第43話 再会
寮母のルアンナと再会した。
「ラング、生きていたのね」
「もちろん、このとおりさ」
「冒険の途中で死んだって、知らせを受けたから……」
彼女の目から涙が溢れていた。
「その話、よく聞きたいな。あとで聞かせてよ。てか、周りの人が見てる」
「見てるから何」
「恥ずかしいじゃん。放してくれよ」
彼女の腕の締めつけが、いっそう強まった。
「長年いっしょにいたんだから、家族のようなものでしょ。ずっと弟のように思ってきたのよ」
オレだって姉のように思ってきたさ。
姉……。そしてここはソンクラム……。
ふと思ったことがある。ちょこっと探ってみよう。
「弟みたいに思っててくれて嬉しいし、ありがたいよ。ところで……実際、ルアンナって兄弟はいるのかな? なんとなーく妹がいそうなイメージがあるけど」
ルアンナとムアン――この二人はよく似ている。
もし姉妹だと言われたら、多くの人が信じてしまうだろう。
実際にそうならば……。
「ええ、そうよ。妹がいるの。雰囲気でわかっちゃうものかしらね。もうずっと会えてないわ」
妹がいる――。
やはりオレの考えは正しかったのかもしれない。
ニセ占い師のコールワットが言ってた人物こそ、ルアンナってことでいいよな?
だってルアンナには妹がいる。けれどもずっと会えていない。
ほら、ビンゴじゃん!
そうだろ? そうだろ? そういうことだろ?
ああ、おそらく……。これはムアンとルアンナへのサプライズになるぞ。
もしかするとムアンの記憶が戻るきっかけにもなりそうだ。
「それよりどうしましょう」困った顔のルアンナ。
「何を困ってるんだ」
「寮に四つのコテージがあるでしょ? ぜんぶ埋まっちゃったの」
「埋まっちゃったって、まさか……。オレが死んだことになったからか」
「そういうことよ。新しいメンバーがあのパーティーに入ったから」
オレが抜けて、もう入っただと?
あのコテージはすでに使われているのか。
「だけど、ラング。当面の寝泊まりは大丈夫よ。まだ入居前なの。不思議なことにね、入居が決まってもずっと寮には来てないわ」
「ありがとう、ルアンナ。でもそのことはいいんだ。実はいま連れがいてさあ。ソンクラムに帰ってくるまで、ずっといっしょだった仲間なんだ。それなのにオレ一人が……もとい、オレとシェムだけが寮に泊めてもらうことなんてできないから」
ルアンナはしばらく考え込んだ。
そして意を決したように表情がキリッとなる。
「ならば寮母のわたしが許可する。仲間も寮に連れてきなさい。ラングのコテージだったところに皆で泊まればいいわ。下手な安宿よりずっと広いでしょ?」
一つのコテージにいっしょに……? まあ、問題はなかろう。
いくら女の子たちとは言っても、雑魚寝の経験はあるんだし。
「ありがとう。それじゃ、ルアンナの言葉に甘えさせてもらうよ」
「ラングが生きて帰ってきたことについては、わたしがスクールに報告するわね」
「ううん。オレがスクールに行って、直接話してくる」
◇
いったんルアンナとは別れた。
寮に泊めてもらえることになったので、いまから似非パーティー仲間に伝えにいく。コテージは快適だし、宿代も浮くのだ。皆、大喜びするだろう。
彼女たちとの待ち合わせ場所へ向かう。
「おっ、ラング……? ラングじゃねえか。生きてたのか!」
オレを呼び止めたのは靴屋のオヤジだ。
靴を買うときはいつもそこを利用していた。
「オヤジさん! ご無沙汰……て、ほどでもないですね。ちゃんと生きてますよ」
ちょっとした立ち話が始まった。
プリーストたちに売られたという話は、面倒なので避けておいた。
話のついでに、ルアンナの妹について尋ねてみた。
もしかして何か知っているかもしれないと思ったのだ。
事実、靴屋のオヤジは知っているようだった。
「聞いたことはあるぞ。一時期、噂が広まったからな」
「噂? 教えてくれませんか」
困った顔をする靴屋のオヤジ。
言いづらそうな感じだったが、答えてくれた。
「ルアンナちゃんの妹は死んだんだ」
死んだって――――?
ルアンナは『ずっと会えていない』と言っていた。
あの言葉は、そういう意味だったのか。
もう少しオヤジに訊いてみる。
「いつ亡くなったかって、聞いてますか」
「三年前、冒険に出かけたときだ。ルアンナちゃんの妹は十三歳だった」
オレが十二歳の頃か。年齢はオレと一つ違いだったんだな。
「でも十三歳でしょ。そんな早くから冒険に?」
「ルアンナちゃんの妹は天才だったんだ。あのスクールでは『百年に一度の逸材』なんて言われていたそうだ。あのスクールへの入学は五歳のとき。冒険者としての活躍は十歳からだったぞ」
十歳から冒険? 信じられない。その話が本当だとしたら『天才』どころの話ではない。化け物だ。あのスクールが冒険をよく認めたものだ。それほど妹は偉大な人物だったのか。
学年が一つ違うだけなのに、そんな大天才の話は聞いたことがなかった。当然、特待生なのだろうからコテージを与えられていたはずだ。いったい、どの地区の寮に住んでいたのだろう。
ちなみに靴屋のオヤジの話によると、ルアンナの家はとても貧しかったが、大天才の妹のコネがあって、姉が寮母として働かせてもらえたらしい。ルアンナが寮に来たのは、彼女が十三歳のときだ。オレは十歳だった。
「でもまだちょっとしっくりこないんです。ルアンナは妹が『いた』とは言わず、『いる』って言ったんです」
「そこは深く考えるところじゃない。亡くなった妹がいるってことだろう」
「“冒険中の死”は、本当に事実なのでしょうか? たとえば単に行方不明だとか」
もし行方不明とかならば、その妹がムアンの可能性がある。
「凄まじい爆発だったそうだ。あの爆発の中、絶対に人が助かるわけがない。そう言われている」
つまり、遺体が発見されたわけではないってことだ。
まだ生存している可能性は、僅かながらも残っている。
ムアンこそルアンナの妹だ……そうあってほしい。
顔は結構似てるんだし。
だけど、どうしてムアンに角が生えていた……?
あの角はなんなのだ? ルアンナには角なんかないぞ。
とにかく妹かどうかについては、慎重に扱う必要がある。
もし推測が間違っていたら、冗談だとしても悪質すぎるからだ。
ルアンナの心を傷つけることは、絶対に避けなければならない。




