表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/100

第52話 罰ゲーム


 アーチャーがやってきた。


 厳密には『やってきた』のではなく『連れられてきた』のだ。

 ヤツの腕と首を掴んでいるのは半龍半人の白いチャオプだ。

 シェムを抱いたムアンもいっしょにいる。


「ミャーオ」


 シェムがムアンの腕から飛びおりる。

 オレの腕の中にジャンプ。


「よしよし。いい子にしていたか」


 オレは彼女の頭を撫でてやった。

 彼女は気持ちよさそうに、「ミャーオ」とまた鳴いた。


 プリーストが立ちあがる。


「おい、アーチャー!」


 腕を押さえられているアーチャーは、苦痛そうに顔を歪めていた。

 白いチャオプの指先から鋭い爪が出ているためだ。


 無色透明な視線をプリーストに向けるチャオプ。唇が小さく動く。


「お前はこいつの知り合いか? こいつは弓を構えていた」


 黙ったままのプリーストに代わり、オレがチャオプに話してやる。


「そうさ。コイツはオレを裏切った連中の一人だ。てか、驚いた。よく探しだして捕らえることができたな。だっていままで面識はなかっただろ?」


 するとムアンがオレの隣に立ち、この経緯を説明してくれた。


「シェムが知らせてくれたのよ。ラングから預かってたんだけど、急に膝からピョンとおりて、走りだしたの。チャオプといっしょに追っていったら、弓を構えてるこの人を発見して……」


 ムアンは高い位置にある窓を指差した。


「……観客席ではなくてあそこ。通路の窓。そのときチャオプが教えてくれたの、『禍々しい矢を放とうとしている』って。わたしには矢なんて見えなかったけど」


 なるほど。そういうことだったか。

 ムアンの話にプリーストが驚愕している。


「おい、あの矢が見えたというのか?」


「普通の人間の見えない物体も、わたしには見える。わたしは普通の人間ではないから」とチャオプ。


 席に残してきた仲間のうち、ムアンもチャオプもアーチャーの顔を知らなかったが、シェムだけは以前から知っていたのだ。それにしても、アーチャーによく気づいてくれたものだ。


 よくやったぞ、シェム!!

 あらためてシェムの頭を撫でる。


「本当にシェムは賢い子だな。いい子だ、いい子だ」


 それはそうと……。


「やい、お前ら! またインチキしようとしてたんだな!」


 プリーストが立ち去ろうとする。


「知らねえな」

「この状況で、しらばっくれるのか」


 ヤツの足が止まる。オレを顧みた。


「二日後、ここで俺と勝負しろ」

「何が勝負だ! おい、待て、行くな」


 オレはこの場で大勢のスタッフに取り押さえられた。

 プリーストはそのまま行ってしまった。


 アーチャーはようやくチャオプから解放されたが、その鋭い爪により、弓が握れないほどのケガを腕に負っていた。といっても世の中には回復薬(ポーション)というものがあるため、その程度のケガは仮初かりそめのものでしかない。その前に、プリーストにかかれば即刻完治だろう。



 さて、観客にはオレたちの揉めごとなど眼中にない。

 彼らが待ち焦がれているのは罰ゲームだ。

 敗者となったソードマスターが、大勢の面前で丸刈りにされようとしている。



「やめてーーーーーーーーーーー。丸坊主なんて嫌ぁーーーーーーーーーーー」



 ソードマスターが闘技台の上で騒いでいる。



「触らないで。そんな話、聞いてないから。やめてよ。どうしてわたしが。痛い、痛い、やめて。お願いだからやめて。いやよ。わたしはいや。許して。お願いよ。あああああああああああああああああ!」



 悽愴たる悲鳴はやがて泣き声に変わった。

 ソードマスターのツルツルになった頭が衆目に晒される。



 別にこんなもので、オレの溜飲はさがったりしない。

 丸坊主なんて一時的なものだ。髪は時間が経てば伸びてくる。


 オレは奴隷として売られた。もしあのとき『スーパーハツカネズミ』が発動しなかったら、奴隷として一生を送らなくてはならなかったのだ。それに比べたら屁でもなかろう。


 ただ、いまは勝利したイリガを褒め称えたい。

 おめでとう、イリガ!





    ◇





 プリーストに闘技の試合を挑まれた。日程は二日後だとか。

 こっちの了承を確認しないまま、プリーストは立ち去った。

 実のところ、プリーストたちが関わるイベントに、貢献などしてやりたくない。

 仮にボコボコにできたとしても、それくらいでは満足なんてできない。


 当日、バックレてやろうか。

 少なくともオレは困らない。


 ただヤツとしては、やりたいだろう。

 無類の戦闘狂だからな。


 もちろんヤツの特殊スキルは、剣術や攻撃魔法などではない。

 戦闘には直接関係しないものだ。それでもヤツは強い。


 ヤツの回復魔導は超一流だ。

 特に回復スピードにおいて、ソンクラム随一とも言われている。

 そのうえ回復魔導使いとは思えないほど、全身の筋力を鍛えている。

 身体能力だけで冒険者としてじゅうぶんやれるほどだ。

 さらには金縛り魔導などの特殊スキルまである。


 最も厄介な点は、鍛えあげた肉体と回復魔導を合わせた戦い方ができること。

 それは回復魔導を自分に施しながら、殴り合いで戦うというものだ。相手から攻撃を喰らうと同時に回復がなされるため、見た目にはダメージを与えられたように思われない。しかも痛みすら感じないのだとか。


 ヤツはオレに勝てると確信しているのだろう。


 オレが以前のオレとは違うことを、ヤツは知っているのだろうか。きのうオレがスクールに顔を出したことは耳にしているらしいが、八体の土人形を一気に倒したことまでは聞いていないのか。だからこそ勝負を挑んできたのだろうか。


 ヤツの勝負を受けるのも悪くない……かな。





    ◇





 深夜、宿で大火事があった。寮から移ってきたばかりだというのに!

 原因は不明。前夜のスケルトン兵といい、災難が続いている。

 もしやオレたちは狙われているのだろうか。


 日が昇ってから、別の宿に移った。


 今度は結界魔導によるセキュリティ万全の宿だ。当然だが、宿代は高い。しかしチャオプが『冒険者ギルド登録証明書』を持っているので、冒険者割引が可能。そのためオレたちでもギリギリ泊まることができた。


 四人用の部屋をとった。しかしちょっと珍しいスタイルの部屋だった。室内にはさらに四つの狭い個室があり、その中央に広い共有スペースがあるのだ。つまり部屋の中に個室があるため、実質的には一人ずつ個室に泊まったような感じになる。


 火事でバタバタしていたため、朝メシを食い損ねていた。だから昼メシは早めに食べることにした。何を食べようかと、皆で街をあるく。



「ラングっ」


 声をかけられた。

 かつての寮母ルアンナだ。


「ルアンナ、偶然だね」


 昼メシをいっしょに食べることとなった。

 もちろん仲間たちも快く承知してくれた。


 入った店は一般的な大衆食堂だ。


 ルアンナには、昨晩プリーストやソードマスターが闘技場の試合に出場していたことを話した。本当は口にも出したくない名前だった。それでも寮母である彼女の耳に入れてやりたかったのだ。

 ちにみに、いま同席しているイリガがソードマスターと対戦したことまでは話さなかった。


 オレの話にルアンナはかなり驚愕したようすだった。そりゃ当然だ。ヤツらは寮に帰りもせず、国内のどこかに泊まっていることになるのだから。


 これまでルアンナにはなんの連絡もなかったそうだ。顔くらい見せてやればいいのに。


 それにしてもヤツらはどこで寝泊まりしているのだろう? 

 もしかして闘技でガッポリ稼ぎ、超高級ホテルにでも泊まっているのか?





    ◇





 食事中、ルアンナはムアンをちらちらと見ていた。

 ムアンはそれに気づいているのだろうか。

 少なくともオレは気になって仕方なかった。


 ムアンがどうかしたのか? そっくりな妹のことと関係することか?

 思いきって話を聞いてみよう。極力さりげなく、やや婉曲に……。


「妹さんの具合はどう?」

「ずっと変わらないわ……」


 ここで話を終えてはダメだ。

 なんとか話を繋ごう。


「オレに何かできることとかないかなあ」


 オレはルアンナの妹とは接点がまったくない。

 だからこういうことは、普通ならば言いださないものだろう。

 ちょっとヘンに思われたかもしれない。


 ルアンナがオレの顔をじっと見据えている。


「お願いしてもいいのかしら」


 あれっ? 食いついてきたぞ……。

 やっぱり何かあるんだ。


「もちろんだとも」


 オレは精一杯の笑顔をルアンナに見せてやった。


「こういうお願いをするのは、ちょっと気が引けるけど……。これから妹の見舞いに来てもらえないかしら」


 なんだ。見舞いか。

 思ったより簡単なことだった。


「構わないさ。行くよ」

「ありがとう、ラング。それから……是非あなたもいっしょに」


 彼女の視線はムアンに向けられた。


「ええ、喜んで」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ