった。


 それからもう一つ。多くの友人たちから忠告があったのだ。これほどまでに男女比に偏りがあれば、ハーレム作りを目指しているように誤解されてしまうと。

 実際、誤解とも言い切れない。ハーレムにも憧れていた。



 馬車に乗って大きな料理屋の前にやってきた。

 仲間の多くは別の馬車で先に到着していた。


「マスターがいらっしゃったわ!」


 メンバーの女剣士たちに迎えられた。俺の乗ってきた馬車は男ばかりでムサ苦しかった。だからホッとする。


 皆でぞろぞろと店内に入っていく。


 背後をフィフスが歩いている。振り返ると目が合った。

 無邪気な微笑みが見られた。先程のイヤリングが揺れている。


 隣を歩いているのはサーティーンスだった。

 彼女もフィフスとよく似たイヤリングをしていた。


「フィフスみたいなイヤリングだな」

「そうなんです! きのうフィフスといっしょに買ったんです」


 嬉しそうな顔を見せるサーティーンス。

 この子はパーティーに入ってから日が浅い。

 だからまだあまり話したことがなかった。


 いっしょにテーブルに着こうとする。


 ところが彼女を押しのけ、右隣に座ってきたのはファーストだ。

 なんてことを……。


 サーティーンスと話ができるチャンスだったのに。

 左隣にはセカンドが座ってきた。


 右がファースト、左はセカンド。これが定位置となってしまっている。

 こう言ってはなんだが、新鮮味がない。他の子ともたくさん話したいのに。

 せっかくの準ハーレム状態を満喫できやしないじゃないか。

 両隣は毎回替わってほしいものだ。


 食事が始まってからしばらく経った。


「あの……マスター」

「どうした、セカンド?」

「実は、このパーティーの更なる強化のため、紹介したい人がいまして」


 いやいやいや、もう無理だ。これ以上、メンバーを増やしたくない。

 セカンドの頼みを断るのは心苦しいのだが……。


「どんな人? 強いの?」とファースト。


「とても若い剣士だけど、腕は確かよ」


 セカンドはオレの顔を見あげた。紺碧の瞳が懇願している。だが剣士はもう間に合っている。可愛いセカンドの頼みだが、こればかりは受け入れられない。


 まさに俺が首を横に振りかけたときのこと――。

 セカンドは話をこう続けるのだった。


「この国ソンクラムでは『美しすぎる女剣士』って言われて有名なの」


 美しすぎる女剣士……。


 俺は興味が湧いた。


「八日後、軍に協力する冒険者たちの顔合わせがある。だから非常に忙しいのだ。しかしセカンドの頼みとあっては、会わないわけにもいかないだろう。パーティー加入の面接をしようじゃないか。明日でいいかな」


 早く会ってみたいものだ。


「ありがとうございます、マスター!」


 喜色を浮かべるセカンド。

 対照的にムッとする他のメンバーたち。




 翌日――。

 パーティーメンバーの多くが、朝からそわそわしていた。

 セカンドの知り合いが、パーティー加入の面接を受けにくることになっている。

 最も緊張しているのは俺に間違いない。


 サードがセカンドに問う。


「どんな子が来るの?」

「実はね、サード。あなたも会ったことがあるのよ」

「えっ、わたしも会ったことが?」


 今度はフィフスが尋ねる。


「その人ってソロの冒険者なの?」

「ワケがあって冒険者スクールを辞めたばかりなの」

「ふうん。ワケって何かしら。怪しいわね」


「これ以上、メンバーが増えるのもなあ……」と口を尖らせるフォース。


 ファーストを始め多くの者がフォースに首肯した。

 まあまあ、皆、そんな顔しないでくれよ。


 コン コン


 ノックがあった。やっと来たか。

 ああ、美しすぎる女剣士……。

 首を長くして待ってたぞ。


「入ってくれ」


 ドアが開く。


「失礼します」


 客が入ってきた。どんな子だろう。



 えええええええええええええええええええええええっ!?



 どうして丸刈り?

 密教の僧侶だったのか。


 ツルツルの頭を見ながら喜色を浮かべるファースト。

 さっきまで曇っていた彼女の表情が一変した。


「まあ、可愛らしい子!」





    ◇





 面接に来た彼女については、加入を断ろうと思った。

 しかし実力を見てほしいと、セカンドが食いさがってきた。

 そこで剣の腕を見ることになった。


 フォース、サード、ファーストの順に、剣の勝負をさせてみる。


 なんと彼女は連勝してしまった。


 確かに実力はある。特殊スキルも持っているではないか。

 これは加入させないわけにはいかなくなった。

 しかも顔をよく見ると、髪さえ伸びれば、まあまあ美人になりそうだ。


 彼女はフィフティーンスとなった。剣の実力はトップかもしれないが、序列は最下位から始めることになっている。おそらくファーストとなるまであまり時間はかからないだろう。





    ◇





 ところで、いま夜の繁華街を一人で歩いている。パーティーメンバーたちの目を盗み、ここまでやってきたのだ。これから行くところはバニーガールズ・バー。もちろんメンバーには内緒だ。


 ちなみに『バニーガールズ』と言っても、獣人のいる店ではない。ウサギのコスプレをした女の子たちと酒を飲む店だ。ここソンクラム発祥のスタイルらしい。


 繁華街から徐々に人が消えていく。日没が近いからだ。歓楽街まではまだ少し遠い。しかしこのまま歩いていけば、ちょうどいい時間に店に到着できるだろう。



「えーっ、こんなに高いの? せっかく可愛いお財布なのに」



 そんな声が聞こえた。露店で財布を買おうとしている若い女だ。

 ハッとするほど美しい人だった。天女と見間違うほどだと言っていい。


「お客さん、これ以上はマケられませんよ」

「諦めなくてはならないのね……がっかり」


 商品を覗いてみた。確かに可愛らしい財布だ。

 俺は隣の黒い財布を手に取った。


 店主に値段を確認してみると、適正価格だと思える数値が返ってきた。


 ここで店主にまた確認する。


「一割マケてもらえませんか?」

「うーむ、一割か……。いいですよ、一割引きとさせていただきます」

「でもこの黒い財布は、言い値どおりの金額でいいんです。そっちのお嬢さんの財布を、あと一割引きってことにできませんか?」


 じっと俺の顔をうかがう店主。


「承知しました。黒い財布は言い値の金額ですよ?」


 若い女が驚いたような顔をする。


「あの、いいんですか?」

「構いませんよ。この黒い財布、言い値の金額でも損にはなりません」

「なんとお礼を申しあげたらいいのか。本当にありがとうございます」


 若い女はそれを安く買ったのち、頭を深くさげて去っていった。


 ああ、俺……どうして押しが弱いのだろう。

 弱いどころじゃない。ぜんぜん押せていなかった。



  කුකුකුකුකුකු  マスター視点終わり  කුකුකුකුකුකු


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