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第62話 秘密の話&<現校長視点①>


「やあやあ、ラング君。冒険者登録おめでとう! それから新パーティ結成についてもね」


 前校長だ。


 またきょうも街でバッタリ会った。

 今回、オレは仲間を連れず一人だった。


「ありがとうございます。アドバイスを戴きましたおかげで、登録はスムーズにできました」


 オレは新パーティー仲間が好きだ。

 以前のパーティーよりずっと居心地がいい。

 それもあって前校長の言葉は心から嬉しかった。


「先日の闘技場での試合では、観衆を沸かせたようだね。途中で騒ぎが起きたとかで、試合は無効となったらしいけど、内容は完全にラング君が勝っていたそうじゃないか」


 試合のことも、どこかで耳にしていたようだ。

 でも褒められるとちょっと照れ臭くなる。


「ですけど、すべて滅茶苦茶になりました。あんなのはもう懲り懲りです。闘技場なんて二度と近づきたくありませんね」


 その後プリーストがどうなったかのは知らない。闘技場の試合には、プリーストもソードマスターも、もう出てこなくなったと聞いている。


「だが、いい経験になったのではないかな」

「そうでしょうか。ああ、そうだ! 校長先生に訊きたかったことがあるんです」

「わたしはもう校長ではないよ」


 あ、いけね。

 クイッと肩をすくめた。


「失礼しました。つい癖で……」


 オレにはずっと気になっていることがあった。

 試合の途中に出てきた巨人のことだ。あまり悪い魔物には見えなかった。

 前校長ならば、巨人について何か知っているかもしれないと思った。

 だから次に会ったときにでも、尋ねてみるつもりだったのだ。


「……あの試合がブチ壊しになったのは、巨人の乱入があったからです。ハーフギガースなんて呼ばれてましたけど、ご存じでしょうか? しかもオレの抜けたパーティーの新メンバーらしいのです」


 前校長が眉間を寄せる。何かを知っているようすだ。

 しかし、話したくとも話せない……そんなふうに見えた。


「すみません。無理に訊こうなんて思っていませんので」

「いいや。ラング君にならば、その秘密を話してもいいだろう」


 秘密?


「本当にいいんですか」

「国内の信用できる冒険者には、話してもいいことになっているのでね」

「ありがとうございます」


 前校長がゆっくりとうなずく。


「その巨人は、ソンクラム軍で飼育しているハーフギガースの可能性が高い」


 ソンクラム軍が巨人を飼育!?


 前校長の言った『秘密』とは、冒険者スクールのものだと思っていた。

 しかし実は軍に関係するものだったとは……。

 そもそも軍と魔物は敵対しているのではないか?


 固唾を呑み込み、話の続きを待った。





  කුකුකුකුකුකු  現校長視点  කුකුකුකුකුකු





 数日前に遡る――。


 現校長は不機嫌だった。

 校長室に入ってきた教頭は、やや緊張した面持ちだった。


「校長、ウチのお(かしら)が面会に参りました。お通ししてよろしいでしょうか」


 教頭は教育者でありながら、ソンクラム周辺に蔓延はびこる賊の一員でもある。

 それは現校長も知っていることだった。


 冒険者スクールの経営は、ほぼ軍からの資金で成り立っている。

 そのため校長や教頭になれるのは、軍に所属している者だけなのだ。

 すなわち前校長も現校長も教頭も、ソンクラム軍の一員である。


 教頭の場合、賊・軍・スクールの三つに所属していることになる。


「いま頃になって報告にきたか。遅いぞ」

「ウチのお(かしら)は何かと忙しくて……」


 現校長が教頭を睨む。


「たかが中小規模の賊のかしらのくせして、忙しいことを理由にするつもりか!」

「ご、ごもっともです」

「とりあえず許可する。お前らのかしらを中に入れろ」


 教頭は校長室をいったん出てから、再度、校長室に入ってきた。

 図体の大きな男を連れている。ほっそりした女も(、、、、、、、、)いっしょ(、、、、)だ。


「そいつもか。まあ、いいだろう」


 ソファーに座っている現校長の前で、教頭ら三人が横一列に並ぶ。

 図体の大きな男が現校長に頭をさげる。


「おとといウチの馬鹿息子が、とんでもない失態を演じてしまいました」

「せっかく譲ってやったハーフギガースで、あんな騒ぎを起こしやがって!」

「すべてわたしの監督不行き届きでした」

「人目に晒すときは、じゅうぶん気をつけるように言ったはずだ!」

「はい、深く反省しております」


 現校長の指先が、ソファーの肘掛けをコツコツ叩いている。

 その指を止まると、今度はテーブルを蹴った。


「息子の試合は無様だったそうだな。何が学年きってのエリートパーティーだ。しかもその新リーダーだと? あー笑わせてくれる。校長である俺の顔に泥を塗ったようなものだぞ。よりによって対戦相手は、除籍処分にした生徒だったというではないか!」


 現校長の視線は教頭に移った。


「さて。その騒ぎを起こした生徒には、どんな罰を与えるつもりだ?」

「わ、若親分については……今朝も申しあげましたとおり、いまは生憎……」

「ここはスクールだ。教頭のお前がいち生徒を『若親分』などと呼ぶでない」

「申し訳ございません。おかしらのご子息は……」


 教頭が身を小さく縮める。

 現校長はわざとらしくポンと手を叩いた。


「おう、思いだしたぞ。その生徒は精神的なショックか何かで、廃人同然となったのだったかな」


 教頭の額から汗が噴きだす。


「は……廃人とまでは……」

「一日中、ボーッとしてるそうじゃないか。魔導も使えなくなってるのだろ?」

「身も心も疲労困憊しておりますので……しばらくは休養が必要かと思います」

「しばらくは休養? ふざけるな!」



 現校長の視線はほっそりした女に向いた。

 彼女は入室してからずっと俯いている。



「室内では帽子を取れ!」


 女は初めて顔をあげた。

 いまにも泣きだしそうだ。


「帽子は被っておりません」

「早くしろ」


 この校長室に帽子を被っている者はいない。

 しかし女は自分の髪に手をかけるのだった。

 躊躇ためらいつつも長く美しい髪をズリおろす。


 そこに現れたのは、丸刈りにされたツルツルの頭だった。


「あっはっはっはっは」


 現校長が爆笑する。


 闘技試合敗戦の罰ゲームだとは聞いていたが……。

 うんうん、なかなか愉快で面白い。


 もちろん女が取ったのは帽子ではない。

 カツラだったのだ。


「さすがは美しすぎる女剣士。よく似合ってるではないか」

「…………」


 女は唇をぎゅっと噛み締めた。

 カツラを握る手が震えている。


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