第5話 ユニコーンの角
「やい! これは、お、お前……あなた様が倒されたのですか」
オレはポカンとした。
我に返ったところで答える。
「ええと、そうみたいです」
男たちはヒィィィィと言いながら土下座するのだった。
「大変申し訳ございませんでした。我々はあの親子に騙されていたのです」
「あの親子……?」
「はい、あのガタイの良かった二人です。初歩魔導しか使えないと言うから、安心して大金を支払いました。なのにユニコーンを倒せるほどの大魔導士様だったなんて。ヤツらに大金を騙し取られました。あの悪党め!」
悪党はお前らもだろ。
ガタイがいいといえばプリーストだ。
あの御者もなかなかガタイが良かった。
へえ。二人は親子だったのか。
そういえばパーティー仲間のうち、プリーストだけが地元出身だったっけ。
こんな悪事を親子で企んでいたなんて。
プリーストら親子に対して憎しみが湧きあがってきた。彼らだけじゃない。
ソードマスターもアーチャーも彼らに加担していたのだ。皆、許せない……。
何かがオレの足をひっかいている。
シェムだ。あの巨大猫って……やっぱりシェムだったのか?
小さな彼女を抱えあげた。
同時に自分の体を再認識する。
おっと、いまオレは一糸まとわぬ姿だった。
素っ裸のオレの周りで大男たちが土下座している。
これはかなり異様な光景だ。
衣服やズボンなどはすぐに見つかった。
即座に着込んだ。
さて、この大男たちをどうしてやろう?
ボコボコにしたのち、財宝を山ほど要求したいところだが。
まずは冷静になろう……。
どうしてオレは無敵のハツカネズミになったのか。
皆目わからない。普通、あり得ないことだ。
ふたたび無敵状態になれるという保証もない。
となると無茶な要求は避けておいた方がいい。
ヤツらを精神的に追い詰めるのは禁物である。
やけくそで牙を剥いてきたらマズいからだ。
そうなってはこっちが危ない。
だから要求は最小限にしておこう。
ヤツらに告げる。
「お前たちは運がいい。オレは一見弱そうに振舞っていた。実は油断させてから集落を殲滅するつもりだったのだ。ところが不意にユニコーンが現れたんで、早くも実力を出さざるを得なくなった。とんだ誤算だった」
ヤツらの一人が言う。
「ハハァー。あのときの情けないごようす、名演技でございました」
うるせー。
「ああ。オレが攻撃するよりも先にこんなふうに謝りに来られては、そこの集落をブッ潰す気持ちがそがれるってものだ」
「「ハハァー」」
「それでだ。お前たちの命までは取らない。賠償などの要求も最低限でいい」
「「ハハァー」」
「オレの要求はたった三つだ。第一に、もし集落で抱えている奴隷がいるのなら全員を解放しろ。第二に、その解放した奴隷はすべて近郊の町まで馬車で送れ。第三に、その解放した奴隷には十日分ずつの生活費を与えろ。以上だ」
このくらいなら、いいよな?
「なんと、お心の広いお方でしょう!」
「と、当然だ」
「本当にそれだけでよろしいのでしょうか」
「男に二言はない」
もうちょっと、もらっておくべきだったか。
「おお! ご自身の分は要求せず、奴隷たちだけの心配をなさるとは」
あっ、オレの分を忘れてた。
「と……当然だ」
声に力がなくなっていた。
◇
男たちは奴隷たちを連れてきた。十四人もいた。
しかし皆、この時点から奴隷ではなくなったのだ。
彼らはオレの周りに集まり、頭をさげるのだった。
「我々を解放してくださり、ありがとうございました」
感謝されるのは慣れてない。どうも苦手だ。
「いえ、どういたしまして」
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
名乗るほどの者じゃないけど……。
「ラっ、ラングです」
「ララング様ですね」
「いいえ、ラングです」
「ラーング様ですね」
まあいいや。
「はあ、そうです」
「ラーング様のお名前は、一生忘れません!」
忘れてください。微妙に違うし。
集落のヤツらは馬車の用意ができたようだ。
馬車は三台。解放された人々が乗り込んでいく。
オレはユニコーンの死体に寄っていった。
本当にとんでもないことをやっちゃったみたいだ。
美しい角が折れている。
その角を拾った。カッコイイからだ。
なんとなく武器にもなりそうだ。
馬車のところに戻ってきた。
皆といっしょに乗り込もうとする。
「あなた様も馬車に乗られるのですか?」と大男。
そりゃ当然だ。どうして訊く? あっ、さっきのことか。
オレも乗せろとは要求してなかったっけ……。
「当初は乗るつもりなんてなかった。しかし考えたんだ。お前たちが彼らを無事に送り届けるかどうかってな。最後までちゃんと確認しなくてはなるまい?」
ヤツらがふたたび低頭する。
「ハハァー。ごもっともです。ところで彼らの十日分の生活費は、到着後に渡せばよろしいでしょうか」
前でも後でも構わないが。
「そうしてくれ。ただしオレの見ている前だ」
「承知いたしました」
右手でシェムを抱き、左手でユニコーンの角を握った。
両手が塞がったまま馬車に乗り込む。
馬車はガタゴトと音を立てて発進した。
シェムの頭を撫でながら、もう一度考えてみる――。
あの巨大に見えた猫は、本当にシェムだったのだろうか。
どうしてオレはハツカネズミの姿になったのだろう。
ハツカネズミ……。そういえばオレが召喚したのも、それだったよな。
いつの間にか眠ってしまった。
誰かがオレの目を覚ます。
「ラーング様、町に着きました」
次話投稿は明晩の予定です。
何卒よろしくお願い申し上げます。




