第55話 陰謀か?
どうしてオレのいる個室で、ムアンの下着が見つかったのだ?
まったく身に覚えがない。これって誰かの陰謀なのか。
ムアン、チャオプ、イリガの目つきが怖い。
チャオプは証拠だと言わんばかりに、見つかったブラをオレに突きだしている。
ムアンはオレの前にグッと出てきた。
「年頃の男の子がこういうのを欲しがる気持ちはわかるわ。だけどね、盗むってことがどれだけ罪深いものなのか、考えなかったの? どうしても我慢できなかったら、ちゃんと相談してよ。もう!」
言葉は丁寧だが、語調はかなりキツかった。
でもでも我慢できなかったらどうなんだよ?
相談したらどうなんだよ?
それはともかく、オレが盗んだんじゃない!
しかし信じてくれそうな感じはなかった。
チャオプがまた出てきた。
「この際、言いたいことを言ってやる。あー、呆れた、呆れた。本当に呆れたぞ。師匠は巨乳好きだったのか……。ち、小さいものを愛でる気持ちはなかったのか」
おい、なんの話だ。
続いてイリガが出てきた。
「あなたはそれでもこのパーティーのリーダーなの? リーダーの自覚はあるの? メンバーの下着類を盗むなんて最低。本日を以て似非パーティーをやめさせてもらうわ」
彼女は小さな誤解をしている。リーダーはチャオプだぞ?
そして大きな誤解をしている。オレは盗んでない!
あとパーティーはやめないで……。
三人が詰め寄ってくる。
やはりこれは罠や陰謀に違いない。
きっとオレたちの仲を引き裂くための策略だったんだ。
だいたいおかしいぞ。スケルトン兵の矢、宿の大火事、そして下着泥棒……。
その中でも今回が最大のピンチだ。精神攻撃は死ぬほどキツい。
もしやプリーストたちの仕業なのか?
そのときだった――。
オレの前に、さっと何かが着地した。
全身の毛を逆立て、尻尾を膨らませている。
彼女たち三人に対する威嚇だ。
ああ、シェム!
オレを庇おうとしてくれている。
シェムだけは信じてくれるんだな。
理解者はやっぱりシェムだけだ。
もう泣けてくる。
ただシェムは何かをくわえていた。
皆の視線が彼女の口に集中する。
パンティーだ。
ムアンがそれを指差す。
「わ、わたしのパンティ……。じゃあ、下着泥棒の犯人は……」
シェムがチャオプに向かってジャンプする。
チャオプは「わっ」と言って尻餅をついた。
シェムがチャオプの手からムアンのブラを強奪。
彼女の口にはブラとパンティーがくわえられている。
それらをどうしようというのだ?
ここで不思議なことが起きた。
シェムが光った。体が大きくなっていく。
そしてなんと、人間の少女の姿になった。
えええええええええええええええっ!
見覚えがある――夢の中の少女とまったく同じ外見だ。
耳もちゃんと『ケモ耳』になっている。
あの夢の少女って、やはりシェムだったのか。
でも何故だ? なんでシェムが人間に?
先程まで猫の姿だった女の子は、当然ながら着衣していなかった。
そんな彼女がムアンのブラとパンティーをせっせと身につける。
改めて女子三人を睨みつける下着姿の女の子。
「あなたたち、よくも我が主を犯人扱いしてくれたわね!」
愛猫が喋った――。
でも自分で盗んでおいての逆ギレだ。
その勢いに気圧される三人。
「けれど……わたしの下着……」
ムアンの口調は弱々しかった。
しかし盗んだのは女の子だ。
「はあ? 素っ裸で我が主の前に出てきなさいと? わたしにそんな破廉恥で恥知らずなことができると思う?」
いやいや、出てきたぞ。素っ裸で出てきただろ。
さっき一糸まとわぬ姿の人間になったんだろ。
「す、すみません」
何故かムアンが謝った。
女の子の鋭い眼光が、女子三人を萎縮させる。
なおも下着姿のままだ。
「皆、どうして我が主を信じてやれなかったわけ? そこに正座しなさい!」
三人は言われたとおりに正座した。
シェムが憤怒の顔をムアンに近づける。
「最近あなたは我が主の前で、何かと胸を揺らしていたわね? ワザと揺らしていたわね? 我が主の顔が赤くなるのを見て、面白がってたわよね? あなたなんて下着泥棒未満の存在よ!」
「気をつけます」
気をつけるって……。
もしかして本当にワザとだった?
女の子は次にチャオプを睨んだ。
「あなたの目、常に我が主を追ってるわよね? なんのつもりかしら。食事のときなんて、ほとんど我が主の隣の席をキープしてるじゃない? 他の二人に隣を取られたときは、いつも強引に割り込んでいたわよね? 穢らわしい、穢らわしい!」
「ぐ、偶然だ。そんなことは……ないぞ?」
「ああ、いやらしいったら。当分の間、我が主の隣は禁止」
「えーーーーーーーーっ!」
最後、女の子はイリガに薄ら笑みを向ける。
「良かったわ。似非パーティーをやめるのよね? あなたはそう言ったわよね。わたしは賛成。やめなさい、やめなさい。絶対にやめなさい。言ったことは必ず守りなさい。我が主の周りはオンナが多過ぎなのよ、まったく!」
「いえ、その……やっぱり……」
「『やっぱり』なんて認めない。あなたがやめれば、あなたもハッピー、わたしもハッピー。こんないいことはないわ」
「違うの。最近やっとここの居心地の良さが……。許してください」
イリガがそんなことを言うなんて想像もしなかった。
女の子は正座している三人に背中を向けた。
「わたしが我が主をいつでもお守りします」
そして抱きついてきた。オレの胸に頬ずりする。
おいおい、下着姿のままでそういうのは……。
恐る恐るムアンが質問する。
「シェム、あなたは何者なの?」
女の子が振り返る。
「決まってるじゃない。我が主の最初の召喚魔獣よ」
「「「えっ!?」」」
オレも含めて誰もが驚愕した。
召喚できたのはハツカネズミの魔物だけのはずだ。
「馬鹿な。ちょっと信じられん」
女の子はニコッと笑顔を向けてきた。
「我が主、召喚魔導の最も発動しやすいところはどこでしょう?」
「特殊スキルだから、そりゃ……神殿だよな」
「では、わたしと初めて会った場所を覚えていますか」
「もちろんだとも。神殿廃墟……あっ!」
あの雨の日の神殿廃墟。
廃墟だろうと神殿には変わりない。
「あのネズミよりも先に召喚されてたってことか」
女の子が首肯する。
しかしチャオプはある疑問を抱いたようだ。
「んーー? 前に聞いた話と違うぞ。召喚の特殊スキルが使えるのは、一生に一度きりだったはずだ」
女の子はチャオプに蔑すむような横目を向ける。
「何を馬鹿なことを。まったくの無知。魔獣召喚は二度でも三度でも可能よ」
「だけど二度召喚できた人物は二百年以上いなかったって、師匠が……」
少なくともオレはそう聞いていた。
「違うのか」とオレが問う。
それについて女の子は、とんでもないことを口にするのだった。
「とても簡単な話です。それは最初の召喚魔獣が嫉妬して、あとから出てきた召喚魔獣を排除していただけです。わたしたち召喚魔獣は皆、嫉妬深いのです」
排除って……。
「そういえば、出てきたネズミをシェムが呑み込んだんだよな」
「はい。わたしが呑み込んだおかげで、我が主はあの召喚魔獣が持っていた特殊スキルを身につけたのです」
屈託のない笑みを浮かべてるけど、話はゾッとするほど怖いぞ。
でもまあ、そういうことだったのか。
改めて女の子が頭をさげる。
「わたしのレベルがあがりましたので、こうしてヒト化が可能となりました。けれどもいきなり裸で姿をお見せするわけにはいきません……」
何を言うか。
いきなり裸だったじゃん。
「……ですが、一刻も早く我が主の前に出たくて出たくて、やむを得ずこの下着を借りたのです」
それ、借りたんじゃなくて、盗んだっていうんだ。
だいたい、ブラを借りる相手はムアンじゃないだろ。
サイズを考えれば、イリガあるいはチャオプだぞ。
ほら、大きなブラに小さな胸が余ってるし。
とにかく彼女用の下着をあとで買わなくては。
そこで、正座している三人に頼んでみる。
「皆、悪いけどパーティー共有の財布を使っていいかな。彼女に着るものを買ってやりたいんだ。ムアン、それまでは下着をこのまま貸しといてくれないか。それからチャオプには上着とスカートを借りたいのだが……」
彼女たちからOKをもらうことができた。




