第44話 食い違い
ムアンたちは待ち合わせ場所になかなか来なかった。
まあ、ゆっくりショッピングを楽しんでいればいいさ。
昼メシの時間まで、まだまだたっぷりあることだし。
それならばオレも、もう一度だけ寮に寄ってこよっか。
靴屋のオヤジに話を聞いてから、じっとしていられなくなったのだ。
ルアンナから早く話を聞いてみたい。
オレはシェムとともにふたたび歩きだす。
寮に到着。ルアンナもいま到着したばかりだと言う。
「ずいぶん早かったわね。スクールにはちゃんと顔を出してきたの?」
「これからだよ。それより先に確認したいことがあって」
「グズグズしない方がいいと思うけどな。いったいどうしたの」
ちょっと言いづらい話題になる。
最大限に慎重にならなくてはならない。
「うん、あのさ。靴屋のオヤジから聞いたんだけど、その……ルアンナの妹は亡くなったって」
気を悪くしただろうか? 辛いことを思いださせてしまっただろうか?
ルアンナは表情を変えずに即答した。
「生きてるわ」
えっ……。
靴屋のオヤジと話が食い違っている。ルアンナがそう信じているだけなのか?
大爆発後も生存しているという希望を、まだ彼女は持っているってことか。
もちろんここで、わざわざ疑問を投げかけることなんてしない。
とりあえず話を合わせる。
「それは良かった。会いたいだろうね」
彼女の次の言葉に、オレは驚愕するのだった――。
「さっき会ってきたわ」
「はあ?」
狐につままれたような気分だ。
頭が混乱してきたぞ。
死んだという話はなんだったのだ。
爆発というのは作り話なのか。
行方不明ですらなかったとは。
「最近はいろいろとバタバタしてて、しばらくずっと会えていなかったの。だけどあのあと久しぶりに会ってきたわ。街でラングと話をしているうちに、そろそろ会いに行かなくちゃって思ったの」
事故による死亡や行方不明のために、会えていないのではなかった?
バタバタしていて忙しかったために、会えていなかったってこと?
「何よ、ラング。その顔は」
「いや、ちょっと。靴屋のオヤジの話と違ってたから」
「あまり多くの人には話していなかっただけよ。ラングみたいに直接訊いてくる人もいなかったし」
「妹って近くの寮に住んでるのかな」
「ううん、入院中なの」
そういうことだったのか。
爆発が起きて入院。これで話が繋がった。
なんにせよ、生きていて本当に良かった。
ムアンとルアンナの妹が別人だったってことも同時に確定。これについては少し残念だ。ムアンとルアンナへのサプライズは、結局ナシとなった。
それじゃ打ち明けよう。
「実はオレの仲間に記憶喪失者がいてさあ。ある偉い占い師が言ったんだ。記憶を取り戻す鍵となりそうな人物が、このソンクラムにいるかもしれないって。オレの仲間っていうのがルアンナにそっくりだから、もしかして妹だったりしないかなと思っちゃった。でも別人のようなので残念だ」
「そういうことだったのね。わたしの妹は、いま入院している一人だけよ」
この話には続きがある。
それはまたあとで。
◇
寮を出て街に戻る。
待ち合わせ場所でムアンたちと合流。
いっしょに昼メシを食べた。
このあともう一度、別行動をとるつもりだった。
冒険者スクールに顔を出しに行こうと思ったからだ。
しかしチャオプとムアンが冒険者スクールについてきたがっている。
それは遠慮してもらいたいところだが、チャオプが駄々をこねるのだった。
この世でスクールに通えるのは、ほんの一握りの者だけだ。普通の子供はスクールなどに行かない。小さな頃から働いて家族や両親を助けるものだ。しかもオレが通っていたのは、極めて特殊で珍しい『冒険者スクール』だった。見学したいという気持ちは理解できなくはない。
どうしようか。まあ、別に授業を受けに行くわけではなく、これまでのことを報告に行くだけなのだ。仲間がついてきたところで問題なかろう。ということで同行を認めた。
オレ、シェム、ムアン、チャオプ、イリガの五名で、冒険者スクールの門を越えた。裏手から校舎に入る。そして職員室のドアを開けた。
オレの顔を見て驚愕する教員たち。
特待生のオレは教員たちに顔をよく知られている。
学年主任の教員が駆け寄ってきた。
「死んだとばかり聞いていたが……。生きていたのか」
「はい、ご覧のとおりです」
この場にいる教員たちの前で、パーティー仲間に裏切られ、奴隷として売られたことを報告。皆、驚愕の面持ちで話を聞いていた。ただ残念なことに、きょうは校長と教頭が不在だった。
学年主任の視線がオレの背後に移る。
「後ろの彼女たちは誰かね?」
「ソンクラムに戻ってくるまで、同行してくれてたんです。だってオレはやっと十五歳、プロの冒険者になったばかりですよ? 一人では心細かったですから」
もちろんそんなことはない。
彼女たちは学年主任に会釈した。
学年主任も頭をさげ返す。
ほぼすべてを話し終えると、教員たちの多くがオレを囲んだ。
「とにかく生きていてくれて良かった」と教員A。
「話が本当だとすると、当スクールの名に傷が……」と教員B。
「でも彼らはそんなことをするような生徒ではないはずだ」と教員C。
いやいや、教員C。ヤツらはそんなことをしたんだ。
学年主任が言う。
「もちろん彼らにも話を聞かなくてはならない。だけどずっと冒険に出っ放しで、スクールにはあまり顔を出さなくなったからなあ」
女教員Dが学年主任のもとに歩いてきた。
「話の真偽は別としまして、この生徒はすでに除籍となっています」
「だからなんだ。彼はちゃんと生きて帰ってきた。除籍は取り消しだ」
「しかしそれでしたら規則上、校長の正式な許可が必要です」
「ふむ。除籍の取り消しに関し、正式には校長が来てからとなるか。だが……」
学年主任は女教員Dに背を向け、にこやかな笑顔をオレに送ってきた。
「せっかくだから授業に出ていきなさい。きょうは特別だ。後ろの皆も授業を見学していくといい」
なんと仲間たちの授業見学も許可してくれたのだ。
大喜びするムアンとチャオプ。イリガは相変わらず表情を変えない。
これから仲間を連れて、授業に顔を出しにいく。




