第54話 大大大大大事件
「ああ、師匠! どこ行ってたんだ(怒り)」
「突然いなくなっちょうだもん。心配したのよ(怒り)」
「…………( )」
いま、やっと仲間たちに追いついた。
皆を心配させてしまったようだ。
ちなみに無言なのはイリガだ。
イリガの口元にギュッと力が入っている。それって怒ってるんだよな?
てことは、オレが心配させたから怒ってる――と考えていいのか。
いままであまり心を開いてくれていなかったイリガが……。
なんだかちょっと嬉しいぞ。
怒りを向けられて嬉しがるって、マゾの人々だけの特権じゃないのか。
「ごめん、ごめん。三人に心配させちゃって」
「心配などではない。時間を無駄に潰させたことに謝って」
そんなふうに即答したのはイリガだ。
なーんだ。心配させたから怒ったんじゃなかったのか。
でも、いままであまり口を利いてくれなかったイリガが……。
なんだかちょっと嬉しいぞ。
口を利いてもらえただけで嬉しがるって、下僕の人々だけの特権じゃないのか。
「とにかくごめん。急に用ができちゃって……。やっといま終えてきたんだ」
前校長のことは内緒になっている。だからいまは話せない。
もちろん仲間にも大いに関わることならば、話してしまうであろう。
なぜなら前校長よりも仲間の方が遙かに大切だからだ。
しかし前校長の話については、仲間にとって重要なものではない。
だから黙っておくことにしたのだ。
チャオプがオレの正面に立つ。
「そんなヘラヘラ笑うのはやめてくれ。スケルトンの矢とか、宿の火事とか、最近いろいろ続いてるだろ。だから……だから……」
彼女の顔はいまにも泣きだしそうだった。
オレの脛を蹴った。蹴って、蹴って、蹴るのだった。
確かに奇妙なことが立て続けに起こっていたからな。
本当に心配してくれたのだろう。
「心から謝る。すまなかった」
◇
このあと事件が起きた――。
オレたちは宿に戻ってきた。宿では一つの部屋に泊まっている。だがその部屋の中には、四つの個室と共有スペースがある。各自それぞれ一つずつ個室を使うが、当然オレはシェムといっしょの個室だ。
しばらくの間、自分の個室にいた。
「師匠、皆で夕ご飯に行かないか」
個室のドアが開いた。顔を見せたのはチャオプだ。
「そうだな。行こうぜ。でも次からノックはしてくれよ」
個室から共有スペースへと出た。それから部屋を出る。
しかしムアンがまだ出てきてない。だから廊下で待った。
「ごめんなさい。先に行ってて。すぐ追いつくから」
そんなムアンの声が部屋から聞こえたので、オレ、シェム、チャオプ、イリガの四名で先にゆっくりと歩いていくことにした。
外は薄暗がりに包まれていた。
途中でムアンが追いついた。
「よう、部屋で何してたんだ?」
ムアンは黙っている。返事がくるようすはなかった。
別にどうしても理由を知りたかったわけではない。
だからオレは気にせず、そのまま歩き続けた。
しばらくしてから、やっと応答があった。
「なんでもない」
もしかして体調でも悪いのだろうか。
ムアンのことが少し気になった。
夕食後、オレとシェムは宿にまっすぐ帰ってきた。
あとの三人はお茶してから宿に戻るとのこと。
オレもいっしょにと誘われたが、一人で考えごとをしたかったのだ。
考えごととは、前校長から聞いた話についてだ。
軍による『闇の王』討伐――ぜひとも参加したいものだ。
ところで三人はなかなか部屋に帰ってこない。
どのくらいの時間が経ったことだろう。
またスケルトン兵に襲撃されて……なんてことはないよな?
個室の外にある共有スペースから声が聞こえた。
どうやら三人とも部屋まで無事に帰ってきたようだ。
ペチャクチャと会話が弾んでいる。ちょっとホッとした。
何やら楽しそうなので、顔を出してみることにした。
個室のドアを開ける。
すると女子トークはパタッと止まってしまった。
オレが出てきたことがマズかったのか。
「あれれ? なんか盛りあがってたみたいだけど……」
「ううん、なんでもないわ。うるさかったかしら?」
ムアンは肩をすくめてみせた。
「いや、別にそういうことじゃない。ごめん」
ふたたびオレは自分の個室に戻った。
そして深夜――。
「ど、泥棒」
泥棒という声が聞こえた。ムアンの声だ。
オレはベッドから飛び起きた。
ムアン、大丈夫かっ。
慌てて個室を出る。
共有スペースには灯りがついていた。
泥棒らしき人物は見当たらない。
そこにムアンがいるだけだ。目が合った。
オレを見て首をかしげる。
「何か?」とムアン。
何かって。心配して出てきただけだが。
泥棒って声は、空耳だったのか。
個室を出たついでに、トイレで小便してから自分の個室に戻った。
再度、ベッドの中に入る。
そういえばシェムがいない。
あれっ、どこ行っちゃったんだ?
眠れなくなった。さっき起きたせいで、目が冴えてしまったのだ。
ドアの向こうから、ときどき足音がする。なんだか落ち着かない。
まだムアンが起きているのだろうか。それとも別人?
バンっ
オレのいる個室のドアが開いた。
誰かが個室に入ってくる。
よっ、夜這いか? 襲われたらどうしよう。
誰だ。ムアン? チャオプ? イリガ?
いや、もし三人まとめて来たのなら抵抗できない?
なーんて、くだらない妄想してもつまらんし。
実際、本当に三人まとめてやってきた……。
おいおい、ノックはどうした?
とりあえずランプに火を灯した。
女子三人がオレのいる個室を物色し始める。
待ってくれ。いったいなんなのだ。何しに来たんだ。
「ちょっと、皆……?」
三人に声をかけた直後――。
「見つけた!」
そう叫んだのは、チャオプだ。
ベッドの下に潜り込んだチャオプが出てくる。
起きあがって、右手を突きつけてきた。
チャオプが手に持っているのは、下着のブラだった。
ええええええええええええええええええええっ!
知らないぞ。どうしてそんなものがここに?
オレは首を横に大きく振った。
「師匠の泥棒! 見損なったぞ……」
チャオプは涙目だ。いまにも流れだしそうだ。
待ってくれ。オレだって泣きたいぞ。
「オレは知らん。マジで知らん」
チャオプが震えている。
「ホントはさあ、ここで見つかるとは思ってなかったんだ。夕食に行く前だけど、ムアンはお気に入りのパンティーをなくしたんだ。わたしたちが廊下で待ってるとき、ムアンはそのパンティーを見つけた。師匠の個室にあったそうじゃないか。師匠がそんなことをするわけがない、と思ったからこそ、ムアンは師匠には何も言わなかった。そのときは何かの間違いだと信じたんだ……」
おいおい、嘘だろ。
ムアンのパンティーなんかあるわけない。
てか、オレの個室に勝手に。
「オレは、パン……その下着のことも知らないぞ」
チャオプの目からは、ついに涙が溢れでた。
「……そして今回だ。なくなったのはブラジャーだ。さっきムアンはわたしとイリガに相談してくれた。師匠を疑いたくなかったけど、仕方なかったそうだ。なぜならパンティーの一件があったから。わたしたちは念のためこの個室を調べてみて、何も見つからなかったら、疑ったことを誠心誠意謝ろうと思ってたんだ。そしたらこのザマだ。もう言い逃れできないじゃないか」
ムアンの下着については無実だ。えん罪だ。
これって誰かの陰謀なのか。




